第03章 リステラ症候群

第022話 雨季と本の祭り

 パタパタと天井から軽い音が響く。そしてその音は止まることなく鳴り続けている。しかし不快さはなくむしろ心地が良い。


 ラテルは雨季に入った。

 1週間の半数は雨が降るし、晴れていてもいきなり土砂降りになったりもする。

 それが約3ヶ月間続く。


 雨はそんなに嫌いじゃない。

 でもお出かけの機会は減り、小屋にいる時間が長くなってしまうので退屈だ。


 ラテルに住む人たちも外出できない間は退屈なのか、雨季が始まると本の祭りが開催される。

 雨が降っても大丈夫なように、大きなテントが張られた広場で様々な本が売り出される。本の朗読会や紙芝居、演劇なんかも行われていたことがあった。


 お出かけの途中で見かけるだけで最後まで見れないのは残念だけどね。


 パリパリと葉野菜を食べているルナに癒されながら私は目を閉じた。


 小屋の扉が開いた音で目を開ける。


「ラナ、散歩に行くぞ」


 そこにはドルフが立っていた。

 いつの間にか雨の音は聞こえなくなっている。

 私は喜んでドルフについていった。


 小屋の外に出ると強い日差しに晒される。雨は上がりすっかり晴れていた。


 手綱を引かれながら通りを歩く。本の祭りが開催されているのか普段よりも人が多いように感じる。

 通りを進んでいると本を朗読しているであろう声が聞こえてきた。




「ある国に病弱で体が弱いリステラという名前の王女様がいました。

 リステラは不治の病にかかっており、城のベッドの上で一日の大半を過ごしています。

 ある日のことです。開けていた窓から外を見ていたリステラの元に鷹に襲われた小鳥が窓の中に飛び込んできました。


 リステラは小鳥を助け使用人を呼び手当をさせました。

 小鳥は怪我をしていて飛べそうにありません。

 可哀そうに思ったリステラは小鳥の世話をしました。


 リステラの甲斐甲斐しい世話もあって、小鳥の怪我はすっかりと治りました

 けれども小鳥が飛び去ることはなく、リステラの傍に残り、その綺麗な鳴き声で彼女を楽しませました。

 彼女たちは友達となり仲良く過ごしていました。


 しかし、そんな幸せな日々は長く続きませんでした。

 不治の病はゆっくりと、しかし確実に進行し、リステラを苦しめます。

 このままでは長くは持たないでしょう。


 どうすればリステラを助けられるか小鳥は考えました。

 小鳥の正体は魔女でした。小鳥に変化して出かけたところを鷹に襲われたのです。


 魔女はリステラを助けるため、正体を明かして王や王妃にリステラを眠らせることを提案しました。


 眠らせている間にリステラの病の治療法を探す。

 どれほどの時間がかかるかは分かりません。


 王はリステラの病を治す方法を見つけた者に褒美を取らせるとお触れを出しました。


 ところ変わって、ある少年は夢で見た少女に一目惚れをしました。

 夢の少女はリステラでした。何の偶然か、リステラの夢の中に少年が迷い込んでしまったのです。

 夢の中で少年はリステラと会話し、共に遊びました。

 夢では何もかもがリステラの思うがままです。海の底へも空の彼方へも行くことができます。苦しいことは何もありません。


 そしてある時、リステラは少年に自分の事情を話しました。

 少年はリステラの言うことを信じ、リステラの病を治すための研究を始めます。


 何年も経ち、少年は立派な青年へと成長しました。

 それでも青年は諦めずに治療法を探します。

 そしてついに、青年は治療法を見つけ薬を完成させます。


 眠ったリステラに薬を与えると、たちどころに病魔は去りました。

 魔女はリステラにかけていた眠りの魔法を解きました。


 目を覚ましたリステラは成長し、それはそれは美しい女性となっていました。


 王は見事リステラの病を治した青年に褒美として何が欲しいかと尋ねました。

 青年はリステラが欲しいと答えました。


 リステラも青年と夢の中で会話していたことを覚えていました。

 青年の告白を喜び受け入れます。


 魔女は2人に祝福を与え、その後も幸せに暮らしましたとさ」




 若い男性の声で語られた童話が終わった。パチパチと拍手が聞こえる。

 言葉に詰まることもなく、速さもちょうど良くて聞きやすかった。抑揚もあってとても引き込まれる語りだった。


 嬉しいことに進行方向から聞こえた。なので今の童話を語った人を見れるかもしれない。

 私はワクワクしながら歩いた。


「夢の中ではどんなことでもできるのに、どうしてリステラは目を覚まそうと思ったの?」


 幼い女の子のものと思われる声が聞こえた。


「そうですねぇ……私はリステラではないので違うかもしれませんが、どんなことができたとしても1人なのは寂しかったのでしょう」


 男性は困ったように笑った。


「さて、次は何を読みましょうか」


 声の主は20代後半ほどの年齢に見える男性だった。肩につくくらいの薄い青色の髪にアイスブルーの瞳。茶色のローブを羽織った細身のイケメンだ。ローブの下に着ているのは白を基調とした軍服っぽい。

 顔には優しげな微笑みを浮かべている。


「雨に関してのお話はありますか?」


 質問をした女の子とは別の声が聞こえた。その女の子は目をキラキラさせて男性に尋ねる。


「ありますよ。ではその話をしましょうか」


 コホン、と咳払いをした男性が次の物語を語り始める。


「あるところに雨が降らず困っている国がありました。国民は雨が降るように願いました。その願いを聞いた、そそっかしくてお節介なところのある神様は国民を哀れに思って雨を降らせてくれました」


 あー、これは神様の尺度で判断して大変なことになる物語だろうな。なにせ、そそっかしい神様らしいし。


「国民は雨が降ったことに喜びました。しかしその雨は3日経っても止みません。1週間経っても止みません」


 思った通りの展開になって私は内心で苦笑いした。

 続きは気になるけれど、彼から結構離れてしまったので聞こえなくなってしまった。


 残念に思いながらも気持ちを切り替える。町を出た私は久しぶりのお出かけを楽しむことにした。

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