第053話 巨大なカムデヨ
木の葉の擦れる音が高度を落としながら横へ移動していく。鳥たちが羽ばたき空へと飛び上がり、最後にズシンという低く大きな音が響いた。
派手な音の中、移動する複数の足音と彼らを追うようについていく多数の規則的な小さな音が聞こえる。
「見てこいテバサキ!」
バートさんがテバサキへと指示を出しながら私の手綱を操作する。
同じ方向へ走っているのに、体が小さく小回りが利くテバサキはあっという間に見えなくなった。
少し走ると探知魔法に人と巨大生物の反応が引っかかった。
は、何この巨大ムカデ。
全長が14mくらいあるんですけど!?
胴体も太くて2mはありそう。
さっきの音はその巨大なムカデが木をなぎ倒した音だったらしい。巨大ムカデの近くにはいくつか倒れた木がある。
人の反応は全部で4つ。
前衛が3人で後衛が1人。適度な距離を保ちながら巨大ムカデと対峙している。
巨大ムカデの動きは思っているよりも俊敏で、彼らがやや押されているように感じる。
まだ余裕はありそうだけど、誰かが動けなくなったら一気に崩れそうな危うさがある。
急がないとまずいかも。
足を取られたり不安定な足場でバランスを崩さないようにこっそりと結界を張って足場にする。
走る速度を上げるには足場の状態と障害物の有無が重要だ。
足場は結界で整えた。
木という障害物は探知魔法で位置を把握し、思考加速で最短距離を考える。
体感ではあるけど、2倍近く速度が上がったんじゃないかな。
この速度でもテバサキには負ける。
注意しなければならないのは、速度が上がったことで木にぶつかったり転んだりした時の衝撃が大きくなったこと、急には止まれなくなったことだ。
車や自転車と同じだね。
速い分、危険も多くなった。
テバサキが目的地に到着し、少ししてから折り返してくる。
「ローレン! と
ローレンっていうのはたぶん知り合いなんだろうね。
黎明3人て何? パーティー名かな。
あのムカデ、カムデヨって言うんだ。
魔力は結構持っていて魔石の反応もある。
ん? 2つ?
体内に魔石を2つ以上待っている魔物は初めてだ。どちらも体の中心部にある。
今のところ魔法を使ったりという反応はない。
でも注意はしておこう。
テバサキの報告は人もカムデヨの数も探知魔法と同じだった。
「カムデヨと戦闘。たぶん、拮抗」
「よくやった」
バートさんの肩へと留まったテバサキは、褒められて嬉しそうに鳴いた。
私をバートさんのところへ案内してくれたのもそうだけど、キュルケルってこんなに賢いの?
それともテバサキだけ特に賢かったりするのかな。
そんな疑問は浮かんだけど、走ることに集中することにした。
目的地へ近づくほど戦闘音も大きくなっていく。
ようやく、彼らの姿が見えた。
前衛の3人は男性で後衛は女性だった。全員、20代に見えるくらい若い。
剣を持っている男性は藍色の短髪に金色の目で中肉中背。大盾を持っている男性はグレーの短髪に青色の目をしていて大柄。この2人は金属製の鎧を身に着けている。
もう1人の男性と女性は革の鎧を着ている。男性は短い茶色の髪に青い目だ。髪の色合いはバートさんと良く似ている。体格は結構がっしりしている。
突っ込んでくるカムデヨを1人が大盾でいなす。
もう1人が側面へ回り込み拳を叩き付けた。
その衝撃にカムデヨの巨体が押されて勢いを落とす。
そこへ最後の前衛が剣を振るっていくつかの足を切り落とした。
探知魔法で分かってはいたけど、実際に見ると衝撃的だね。
後衛の魔法使いがかけたらしい身体強化魔法があるにしても凄い。
4人で相手をできていることもそうだけど、1人は拳で戦ってるからね。
連携もそうだけど個人の動きも洗練されている。
でも、決め手に欠けるようで攻められていなさそうに思える。
カムデヨはというと、いくつか足を落とされたもののまだまだ元気そうだ。
足を切ったのも機動力を奪いたいからなのかもしれない。
体をくねらせてカムデヨが方向を変える。
向かった先は大盾を持つ男性のところだった。
彼は大盾を構え、おそらく先程のようにいなそうと考えていたのだろう。
しかし先程と違い、カムデヨは尾で彼らとその周囲をなぎ払った。一点集中ではない分、かかる力が分散してそれ自体は大きな被害はない。
けれど、勢いを殺しきれずに彼らは吹き飛ばされてしまった。
陣形が崩れる。
それだけでなく、耐えきれなかった木が折れたり根本から引き抜かれて慣性に従って倒れてきた。
変化し続ける状況の中、カムデヨは後衛の女性へと突っ込んでいった。
彼女は自身を守るように魔法で土の壁を作った。
そうしてカムデヨの視界を土の壁で遮りながら進行方向から逃れて前衛と合流するため横へと走る。
その土の壁をカムデヨはいともたやすく突き崩した。
走る女性へと狙いを定め直すカムデヨ。
もう土の壁を作る時間はない。
私は全力で彼女の元へと駆けた。
カムデヨのなぎ払いが木々を減らし、場所が少し開けていたことで走りやすくなっていることが幸いした。
カムデヨの噛みつきは空を切った。
噛みつかれる直前、私に乗ったバートさんがすれ違いざまに彼女を私の上へと引っ張り上げていた。
私はそのままバートさんの指示に従って前衛たちの元へ駆ける。
「じいちゃん!」
「バートさん!?」
拳で戦っていた男性はバートさんのお孫さんだったようだ。
バートさんを見て安心した様子を見せている。
そして大盾と剣を使っていた男性は驚いたように目を丸くした後に安堵した。
「まだ行けるな? ここで仕留めるぞ!」
バートさんの言葉に全員が頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます