第055話 川辺で休憩
やがて森を抜けた。
視界が開け、だだっ広い平原の奥には高層ビルを思わせる巨大な木が1本立っていた。
何あの大きな木! 見たことない!
どうなってるんだろ? 木の実とか成ってるのかな?
止まれという指示が出たので足を止め、巨大な木の方を見ているとヒューと高い音が聞こえた。
音のする方を見ればローレンさんが口笛を吹いていた。
少し遠くの平原にいた茶色の馬がこちらへ向かって走ってくる。
その馬はローレンさんの前で止まり、彼は馬を撫でると慣れた動きで馬へ乗った。
そこからは移動の速度が上がった。
巨大な木はとても興味を引かれたものの、残念ながら向かっているのは別の方向だ。
その木もそうだけど、どの方角を見ても見覚えのない景色が広がっている。
指示に従って速度を調整しながら走る。
そして、森を出て30分くらいで川へ到着した。
川は対岸まで20mもないくらいだけど、流れた先が見えないくらいに長い。
深さに関しては浅そうだ。深いところでもローレンさんの腰くらいしかない。
「休憩だ」
バートさんから待てと伏せの指示が出た。
足を止めて地面に伏せる。
ローレンさんが馬から降りてバートさんへ手を差し出す。
お礼を言ってバートさんは私から降りた。
支えられながらバートさんは川へと近づき、屈んで水を飲んでいる。
「よし」
水を飲み終わったバートさんから命令解除の指示が出た。
「きゅうけーい!」
バートさんから離れたテバサキが嬉しそうに言ってクチバシを川に突っ込んでいる。
正直に言えば私も喉が渇いた。
立ち上がり川へと近づいて覗き込む。
水は透き通っていて泳いでいる魚も見えるほどだ。サラサラと穏やかに流れている川のせせらぎも心地いい。
私は川に顔を突っ込んだ。水は冷たくてとても美味しかった。
喉の渇きを潤した私は地面に座っているバートさんを見た。
彼も私を見ていた。正確には私が首に巻いているスカーフや足輪、手綱だけどね。
それらがあったからこそ、私が誰かに飼われていて言うことを聞くかもしれないと思ったんだろう。
バートさんの右足を見る。
マルチェロさんが改めて手当をしていたけど痛そうだ。私にはできないけどレクシス様だったら治せるかもしれない。
じゃあ何ができるのかといえば、怪我が悪化する前に少しでも早く安全に治療できる人のところへ運ぶことだ。
そのためにも今はしっかり休んでおこう。
それはそうと、バートさんと仲良くなっておきたいから近くに座って休憩しようかな。逆効果になりそうだったら離れよう。
そうと決まれば早速、とゆっくりバートさんへ近づいた。彼は少し警戒を強めたようだけどじっと私を見るだけで何もしない。ローレンさんも警戒するように私の方を見ている。
当然の反応ではあるけど何だか気まずい。
警戒はされていても拒否はされておらず、大丈夫だと判断して彼の近くに腰を下ろす。
少ししてからバートさんは私の体を撫でてくれた。
「……人懐っこいな。ディナルトス、なんだよな?」
ローレンさんが私の真ん前にしゃがみ込んでこちらをじっと見ながら言った。
あ、私のことご存知です?
「本当にな。見た目はディナルトスだ。ここまで大人しくて人間に従うのは実際に体験していないと信じられないが」
やっぱりディナルトスって危険な魔物って認識なんだね。
ガルたちとは仲良くやっているし、前に会った野生のディナルトスたちも紳士的だった。
襲われたことがないから、ディナルトスが恐ろしい魔物だという認識が薄い。
……いやまぁ、生きた動物を狩って食べる時はできるだけ見ないようにしているけどね。
ホラーは嫌いじゃないけどスプラッタ系というかグロいのは無理。
ラテルでは好意的な反応も増えているけどここは私たちのことを知らない場所だ。
警戒されて当然だと思って行動しないと反射的に攻撃されるかもしれない。痛いのは嫌だから気をつけないとね。
私はローレンさんを見つめ返した。良く見ると髪の色や眉の感じがバートさんとちょっと似ているような気がする。
爽やかさもあるけど野性味もある強そうなイケメンだ。実際、拳で巨大なカムデヨをひっくり返しているから強いと思う。この世界、見た目と実力が一致しないことがあるんだよね。
「飼い主を探すためにもスカーフや足輪を調べたいところだが、下手に触って逃げられたら元も子もない。まずは家に戻って落ち着いてからだな」
バートさんたちの家ってどんな感じなんだろう。ちょっと楽しみだな。
そんな感じで川辺で休憩をして20分くらいが経った。
「さ、出発しよう」
そう言ってバートさんは立ち上がろうとした。
私に手をついて起き上がればいいのに。と思ったけどすぐには難しいかもしれない。
ローレンさんが来る前に私は起き上がって片手を差し出した。
バートさんは少し驚いたように何度か目を瞬かせた。
私の意思をくみ取ろうとしてくれているようで、私と差し出した手をじっと見た。それからゆっくりと私の手を握って立ち上がった。
「ありがとう」
どういたしまして。という意味を込めて私は鳴いた。
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