第050話 ラテルにて
ラテルを囲う大きな壁が見えてきた。
門の近くには複数の騎士の姿があり、その中にはザックの姿もあった。話し声や物音もいくつか聞こえ、少し騒がしいくらいな気がする。
「状況はどうなっている?」
ドルフの問いにザックさんが報告をしてくれる。
嬉しいことに無事ラテルの人たちも目を覚ましているとのことだ。ただ、町の住民が一斉に眠るという異常事態が起きた上、原因も良く分からないという状況だったせいで不安に陥った人たちがお城、騎士や医者に押し掛けるということが起きてしまったらしい。
今はかなり落ち着いたとのことだ。
領主であるアトラドフ様が目を覚ましているということも分かり、ドルフはまず報告を行ってどのように動くか指示を仰ぐことにしたようだ。
人手自体は足りているようで、ひとまずは全員でお城へ向かうことに。
町の上空にあった大きな糸玉も消えている。魔糸も見当たらない。
一応、騒ぎにならないようにするため脇道を進んだ。
無事にお城へと到着した。城門は閉じていたけど問題なく私たちは迎え入れられた。
庭へと戻され手綱も外された。庭でのびーと体を伸ばす。
『みんな起きてたね。あの子も起きたかな』
『そうだね。きっと起きてると思うよ』
あとはドルフたちが何とかしてくれるだろう。
私は地面に描いていた地図を消しておいた。
せっかく描いたけど実際に案内することになって要らなくなったからね。
魔力も使って疲れたから小屋で休もう。
私は探知魔法を切って小屋へと向かい、ガルがくれた毛皮の上で横になって目を閉じた。毛皮はふかふかしていてとても心地が良く、次第に私の意識は遠くなっていった。
背中に何かがぶつかったことで目を覚ます。背中を見るとそこにはルナの姿があった。
私が体を傾けるとルナは床へ落ちた。体を起こして彼女をモフる。ルナも無事に起きたみたいで良かった。
「今回も活躍したんだってな」
近くには微笑みを浮かべたカイルが立っていて私の体を撫でてくれた。
いつの間にか日は傾いており、夕食が用意されていた。
ちょうどお腹が空いてきていたので美味しくいただくことにした。
ルナもご飯を食べていたんだけど、その右手には4本線の羽マークがあった。
え……待って何であるの!?
探知魔法を使ってみると羽マークにはかなりの魔力が残っていた。ただ、魔法が発動している様子はない。
カイルの右手には当然ながら羽マークは残っていない。
ロレットラリッサが消し忘れたとか?
その後、数日が経った。
誰かが眠りから起きないということもなく、ルナも特に変わりがない。
害は無さそうだからいいんだけど、ちょっと心配だな。
そして久しぶりのお出かけ。今回もグルと一緒だ。
手綱を引かれて大通りを歩く。
読書祭はまだ続いていて、あちこちで音読らしき声が聞こえていたりする。
『ねぇラナ。どうやったらあの子を喜ばせてあげられるかな。前は紫色で甘い花を上げたら喜んでくれたよ』
グルの言う花はガルからもらったことがある。
『花を喜んだなら、そういう可愛らしい花とか綺麗なものをあげたら喜ぶんじゃないかな』
『綺麗なもの……湖に居た魚とかどうかな?』
魚? 魚丸ごと!? あ、いや鱗のことかな。確かに魚の鱗も綺麗かもしれないね。あとは鳥の羽とかいいかも。……でも鳥の羽は汚いから触ってはいけないって小さな頃に親から言われた記憶があるな。とりあえず水で洗っちゃえばいいかな。
『魚の鱗のこと? いいと思うよ。あと鳥の羽があったらそれもいいかもしれない。洗った方がいいけど』
そう答えるとグルから嬉しそうにお礼を言われた。
『あの子だ』
通りを進んでいるとグルがエミリちゃんを発見した。
エミリちゃんはお母さんと一緒に買い物をしていたようで、私たちに気が付くと手を振ってくれた。
「どうもこんにちは」
「こんにちは! グルのこと撫でていいですか?」
「いいよ」
そんな微笑ましい会話がされた後、お母さんがエミリちゃんを持ち上げた。
エミリちゃんが嬉しそうにグルの頭を撫でる。
「その後おかしなことはありませんか?」
「えぇ、ありません。エミリも元気いっぱいです」
「良かったです。エミリちゃん、今後もグルのことよろしくな」
「うん! いってらっしゃい!」
世間話もそこそこに私たちは別れた。
ラテルを出ていつもの湖へと向かう。
湖へ到着した後の自由時間。
私とグルはエミリちゃんへのプレゼントを探すことにした。
グルは魚、私は鳥の羽だ。水を飲みに来た鳥の羽がないかと水辺を探してみる。
嬉しいことに何種類かの羽を発見することができた。
落ち着いた青色や白色、黒色、緑色の羽があった。とりあえず水で洗って結界魔法で汚れや小さな虫を弾くように設定する。
最後に風魔法で羽を乾かした。
グルには少し申し訳ないけど、いつもお世話になっているし緑色の羽はドルフにプレゼントしよう。幸せの青い鳥って言葉があるくらいだから青色の羽と迷ったけど、私の体の色と似ていたから緑にした。喜んでくれるか分からないけど。
緑色の羽だけをくわえてそれ以外の羽は風で飛ばないように結界で囲ってからドルフに近づいた。
「どうした?」
私はクルクルと鳴いてドルフの目の前に緑色の羽を落とした。
「くれるのか?」
「ククッ」
「ありがとう」
ドルフは微笑み緑色の羽を拾ってハンカチで丁寧に包むと懐へと入れた。
グルも目的の魚を見つけたようで魚をくわえて湖から上がっていた。それをカイルの前に置きながら爪で鱗を示している。
カイルは魚の鱗をナイフでそぎ取った。私も残った羽をくわえてグルのところへ運ぶ。グルは綺麗そうな鱗と私の落とした羽をくわえた。
「嬉しそうだな」
微笑むカイルの視線の先にはゆらゆら揺れるドルフの尻尾があった。
「嬉しくないわけがない」
「ジナルドが悔しがりそうだ」
カイルは小さく笑った後、グルを見た。
「グル~、俺には何もくれないのか?」
私がドルフに羽を渡しているのを見ていたカイルが寂しそうにグルの体をつつきながら言った。グルはぷいと顔を背けた。
「なぁドルフ、帰りにエミリちゃんのところへ寄り道していいか?」
「あぁ。もちろんだ」
苦笑いした後、カイルはグルの体を撫でた。
自由時間が終わり、私たちはラテルへと戻った。
ラテルは今日も平和だ。
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