第098話 シロさんと他のウォルダム間の誤解
『どうしました? 暑いですか?』
シロさんが勘違いして私を抱きしめる力が弱まる。
その隙に私はシロさんから離れた。離れてからシロさんへお礼のつもりで体を摺り寄せて鳴いた。
『もう大丈夫なんですか?』
肯定するように元気な声で鳴く。
私は洞窟の出口へと向かった。シロさんとエメさんもついてくる。
『目が覚めたんだな。動いても大丈夫なのか?』
洞窟の出入口に到着するとラルドさんにも心配された。
元気に鳴くとテバサキが私の方へ飛んできて背中に乗った。
テバサキは元気そうだ。意外と寒さに強いのかもしれない。
広場へ戻ろうと洞窟の外へ出る。
『帰りたいのか?』
ラルドさんが私を掴み、広場へ向かってくれる。
他のウォルダムたちもついてきた。
雨はすっかり止んで晴れ間も覗いていた。
地面が濡れていて日が傾いていることから、私が眠っていたのは2、3時間くらいだと考えられる。
今後は寒さに要注意だね。
広場で降ろしてもらって地面に座る。
『寒かったら無理せずすぐに言ってくださいね? 夜は特に冷えますから』
『そうよ。私もおチビちゃんのこと温められるんだから』
シロさんとエメさんは私の近くに降りてきてそう言ってくれた。
かなり心配されている。
その後、シロさんは温かいままでいてくれていた。
少し肌寒いくらいで大丈夫ではあったんだけど、シロさんの厚意に甘えることにしてくっつくことにした。
『2人ともご飯を食べてなかったよね。食べられそうなら食べて』
『水も運べたらいいんだが、何かいい方法はないか?』
『人間が道具を使って水を入れているのを見たことがあります』
『道具か。探してみよう。どんな物か教えてくれ』
そのままゆっくりしていると、ウォルダムたちがあれこれシロさんへ話しかけていた。
『どうしてそんなに良くしてくれようとするんですか?』
『シロはおチビちゃんと一緒にいたいんだろ? それを叶えたいだけだ』
『ですからそれはなぜ?』
ウォルダムたちの申し出にシロさんは不思議そうだった。
『手伝いたいと思ったからだ。俺たちに手伝われることは嫌か? だが、1人でできることなんて限りがある。手伝わせてくれ』
『嫌ではありません。ただ、そんなことを言ってもらえると思わなくて驚いたんです。あなた方が嫌でないなら手伝ってくれると嬉しいです』
んー? 何というか、お互いが相手に嫌われていると思っているような会話してない?
私の気のせいじゃないなら、嫌味を言い合ってるふうでもない。
彼らの間に何があったのか分からないけど、その何かが原因で互いに嫌われていると思っているのかもしれない。それがシロさんへのよそよそしい態度になり、シロさんが孤立するという結果に繋がっていると考えられる。
『俺たちだって嫌だなんて思ってない』
明言されたことでシロさんは驚いたようにウォルダムたちを見つめた。他のウォルダムたちも肯定している。
『……私は、エメさんやラルドさん以外には嫌われていると思っていました』
ポツリとこぼされるシロさんの言葉に、次は他のウォルダムたちが驚くように
『まさか! 俺たちは別にシロを嫌ってるわけじゃない!』
『えぇ、もちろん。シロの方こそ、私たちのことが嫌いなんじゃないの?』
他のウォルダムたちがシロさんのことを嫌いじゃないということを聞けただけで凄くホッとした。
『とんでもない。私もあなた方を嫌っているわけではありません』
彼らはお互いを見ながら困惑しているようだった。
そんな彼らをエメさんとラルドは見守っている。
『俺たちを嫌ってない? そんなはずは。だって――』
彼らは元々はもっと大きな群れにいたと言う。
その群れのリーダーの息子がシロさんをいじめていたそうだ。
エメさんとラルドさんはシロさんを積極的に助け、他のウォルダムたちは見て見ぬ振りをしていたそうだ。
ビックさんはというと、リーダーの息子と戦って勝利し、彼に怪我をさせた。
息子はすぐに親へ泣きついた。
ビックさんは群れを追い出されることになった。
『俺が勝ったんだ。シロは連れていく』
その時にビックさんはシロさんを連れていくと言った。
リーダーの息子は嫌がったが、ビックさんと彼の戦いはただの喧嘩ではなくシロさんを賭けた勝負だったらしい。
だから彼がシロさんを引き止めることは許されなかった。
シロさんに文句はなく、ビックさんに従った。
ビックさんが抜ける時、エメさんとラルドさんもビックさんへついていくと名乗りを上げると何人かのウォルダムも続いた。
それが今の群れなのだそうだ。
それでどうして彼らが互いに嫌い合っていると思ったのか。
元々の群れがいた場所は緑も豊富で水場も近く、過ごしやすい環境だったことが災いした。
一緒に来たウォルダムたちは、シロさんがいじめられていても見て見ぬ振りをしていたため嫌われていると思っていた。
シロさんの方は、自分のせいで一緒に来たウォルダムたちがあまり良くない環境に置かれることになったから嫌われていると思ったそうだ。
嫌われているだろうから下手に関わって相手を不快にさせてはいけない。
そんなふうに互いが気を遣った結果がよそよそしい態度になってしまったらしい。
でもようやく、その誤解は解けた。
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