第097話 無自覚だった弱点

 目が覚めたら辺りはすっかり明るくなっていた。普段なら日光の眩しさでもっと早くに目が覚めるんだけど、日陰になっていたことで起きなかったみたいだ。

 その日陰の主はシロさんだった。シロさんが近くで横になっている。


 え、嬉しい。

 眠ってしまう前にシロさんがいたところは広場の北の端。私がいた場所は中央から少し西よりな場所。

 つまり、シロさんから私の方へ近づいてくれた。


 私は体を起こすとクルクル鳴いてシロさんに体を擦り付けた。


『起きたんですね。おはようございます』

『おはようございます。どうして近くにいてくれたんですか?』


 挨拶を返しつつ質問をしてみる。


『朝から元気ですね。朝食を食べないんですか?』


 やっぱりというか、悲しいことにシロさんとも言葉は通じなかった。

 お腹は空いたからエメさんたちが用意してくれた果物とテバサキがくれた干し肉を食べる。


 不審者たちは変わらずそこにいた。おかしなこともしていない。今のところ、探知魔法の範囲内にいるのは1さんと2さんだけだ。

 探知魔法をつけっぱなしで眠ってしまい魔力が3分の1ほど減ってしまっている。今は明るくて視界も良好だから探知魔法を切っておこう。

 広場の北へ移動して探知魔法に反応しない誰かがいたところを見てみる。そこには岩ばかりがあってライトの魔道具はもちろん人の姿もなかった。戦闘が行われたような痕跡もなさそうだ。


 これまでに探知魔法で調べられなかったのは昨夜の人とアントンさんが作った石の部屋だ。石の部屋は魔力が入らないほどの高密度の石で囲われていたために魔力が入らなかったからなんじゃないかと推測している。

 昨夜の人は何かに覆われていた感じはなかった。

 もし結界なんかを張っていたとするなら、その結界の形で探知魔法に穴が空くんじゃないかな。


 考えても分かりそうにない。

 魔法に詳しい人なら分かるんだろうかと思いながら私は北の岩場を眺めた。


 探知魔法を起動したまま眠ってしまったこともあり私の魔力は半分ほどになってしまっている。何かあった時に心もとないので仕方なく探知魔法を切ることにした。

 探知魔法がない状態で広場の外を歩くのは怖い。かといって昨日のように遊ぶ気分にはなれない。

 ひとまずゆっくりしていよう。


 シロさんやウォルダムたちを眺めてのんびりと過ごして1時間くらいが経った。


 体に当たる冷たい雫。

 ポツポツと降り始め、あっという間に土砂降りとなった。

 雨風をしのげるような場所は広場にはない。


 人間と違ってディナルトスは変温動物だ。体外の温度に影響を受ける。


 この広場は高いところにあるせいでただでさえ気温が低い。

 その上、雨に濡れ風も強いせいで体温がどんどん下がっている気がする。


 体温が低くなるとどうなるかまだ分からないけど、爬虫類って確か寒いと冬眠するよね?

 心なしか何だか眠くなってきたような気がする。

 こういう時、どうしているんだろうとウォルダムたちを見ると特に何もしていなかった。


 テバサキは大丈夫かと目を向ける。酷く濡れた状態で体を縮こませているように見えて何だか寒そうだった。


 私はテバサキに近づくと周囲に結界を張った。

 それでも寒いけど、雨に打たれ続けるよりはずっと楽だ。


 眠くなってきたのは勘違いじゃなかった。どんどん眠くなってくる。

 まずい気はするけど頭が回らない。


『チビさん? 何だか元気がないですね』


 近くにいたシロさんが私の様子がおかしいことに気がついてくれた。

 私は不調を伝えるためにも弱々しく鳴いた。


 シロさんが焦ったように何か話しかけてくれている。

 でも、眠気に抗えなくて私は目を閉じた。




 何だろう。ホカホカしていて暖かい。

 目を開けると何も見えず暗闇だけが広がっていた。


 え、何?


 困惑しながらも探知魔法を発動させる。

 私はシロさんに抱え込まれていた。そしてシロさんがとても暖かい。

 シロさんは魔力を使っているようで微かに魔力の反応がある。


 どうやら私たちは洞窟にいるようだった。近くにエメさんがいる。

 洞窟の出入口はそう遠くないところにあってラルドさんや数体のウォルダムがいる。

 テバサキもその近くにいる。


 広場からそう遠くはない場所で良かった。広場まで探知魔法が届き、そこにはビックさんなど何人かのウォルダムたちがいる。

 不審者たちは特に動きなし。

 雨はもう降っていないようだった。


 私は目を覚ましたことを伝えるためにはっきりと鳴いた。


『良かった。目を覚ましたんですね』

『ごめんね。寒かったのね』


 私の鳴き声を聞いたシロさんの嬉しそうな声とエメさんの申し訳なさそうな声が聞こえる。

 私を抱きしめる力も少し強くなった。

 苦しくはないし、より密着することでぬくぬく度がアップした。

 それが凄く心地の良い暖かさで冬の布団や炬燵こたつのみたいだ。


 でも、ずっとぬくぬくしているわけにもいかない。

 ここにいるとローレンさんたちやドルフたちが私を見つけにくい。


 シロさんの反応や運ばれても目を覚まさなかったことを考えるとただの寝落ちじゃなかったらしい。

 そう何日も経っているとは思いたくないけど、広場へ戻っておきたい。


 私はシロさんを傷つけないようにしながらもがいた。

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