第079話 隠し部屋
「凄いぞラナ!」
駆け寄って来たローレンさんは明るい口調で私を褒めて体を撫でてくれた。
そこでふと気がつく。
別に体当たりしなくても爪で引っ掻くとかもっといいやり方があったんじゃないかと。
……まぁ、結果オーライだよね!
「幻覚か擬態効果のある扉だったんですね」
他の人も隠し部屋へ入ってくる。
ローレンさんやタタさん、シークくんは入口を警戒し、アントンさんとミラさんは魔法陣を観察していた。アルさんはアントンさんたちの近くで何か起こっても対応できるようにしているようだった。
実際、ペタペタと階段を下りてきている軽い足音が聞こえる。新しく作られた子たちが来ているんだろう。
黒い粘液が集まって現れた彼らはシーナちゃんやシークくんと見た目は似ているけど体の中に魔石はない。黒い粘液の中にも魔石がないから、本来は魔石を必要としない種族なのかもしれない。
「……この魔法陣ね。複雑で解説し切れないから絶対とは言えないけど、発動している魔法の内容から考えて罠はないと思う」
ミラさんは魔法陣へ近づきいくらか解析したらしい。
アントンさんも頷いている。
「だったら壊せばいいな。ローレンさん、石は砕けますか?」
「はい。任せてください」
魔法陣は一部が破損しただけでは停止しないものもあるそうだ。だからローレンさんとも協力して魔法陣を攻撃することになった。
アルさんは剣を逆手に持ち、もう一方の手を添えると魔法陣の描かれた石造りの床に勢いよく突き刺した。
ローレンさんも拳を魔法陣へ叩きつける。
金属と石がぶつかる甲高い音が辺りに響いた直後に鈍い音がして床が割れた。
アルさんの剣もしっかり床に刺さっていたけど、ローレンさんの拳の破壊力はその比じゃなかった。
たぶんだけど、ローレンさんの拳の方がアルさんの剣より威力が弱いとかじゃなくて衝撃の伝わり方とかの違いが影響しているんじゃないかな。剣だと直線で、拳だと広範囲みたいな。
2人が魔法陣に攻撃を加えて床が割れた瞬間、魔法陣は輝きを失った。
物は試しと探知魔法や結界を発動させると無効化されなくなっていた。
そして、発動させた探知魔法がこちらへ向かって来ている複数の反応を捉えた。
人型の方は階段を下りてこちらへ向かって通路を走ってきているところだ。粘液の方はまだ階段の途中でここまで来るには時間がかかりそうだ。
「人型が来てる。液体の方はまだだ。セオロアの姿はない」
タタさんからの報告が入る。
「どうする?」
「可能なら拘束だ。こちらを殺傷する様子を見せた時にはその限りじゃない。全力で迎え撃つ。タタはシーナを守ってくれ」
了承したタタさんがシーナちゃんを抱えて私の上に乗った。
「ミラ、水蛇で地上へ戻れそうか?」
「行ける。中心部は真水、外側は塩水に調整できるけどどうする? それなりの量の塩水か塩があること前提だけど」
「あります。この量の塩があと6個分」
「それなら足ります」
「よし、なら準備してくれ。アントンさん、その塩を売ってください」
「お買い上げありがとうございます」
アルさんの言葉でミラさんは目を閉じて意識を集中した。数秒後、目を開けて掲げた杖の先から水の塊が現れ伸びていく。先頭が蛇の頭のように三角形へと形を変え、胴が3mはある太い水の蛇がどんどん伸びていく。
アントンさんはリュックから取り出して持っていた木の容器の蓋を外して容器ごと水の蛇に入れた。同じように残り全ても入れていく。
「ローレンさん、俺と一緒に人型への対処をしてください。アントンさん、それが終わったらこっちを手伝ってください。シーク、シーナを守れ」
アルさんが指示を飛ばし、それぞれ返事をしながら移動したり構えたり戦闘態勢に入る。ローレンさんの肩に乗っていたテバサキは危ないからと彼の指示で私の方へ飛んで来ると私の頭の上に乗った。
広間の入口にはアルさんとローレンさんが立ち、私に乗ったタタさんとシーナちゃんが中央付近、奥に魔法発動中のミラさんとアントンさんがいる。
そして、少年少女たち7人が広間へ入って来た。
テバサキがこれまでアントンさんから教えてもらっていた停止の言葉を話すが、彼らが止まることはなかった。きっとセオロアさんが何か対策をしたんだろう。
彼らはローレンさんたちとアルさんへ向かって行った。
動き自体はシークくんと同様に素人そのもの。動きは大振りで無駄が多く、直線的で連携などもない。捕まえようとしているのか拳を振りかざしたり蹴ったりしようとはせず、腕を掴もうとしたり両手を広げて抱き着いて来ようとしている。シークくんと同じように呼吸は必要ないようで、呼吸音や呼吸による体の動きはないように見える。
戦闘慣れしている2人は余裕を持って
長方形で人が1人横になれるくらいの大きさといい、まるで石の棺だ。
それはアントンさんの魔法だった。
ローレンさんたちが何人かを相手にすることはできていたけど2人が走り抜け私たちの方へと駆けてきた。
タタさんの指示で移動し始めた時、こちらへ来ていた2人のうちの1人へ向かってテバサキが飛んで行った。彼女の近くで羽ばたき足止めをしている。
危ないと思った時には、テバサキがもう1人に捕まってしまった。胴体を両手で掴まれている。
「キャー! 痛い! 放して!」
バタバタともがきながら羽をばたつかせて声を上げるテバサキ。
その直後、少女はテバサキから手を放した。
「ごめんなさい。怪我、した?」
それだけでなく謝罪までした。
驚いて彼女のことを見ていると、彼女ともう1人を囲うように足元から石の箱が伸びてきて彼女を閉じ込めてしまった。
「テバサキ、大丈夫?」
そこへアントンさんがやってきた。
「大丈夫。痛いの嘘」
テバサキはやって来た彼の差し出した腕に乗った。
その後、再び私の頭の上に戻って来た。
それを見たアントンさんはローレンさんたちの元へ向かった。
「彼女たちから離れてください!」
アントンさんの言葉にローレンさんとアルさんが従う。
彼らに向かって行こうとする少年少女たちは現れた石の箱に閉じ込められた。
「それなりに頑丈ですが、どれくらい閉じ込めておけるか分かりません。密閉していますがシークくんと同じであれば彼らに呼吸は必要ないので大丈夫でしょう」
そう言って彼は微笑んだ。
今更だけど、テルミアの森でアントンさんがシークくんに呼吸は必要かって質問した意味が分かった気がする。
たぶんだけど石の棺に入れても問題ないか考えていたんじゃないかな。
そうしている間にミラさんの水の蛇は長さ15mほどになったところで杖の先から離れた。
凄い、こんな魔法もあるんだね。
「この子の中に入って上まで戻る。約20分効果が続く水中呼吸の魔法をかけるからこっちへ来てください。切れそうになってもまたかけるので安心してください」
ミラさんの言葉に私たちは彼女の近くへと集まった。
私も魔法をかけられたけど今のところ特に変化は感じられない。
「シーナ、怖いだろうけど我慢して欲しい。ラナも大丈夫だから暴れないでくれよ」
「大丈夫。ありがとう」
彼女からしたら周囲に硫酸があるようなものだから怖いだろうね。でも、気遣ってくれたことが嬉しいのか彼女の声音は嬉しそうだった。
私はタタさんに撫でられた後、彼の指示を受けて私は水の大蛇の中へ入った。
もちろん、慌てたり暴れたりはしない。水の中に入って少ししてから呼吸をしてみると問題なく行えた。
水の中で呼吸ができるようになる魔法って凄いし面白いね。私も使えるなら使えるようになっておきたいな。でも魔法ってどうやって覚えるものなんだろう。
私が落ち着いていることを確認して他の人も水の大蛇の中に入って来た。
「大丈夫か?」
ローレンさんがシークくんに声をかけると彼は頷いた。
全員が水の大蛇の中に入る。水の大蛇は動き出し、通路を進み始めた。
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