第096話 静寂な夜の不可思議な出来事
どれくらい眠っただろう。
意識が浮上する。
ぼんやりとしたまま、エメさんの
時計に目をやるように何も考えず探知魔法に意識を向ける。
この広場へやって来ている集団があった。
数は20、そのうちの17人は人間のようで残り3人は魔族だ。
一気に目が覚めた。
下からここへ上る3つの道へそれぞれ6人ずつ向かっているようだ。各班に魔族が1人いる。班の先頭にいるのが北と西の2人、南班の魔族は最後尾にいる。魔力量は魔族としては普通くらい。
彼らが目指しているであろう道までの距離は100mもなく、今もジリジリとこちらへ近づいてきている。
各々が何か魔道具を使っているようで球体の魔力に包まれている。
あっこれまずい。
不審者たちの反応もある。1さんと2さんは南の道、3さんと4さんは西の道の方にいてそれぞれ班の進行方向にある木の上や茂みの中にいる。
合流してこっちに来るつもりだったりするのかな?
ウォルダムたちはみんな眠っていて見張りなんていない。
気づいて起きてくれればいいんだけど、起きそうな気配もない。
距離があるうちに騒いでみんなを起こした方がいいな。
そう判断した私は広場全体に大きな結界を張った。この状況で勿体ぶってる場合じゃない。
悩んだけど、中から出られるように設定した。いざという時には飛んで逃げられるかもしれないから。
みんなを起こそうとした時、不審者たちはそれぞれの班へ攻撃を始めた。
……ん?
奇襲だったことやそもそもの実力が違う。こちらへ向かっていた怪しい集団はあっという間に全員が動かなくなった。
それも、3つの道全てで。
全滅するまでが1番速かったのは北の班だ。全員が急に倒れたかと思うとそのまま動かない。彼ら以外には人間も魔族の反応はない。生物の反応はいくつかあるけど、彼らへ近づいて何かしているようなものはなかった。
それどころか、彼らが使っていた魔道具以外に魔法が使われたような反応もない。
なのに、彼らは倒れて今もそのままだ。
次に全滅したのは南の班だ。そうは言っても西の班と10秒も違わない。
どちらの班も魔族が真っ先に狙われ、あっという間に倒されていた。その間にもう1人が人間を魔法で拘束し、無力化までそう時間はかからなかった。
1さんと3さんは身体強化を自分にかけてから鞘に入ったままと思われる剣を容赦なく叩きつけていた。
2さんは氷、4さんは土の魔法で人間の足を固定した。2さんは動けない彼らを杖で殴って意識を奪い、4さんは口の開いた皮の袋を放り投げ風の魔法でその袋の中に入っていた粉をばらまいた。それを吸い込んだ人たちは少ししてから倒れてしまった。
怪しい集団は何もできないまま制圧された。
私は北の崖際に近づいて頭だけを出すと下を覗きながら耳を澄ませた。
空が分厚い雲に覆われているせいで月明かりすらなく真っ暗だ。しかし、その暗闇の中に6つの小さな光が見える。懐中電灯のような魔道具だろう。
そのうちの1つが地面に落ちたはずみでくるくると回転している。
魔道具が照らし出した光の中に一瞬だけ、立っている人物の足が見えた。黒い革の靴、黒いズボンに黒い外套らしき裾。どれもとても上質そうだった。大きさから考えておそらく男性。
そして、その足の爪先は私がいる方向を向いていた。
背筋に冷たいものを感じながら探知魔法と照らし合わせてもその場所にその人物の反応はない。
探知魔法に反応しない何者かがそこにはいた。
回転していた魔道具が再び男性がいた方向を照らす。けれど、もう何も見えなかった。
彼の足音などは一切聞こえなかった。
こっわ!
え、何。幽霊!?
そんなわけがない。でも、得体が知れないという点は幽霊と同じようなものだ。
結界を張って閉じ込めてみる?
なんて一瞬思ったけど、閉じ込められないような気がするし下手なことはしない方が良さそうだ。
その後、様子を見ていると不審者さんたちは倒れている怪しい集団や荷物諸々を西へ運んで行ってしまった。北の分は西班を制圧した3さんと4さんが運んでいた。
これは助けてもらったってことでいいのかな?
いやでも、不審者たちは第3勢力かもしれない。怪しい集団の邪魔をしたかったというのが結果として私たちを守ることになったのかもしれない。
少ししてから荷物を運び終わったらしい3さんと4さんは南下し探知魔法の外へ出て、1さんと2さんも定位置に戻ってきた。
やっぱり守ってくれてるのかな?
ローレンさんたちが私のことを報告して守るように言われた人たちとか?
でも、それなら守るんじゃなくて迎えに来るか。待つ理由が分からない。
広場の中央から少し西へ移動する。そこにはエメさんとラルドさんが眠っていた。
彼らの近くで横になり、そのまましばらく様子見を続けたものの特に何かが起こることはなかった。
虫の声や木々のざわめき、眠っているウォルダムたちの寝息くらいしか聞こえないほど静かだ。
他のウォルダムが起き始める時間になり、気が緩んだせいか眠気に襲われ私の意識は遠くなっていった。
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