第078話 いざ地下施設へ

 セオロアがシークくんへ問いかけると、私が踏み台にした木の板の近くにあった黒い粘液が動き出した。

 それは人の形となりやがてシークくんになった。


「手伝えと言われましたが、誰を手伝えとは言われていません」


 アルさんたちは警戒しながらそのやり取りを見ている。


「なるほど、では私を手伝ってください」


 セオロアの言葉に空気がピリついた気がした。


「それはできません」


 これまでの彼を見ていると了承するだろうと思った。

 けれどそれは良い方向へ裏切られた。


 理由を尋ねるセオロアに彼が口を開く。


「あなたが私にアルバーノ様たちを連れてくるように言った時、最悪の場合でも話を伝えればそれでいいと言いました。必要なら私の核である魔石を差し出しても、と。あなたにとって私は、その時にいなくなっても良かった存在。対して彼らは――」


 シークくんはローレンさんやアルさんたちを見て微笑んでから再び正面を向いた。


「『そんなことはしないで。もっと自分を大切にしなさい』と言ってくれました。私はどちらの考えが正しいか分かりません。でも、だからこそ私を気遣ってくれた方の手伝いをするべきだと判断しました」


 あまり自分がないような印象で淡々とした口調ではあったけど、シークくんも色々と考えてくれていたようだ。


 1つ返事でセオロアの言うことを聞くんじゃないかと疑ってごめんよ、シークくん。

 信用しきれるかと聞かれたら困るけど、私たちの味方でいてくれようとしてくれている自体はとても嬉しい。


「分かりました」


 感情を感じさせない声音が聞こえた後、黒い粘液が一斉に私たちへ向かってきた。

 ように思ったけど、良く見れば私たちの周辺にある黒い粘液は動いておらず、少し離れた粘液だけが動いてこちらへ来ている。


「何かしたいことがあるのでしょう? 少しくらいなら時間を稼げます。行ってください」


 いやいやいや! そんな分かりやすい死亡フラグを立てないで!

 ローレンさんたちもシークくんを置いていったりしないよね!?


「置いていけるわけがないだろ!」

「駄目だ。残るくらいなら一緒に来い」


 不安に思っていたけどローレンさんやアルさんの言葉にシークくんは了承を返した。


 地下へ通じる階段へと目を向ける。

 石造りらしい通路には、照明の魔道具が設置されているおかげで結構明るい。幸いにも黒い粘液は入口付近にしかなく、シークくんのおかげか動くこともなく止まっている。

 ただ、黒い粘液を操れるのは黒い粘液と接触していることが条件で離れるとできなくなるそうだ。

 それでも彼を置いていくことはできず、私たちは全員で階段を駆け下りていった。


「魔法を使えなくしている仕掛があるとすれば恐らく地下だ。それを見つけて破壊する」


 階段が終わり、真っ直ぐに延びる廊下が見えるようになった。

 廊下にも照明があって探知魔法で調べた時と同じで廊下を挟んで左には1つ、右には4つの扉が並んでいた。


 そして、廊下の突き当たりは行き止まりになっている。

 少なくとも見た目は。


「魔力を吸収して魔法を無効化するなんて、大規模な仕掛が必要なはず。魔道具でも魔法陣でもかなりの大きさになると思う」


 ミラさんの言葉にアルさんは頷いた。


「どこかに隠し部屋があるはずだ。手分けして探そう」


 私にはすでに心当たりがある。

 問題はどうやってそれを伝えるかだ。

 廊下の突き当たりに体当たりしてみる? でも、タタさんとシーナちゃんが乗っていて危ないから2人には降りてもらおう。

 振り落とすのは危ないから、その場に座って見ることにした。これで降りてくれないなら軽めに暴れてみるしかないかな。


「無茶させたか?」

「怪我をしていたようには見えませんが……。何か訴えたいことがあるのかもしれませんね。降りてください」


 タタさんが私の首を摩ってくれる。アントンさんは私の足や体を見た後、タタさんに私から降りるよう促してくれた。

 彼はシーナちゃんを抱えて私から降りてくれた。


「大丈夫?」

「ククッ」


 シーナちゃんが心配そうに私の首を撫でてくれたので、私も返事をして彼女の体に頭を摺り寄せた。


 任せてシーナちゃん。お姉さん、頑張るから!


 私は立ち上がると駆け出した。

 タックルとかこれまでの人生で1度もしたことないし、上手くできるか分からないけどやってみるしかない。壁を崩せなかったとしても、何かあるんだと気が付いてくれればそれでいい。


 どんどん近づいてくる石の壁。ぶつかったらとても痛そうで少し怖い。


 私だってラテルの騎士団に所属しているんだ。ドルフたちだって同じ状況ならきっとこうするだろう。あの時こうしていれば良かったっていう後悔はしたくないし、ドルフたちに顔向けできないことだってしたくない。

 そうなりたくないなら、頑張るしかない。


 そう自分に言い聞かせ、恐怖に負けないよう奮い立たせた。

 そして、私は勢いを活かしながらぶつかる直前で体を横にして壁へとタックルした。


 ドカッという鈍く大きな音を立てて何かが吹き飛ぶ。

 私はタックルの勢いを殺しきれずに壁の先へと入った。


 石壁にぶつかったという感覚ではなく、もっと脆い何かにぶつかった感じだった。身体強化していることもあってそれほど痛くなかった。

 顔を上げると大きな空間が広がっており、床には広間いっぱいに描かれた魔法陣があった。しかもその魔法陣は発動中だと言わんばかりにぼんやりと光っている。

 それ以外には照明器具くらいしか見当たらない。


 そして私の目の前には、蝶番の外れた木製の扉が落ちていた。

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