番外編 プレゼント大作戦
ラナが他のディナルトスの匂いを付けて帰ってきて数日が経った。
水浴びを行ったこともあり今はその匂いはしていない。
その気になれば急所とも言える喉元に噛みつくこともできる。それを拒絶せず匂いを付けているということは、それだけ信用していたということだ。
出かけた時に出会ったディナルトスはそんなに頼りになったのだろうか。
『どうすればラナの気を引けるだろう』
これではいけないとラナにアピールを行うべく、ガルはギルとグルに尋ねた。
『美味しい物を渡す』
『ラナの好きそうな物をあげてみたら?』
ギルとグルは答えた。
前に狩った獲物をラナに差し出した時に全力で断られた記憶があるためガルはグルの案で考えることにした。
『ラナの好きな物は何だろう』
ガルとグルは考え、ギルは興味無さそうに欠伸をしている。
『毛が生えた生き物が好きなんじゃないかな?』
グルはルナを可愛がっていたりドルフに甘えるラナを思い出してそう言った。
『確かに。よし、毛を集めてラナにプレゼントしよう』
外へ出た時に見た生き物で良さそうな毛は無いかと考える。
『あれが良さそうだ。角のある熊』
森の近くで角がある大きな熊を見かけた。毛はふかふかしていそうだし、大きさもあるからきっとラナも気に入るだろう。
『いいな。食べたいと思ってた』
ラナへのプレゼントについてガルとギルが話しているのを聞いたグルはある少女のことを思い出した。
町が襲われた時にガルと共に助けた少女だ。子どもには避けられがちで少女もそうだったが、助けてからは通りを歩いている時など会った時、親に抱えられてグルの頭を撫でるようになった。
ある時、母親に抱えられた少女がグルに1輪の紫色の花を差し出した。
「どうぞ」
ニコニコと嬉しそうに花を向けられたグルは良く分からず、その花をパクッと食べた。
少女は呆気にとられたように目を丸くしていたが、大きな目を潤ませてやがて声を上げて泣き出してしまった。
母親は謝罪をして少女をなだめて、グルもカイルに引かれてその場を後にした。
それから少女はグルと会っても母親の抱っこを拒否してグルを撫でなくなってしまった。
『森に行くなら探したいのがあるから手伝ってくれたら嬉しい』
『探したいものっていうのは?』
多い方が狩りはやりやすい。積極的に手伝ってもらうためにもとガルはグルに尋ねた。
『紫色で甘い匂いのする花』
『花? そんなものどうするんだ?』
『町が大騒ぎしていた時、助けた女の子がいるでしょう? あの子にあげる』
まさかグルもラナへのプレゼントだろうかと思っていたがそうではなくてガルは安心した。
そして言われた騒ぎの後、確かにその女の子とグルは仲が良かったなと思い出す。
『その花を差し出されたから食べたら泣かれた。食べたら駄目だったみたい』
『美味しかった?』
『まずくはなかった。甘かった』
ギルの質問にまずくないならその花もラナへプレゼントしようとガルは決めた。
3匹は出かけた時に連携しながら狩りも行っている。ラナは狩りをしないため留守番だ。
次のお出かけも3匹は一緒だったため目的の熊と花を探すことにした。
普段とは違い毛を取るために体を傷つけないよう注意することは大変だった。
それでも狩りは問題なく遂行できた。
問題はどうやって肉と皮を分けるかだった。
普段ならそのまま食らいつくわけだが、それではせっかくの毛がボロボロになってしまう。
ギルが熊を食べたそうに涎を垂らしているのであまり時間はかけられない。
手や足はいらないだろうとギルに食べていいと伝える。
人間を上手く使えたらと考え思考を巡らせたガルは、食べられた熊の手を見て閃いたことがあった。
人間に見せるようにしながらギルがまだ食べていない熊の足を食いちぎる。そして皮を剥いで中の肉はギルに向かって放り、残った皮を人間に見せる。
「これ、どういう意味だと思う?」
「……肉じゃなくて毛皮が欲しいんじゃないか?」
カイルの問いかけにやや思案してからジナルドは答えた。
「言われてみれば、今回の狩りは獲物に傷をつけないよう注意しながら戦っていたようにも見えるな」
「それならご希望通りに剥ぎ取ってみます? ガルがどうするかも気になりますし」
ザックが解体用のナイフを取り出す。
反対意見はなくカイルが周囲を警戒し、ジナルドとザックが熊の解体を行うこととなった。
肉の部分はディナルトスたちに渡しつつ無事に熊の毛皮の剥ぎ取り作業を終えた。
「ほら」
ジナルドが毛皮を差し出すとガルはその毛皮をくわえた。
「それにしてもあの毛皮はどうするんだろうな」
「ラナへの土産だろうと思うぞ」
「獲物を持って行ってもラナは食べませんもんねぇ」
騎手たちの話を他所にディナルトスたちは森の奥へと進む。
グルの目的であるは花はまだ見つかっていないからだ。
少しすると紫色の花が群生しているところを発見した。
グルが近づいて花の香りを確認する。
『これだ』
グルの言葉にギルが花に近づいて1輪を食べた。
『まずくはないけど肉の方が美味しい』
ガルもくわえていた毛皮を地面に置いて花を食べた。
『同感だ』
『まぁ、お肉の方が美味しいよね』
ガルは置いた毛皮の上にちぎった紫色の花を何輪か置いて毛皮をくわえ直す。
グルも紫色の花を何輪かくわえて町へ戻ることにした。
町へ戻り通りを歩く。
グルは少女の家がどこか知っていたため、引かれる手綱を無視してその家へと向かう。
カイルも無理に引き戻したりはせず様子を見ていた。
少女の家に近づくにつれて察したカイルは到着した時に扉をノックした。
家の中から母親が出てくる。
「娘を連れてきます」
母親は紫色の花をくわえたグルを見ると家に戻った。それから少ししてから少女を抱えて母親が家から出てくる。
グルを見て気まずそうにしている少女。そんな彼女の体の上にグルはくわえていた紫色の花を落とした。
「『この前はごめんね』って。グルに悪気はなかったんだ。許してもらえないかな?」
その時にも謝ったが、カイルは柔らかい声音で改めて謝罪をした。
「……私の方こそごめんなさい」
少女はグルの落とした紫色の花を手に取り謝った。
「お花、ありがとう」
そう言って少女はグルを撫でた。
『喜んでくれたみたい』
『良かったな』
『食べるのかな?』
そして彼らは大人しく住まいへと戻った。
庭に入るとルナと共に地面に横になって寛いでいるラナの姿があった。
『ラナ、プレゼントだ』
ガルはラナに近づくとくわえていた毛皮を彼女の前に置いた。
ラナはそれらを見てから花の匂いを嗅いだ。そして毛皮に触れて撫でた。
『いいの? ありがとう。嬉しい』
『花は食べると甘いぞ』
『そうなの?』
ラナは花を1輪だけ食べた。
『うん、確かに甘いね。美味しい』
『全部食べていいからな』
『ありがとう。大切に食べるよ』
贈り物をラナが気に入ったようでガルは非常に喜んだ。
小屋に戻される時、ラナはガルからの贈り物をくわえて持って行った。
地面に敷いて花を潰さないように移動させてから毛皮の上に寝転ぶ。
ふかふかな毛皮と可愛らしい花、久しく感じていなかった甘味はラナを喜ばせた。
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