第003話 襲撃事件発生

 たっぷりと寝て起きたら朝だった。お腹が空いた。

 朝食を食べてから庭に出されたので木陰で寛いでいたらすぐ近くで爆発音がした。


 何事!?


 音のした方を見ると近くの外壁に穴が空いていた。しかもその穴から黒いローブに身を包みフードまで被った怪しい人と多くの魔物が入ってきた。


 黒いローブを着た怪しい人や魔物たちは私たちには興味がないのか、こちらを無視して城へと向かっていく。

 大きな熊のような魔物が体当たりして城壁に穴を空けた。様々な魔物たちが咆哮を上げ、城へ侵入していく。


 え、避難訓練の襲撃版?

 いやいやいやいや、生まれてから大きくなるまで1度も無かったのに?


 突然の事態に動揺していると城の中から悲鳴が聞こえてきた。


 ルナは怯えた様子で私の近くにやってきた。他のディナルトスたちはなんだなんだと魔物たちを見ていたが、自分たちに関心がないと知るや集まって話している。


『こんな狭いところからさっさと逃げよう』

『俺、人間を食べてみたかったんだ。町へ行こう』

『やった。みんなで駆けっこしようよ。重りを乗せずに走れるの嬉しい』


 聞こえてきた内容は、大変よろしくないものだった。特にギル。人間は食べ物じゃありません。


『私は行かない。外の世界に出て食べ物はどうするの? 水は? 病気になっても誰も治してくれないよ』


 ジナルドやドルフを始め、世話をしてくれたり優しい人が多い。私は彼らのことが大好きだ。これからも彼らと一緒に過ごしたい。

 何か起きていることは確かで、彼らに危機が迫っているのなら力になりたい。

 それに何が起こるか分からない外へ行くよりもこれまで通りに城でのびのびと過ごしたかった。


 聞く耳を持たないなら仕方ないけど、彼らとは一緒に育ったため愛着がある。育ててもらった恩があると言っても伝わらなさそうだったので、このまま飼われる方が楽だと伝える。


『だったら俺も残る』

『ラナがそう言うなら』

『ラナが来ないなら行かなーい』


 なぜか皆は私の意見を良く聞いてくれる。

 そういえば初めて会った時、小柄な体格で馬鹿にされたり子分にしてやる発言をされてガルをぶっ飛ばしてからこんな感じだったような気がするな。


『ねぇ皆、やりたいことがあるんだけど手伝ってくれない? 逃げるんじゃなくて人間たちを助けようと思うの』


 まぁいいやと私はやりたいことを話した。逃げて好き勝手するのは問題だが、手助けをするのであれば私たちの飼い主の手柄になり、もっと良い環境にしてくれるかもしれない。ご褒美だって期待できる。

 そう言って彼らに協力を仰いだ。


『ラナがそうしたいなら協力する』

『分かった』

『一緒にやるー』


 同意も得られたところで、じゃあどう動くかと考える。普段は使わない魔法を使って思考を加速させる。

 外からも悲鳴が聞こえてくることから町でも魔物が暴れているかもしれない。城にはきっと偉い人たちもいる。でも町の方も気になる。


 人を助けようと提案したものの、襲撃者の邪魔をしたら攻撃されるかもしれないし、私の魔法がどれくらい通用するかも分からない。

 正直怖い。

 でもだからといってこのまま何もしないでいたら絶対に後悔する。


『ガルとグルは町で人間を助けて。ギルは私と一緒にジナルドやドルフを探そう』


 人間を食べたいとか言っていたギルから目を離さないため一緒に行動することにした。


 彼らやルナに身体強化と硬化をかけて保護する。身体強化と言っても普段の何倍も能力が上がるようなものでなく、普段より疲れにくかったり動きやすかったりという程度のものだ。

 見た目では分からないような魔法なので大丈夫だと思いたい。


 キュキュっとルナが鳴く。とりあえずモフっておこうと私がルナに顔を近づける。跳躍した彼女が私の頭の上に乗った。

 一緒に来ると危ないからと彼女を降ろそうと考えるも、離れていても安全かは分からない。建物の倒壊に巻き込まれたりおやつ感覚で食べられてしまうかもしれない。

 私はルナも連れて行くことにした。


 そうと決まればとギルと共に魔物たちが開けた穴から城の中へ入った。

 石造りの城は当然ながら内部も基本的には石だった。ただ扉や家具などは木材で出来ているようだ。

 結構広くて天井も高い。


 ソナーの要領で魔力を放出して物や生物の位置を調べる探知魔法を使ってどこに誰がいるかを調べるとあちこちから入ったのか細々と魔物の反応がある。

 飛んでいる魔物もいてガラスを割って中に入ったのか、すでに1階以外にも魔物の反応がある。


 そっちもどうにかしたい。でも対応する余裕がない。

 先ほど見た群れのように集まっていた魔物たちは城の中央に向かっていてきっと領主だか王様を狙っている。こっちを優先しないとまずいだろう。

 結界で魔物を閉じ込めらることができたら解決できるけど、残念ながらそこまで万能じゃない。

 まず結界は私を中心に約7m以内の場所にしか発動することができない。さらに扉や壁などの遮蔽物があったらそれを越えて部屋の中に結界を発動するということも無理だ。


 仕方ないと私は城の中に見つけたドルフの反応へ向かって走った。扉は壊しているが今は緊急事態ということで。それに魔物が壊したことになるかもしれない。


 大きな群れの魔物たちが大小の2つのグループに分かれた。魔物の反応が15個に人の反応1個ある大きい方のグループは引き続き城の中央、魔物の反応6個の小さい方のグループは城の東側へと向かっている。

 東側にある部屋の中には人の反応がいくつかある。彼らの周辺には他にも魔物の反応があり逃げるにしても難しそうだ。


 大きなグループが城の中央へ着くまでにはまだ時間がある。まずは東側の人から助けようと東へ走った。


 東にある部屋の中には2人、部屋の外には3人の反応がある。周辺の魔物の反応は4匹でそこへ小グループの魔物6匹が向かっているから合計10匹になりそうだ。

 部屋の中にいる2人は部屋の外に出ようとしたようだけど逃げられないと判断したのか結局は部屋の中にいることにしたようだった。


 部屋の外にいる3人は近くにいる4匹の魔物と戦っていた。そこへ6匹の魔物が合流する。すると3人のうちの2人が逃げ出してしまった。

 怖いだろうし死にたくないのも分かる。でもこれだと何かあった時に信用できない。私は逃げ出した2人に『逃走者』というラベルを付けておくことにした。そして勇敢な1人には『勇敢』とラベルを付けておく。


『突っ込むよギル!』

『了解』


 残った1人の元へ魔物たちが近寄っているところに私たちは到着した。

 魔物を結界の中に閉じ込める。結界に阻まれた魔物たちは彼に近づくことができず、結界を攻撃するもびくともしなかった。

 魔物の前に立って剣を構えていた騎士が構えを解かずに私たちを睨む。


 まぁ、うん。新手にしか見えないよね。


 私たちを警戒していた彼を結界に閉じ込め、部屋の扉へ向かって突っ込む。

 慌てて追いかけようとしてくる騎士だったけど透明な結界に激突していた。ごめんて。


 扉をぶち破ると様々なバリケードの奥に使用人と思われる女性がいた。メイド服を着た女性は私たちを見ると怯えた表情をしていた。そして震える手で箒を握りながら私に向けている。

 私はそのメイドさん結界の中に閉じ込めてもう1人の反応がするクローゼットへと近づいた。


「だ、駄目っ! こっちを見なさい!」


 メイドさんがクローゼットへ駆け寄ろうとするも透明な結界にぶつかった。今度の結界は柔らかくしていたので彼女は結界に弾かれて尻もちをつく程度ですんでいた。


 クローゼットを開けるとクローゼットの底に積みあがっている服の山がある。私がその服の山を押しのけると両手で口を押えて怯えて涙目になっている5、6歳くらいの少年がいた。少年は女性に言いつけられたのか私に見つかっても声を上げないように大人しくしている。


 健気ショタの涙目可愛い。おっと、邪な感情が漏れた。


 結界を壊そうとする魔物や騎士の攻撃にも結界がびくともしないからと安心するのは早い。気を引き締めないと。


 少年の視線が私の頭の上に集中している。ルナが気になるんですね、分かります。

 ルナも少年の視線に気が付いたのか少年に飛びついた。そして少年の涙をペロペロ舐めて慰めている。

 少年は恐る恐るルナに触れて彼女の柔らかさに魅了されたのかすぐに両手で抱きしめた。


 ギルに指示してメイドさんの近くで屈んでもらって私は少年の近くで屈んでから外の騎士さん、メイドさんを閉じ込めていた結界を消した。


 慌てた騎士が部屋へとやって来る。剣を構えていたが屈んで大人しく待機している私たちを見て理解してくれたようだ。ためらいながらもルナを持った少年を抱えて私の上に乗った。それを見た女性もおっかなびっくりしながらギルの上に乗った。


 彼らにも身体強化と硬化をかけておいた。


 次に私たちはドルフの元へと向かった。

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