騎獣転生
赤月 朔夜
第01章 ラテル襲撃事件
第001話 これまでのこと
さんさんと降り注ぐ日光、青々とした芝生。
木陰で涼みながら地面に横たわっている私。
社会人の時にはすっかり消えてしまったのんびりとした時間だ。
牛を囲い込み噛みついて肉を食いちぎったり爪で襲いかかってる、ラプトルにそっくりなでかいトカゲが視界の端にいなければな!
はぁ、なんてジュラシックな景色。恐ろしいったらないわ。見慣れたけどね!
なんて考えながら私は周囲を見回した。誰も見ていないことを確認してから木のエサ皿に入った生肉を火で炙ってから食べる。
そして喉が渇いたなー、と隣にある水の入った箱に顔を突っ込んで水を飲む。満足して顔を上げるとラプトルにそっくりなトカゲ顔が見えた。
鱗で覆われた濃い緑色の皮膚、金色で縦長の瞳孔、口を開ければ鋭い牙が並んでいる。
そう、私です。
何がとち狂ったのか私もラプトル的な生き物なんだよなぁ。
これには聞くも涙、語るも涙の事情があったりなかったりする。
えぇ、えぇ。わたくしにはこの生物になる前の記憶がございます。
地球という星の日本という小さな国の
そして気が付くと辺りは真っ暗で、手探りで周囲を探ると何か固いものが私を囲んでいるではありませんか。何だか体の感覚もおかしく、必死に手を動かして外に出ようともがいたわけです。
私の周囲を囲む何かを拳で何度も叩きました。その何かは思ったよりも脆くてすぐに穴が開きました。穴からは光が差し込んできたので穴の周囲を叩いて穴を大きくしていきました。やがて大きな隙間が出来たので穴から外を覗いてみると、巨大な顔があるではありませんか!
しかもその顔は金髪に青い目という外国人フェイス。
その外国人の方が穴を大きくして私を掴みました。
すわ巨人に食べられる! と思った次第ですが、嬉しそうな顔をした彼は私を柔らかい布で包みどこかへ運びました。
金髪青い目のイケメンのスマイルは破壊力が凄かったです。
私が運ばれた先は木箱の中でした。底には布が敷かれていて、ふかふかのもふもふです。壁は高くてとても登れそうにありません。
というかなぜか立てずよつん這いの状態でした。そして視界に入ってくる私の手。指は3本しかない上に人間のとは違って鱗で覆われており尖った爪が見えるではありませんか。
おやおや? と思って後ろを向いて自分の体を確認しましたよ。体にもやはり鱗があって、なんと尻尾までありました。
そう、私は人間ではなくなっていたのです。
いったい何が起こったのかと昨夜のことを思い出します。
昨日は会社での飲み会があって、ふらつく足取りで帰路についた記憶があります。というか店を出てからの記憶がさっぱりありません。
もしやこれは夢なのだろうかとも考えました。けれども夢は一向に覚めることはなく、私はこれが現実なのだと理解しました。
木箱に入れられてしまった私ですが、金髪イケメンが私の世話をしてくれています。
ただ、ご飯として虫やミミズのようなニョロニョロした何かを目の前に持って来られても困るんですよ。
でもお腹は空きます。食べなきゃいけないかなぁなんて思っていると虫でもミミズのようなものでもない果実のようなものが用意されました。これならばと食べてみれば少しの酸味と甘味が感じられました。非常に美味です。
ラプトル的な生き物に生まれ変わっていたことにも驚いたんですが、もう1つ驚いたことがあります。
なんとこの世界、魔法なるものが存在している世界だったんです。
あれは、私のエサ皿に小分けにされたお肉が果肉と混ぜられて出された時のことです。
虫やミミズ、ネズミなどを食べようとしない私に肉類を食べさせたかったようです。私のエサ皿に切られて小さくされたそれらの部位と果実が混ぜられたものを出されました。虫とミミズっぽいのは切られていても無視しました。しかし、切り分けられた小さな生肉には興味を持ちました。
いやー、「焼けたらいいのになぁ」なんて考えたらその生肉がバーニングされて焼肉になった時はびっくりしましたね。それもいい感じの焼き具合。
自分以外がこういうことをやっているところはまだ見たことがありません。
もし自分だけが使えるとすれば、色々調べられるかもしれない。実験をされるかもしれない。
こんなの世話役の人に見られたらヤバくね?
という結論になりました。
ひとまずは魔法は人前では使わないと心に決めました。
ともかく、そんなこんなで世話をされた私は、小学校低学年の子どもくらいのサイズにまで成長しました。
私の世話をしてくれている金髪イケメンことジナルドさんに連れられ、壁に囲まれ地面が見える広場に出されたかと思うと出入り口が締められました。奥の扉が開くと兎が10羽くらいいて、私は可愛いなぁと見ていました。しかしそこへ突っ込んでいく私と同じ種類と思われるラプトル的な生き物。
逃げるも捕まって食べられる兎。
少し成長してからは私に似た彼らと会う機会もあったので驚くことはありませんでした。
ただ、今回のようなことは初めてです。
グロ耐性のない私が硬直している間、まだ生きている兎たちが散り散りになって逃げています。当然ラプトルたちも追いかけます
私は1羽でもいいから兎を助けようと近くの兎へ向かって駆け出しました。
どうやって助けるかまでは決まっておらず、とりあえず捕まえることしか頭になかったです。
兎を追い詰めた私は牙が刺さらないように兎をくわえるとそのまま広場に立っていました。
兎は暴れましたが大した抵抗ではないのでくわえておくのは楽でした。しかしキュイキュイという憐れな鳴き声に酷いことをしているような罪悪感がありました。
きっと狩りの練習でもさせられているのでしょう。だから時間が経過すれば元の部屋に戻されるはずだと考えました。
私の思惑は上手くいったようで、やがて出入り口が開くとそこにはジナルドが立っていました。私はジナルドに近づいてくわえたままの兎を彼の体に押し付けます。
兎は回収されました。それからその兎は私の部屋の同居人になりました。
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