第049話 【悪魔憑き】について
ラテルへの道中は特にトラブルも無く進んだ。
リオルさんがロレットラリッサの言葉を通訳したことに関して誰も何も言わない。
かと言ってリオルさんへの態度が変わったかと言えばそうでもない。居心地悪そうなのは本人だけでおどおどした態度にも拍車がかかっており、彼が1番気にしているようだった。
フェルさんが一緒の時は無理でも今は聞くこともできる。だからこそリオルさんは落ち着きがないんだろう。
特にマルコスを気にしているようでチラチラと彼を見ていた。
まぁ、最初に【悪魔憑き】の話題を出したのは彼だし、実際は分からないけど差別意識を持っているかもしれないと思うと気になるよね。
「どしたのリオルくん。すっごいソワソワしてるけど」
「え、あ、えっと……」
「トイレ? そういうのはあまり我慢せず早めに言った方がいいよ」
マルコスは苦笑いしてリオルさんに話しかけた。
「……マルコスさんは、僕を嫌がらないんですか?」
「え、俺が?」
問われたマルコスはキョトンとした。
コクコクと頷きリオルさんが彼を見つめる。
「俺は【恩恵持ち】って言い方を本当に知らなかっただけで別に嫌ったりはしてないよ。まぁでも心配はしてるかな。今だってあまり顔色良くないし」
嘘を吐いているようには見えない。
でもリオルさんはどうにも信じることができないみたいだ。懐疑的にマルコスをじっと見ている。
「ふむ、そろそろ休憩をしようか」
そんな時、ドルフの発案で休憩することとなった。
ラテルまでの平原を半分ほど進んだところだ。
各々が水分補給をしたり楽な大勢で休憩を取っている。
私たちも水を飲ませてもらい喉を潤した。
「リオルに関して少しいいか?」
ドルフが声をかけ、マルコスとハウロさんが互いを見た後に視線をドルフに戻して了承した。エリックさんもドルフの方を見ている。
「すでに気付いていると思うが、リオルは【恩恵持ち】だ。要らぬトラブルを避けるため、このことは内密にしておいてもらえないだろうか」
「はい。俺もハウロも言いふらしたりはしません」
「えぇ、当然のことだと思います」
「分かりました」
それぞれが頷いた。
「ありがとうございます」
リオルは頭を下げた。
「便利で凄い能力ですよね。確かに不思議な能力ですが、【悪魔憑き】と言うのは酷いですよね」
リオルさんのおどおどした態度や不安そうで人の顔色を窺っているような振る舞いは、これまでに迫害されていたのじゃないかということを感じさせた。ハウロさんも同じように思ったのかもしれない。
「多様な言語を理解し話すことができる、だけならそこまで言われなかったかもね」
「他にも何かあるんですか?」
「エリックさんはご存知ですよね? リオルくんは知ってる? ドルフさんは?」
ハウロさんの質問には答えず、マルコスは他の人に尋ねた。
3人とも知っているとのことだった。
特にエリックさんの話では、悪魔というのは召喚術を行う上で注意しなければならない存在だと言った。
「ではエリックさん、俺が話すよりも分かりやすいと思うのでよろしくお願いします。何か勘違いがあってもいけませんし、ここで1度整理した方がいいと思います」
いい笑顔で言うマルコス。ていのいい丸投げだよね。
いやまぁ、詳しい人が話す方が間違いもないだろうし、召喚術についての話も分かりやすかったからエリックさんが適任なのは分かるけど。
「いえ、せっかくなのでマルコス殿が話してくれませんか? 他の方が悪魔についてどのように思っているのか知りたいと思っていたんですよ。足りない部分は補足説明しますし間違っていることがあれば訂正するので」
しかし、エリックさんもマルコスに説明させたいようだった。穏やかな微笑みを浮かべつつ、先んじて補助することを告げて「中途半端なことを言って誤解させたらまずい」や「間違ったことを言ったらいけない」といった説明しないための理由を潰している。
マルコスは面倒臭そうにため息をつくと了承した。
どこから話すか、と悩むように小さく唸った後、彼は口を開いた。
「うーん……まず悪魔っていうのは召喚術で呼び出されることが多いらしいです。今回、リステラは水を依り代にしてラテルに現れたようですが、悪魔も同じように依り代を必要とするタイプです。悪魔の場合は生物を依り代にすることができます。なので、悪魔が依り代にしている人間のことを【悪魔憑き】と言いました。そして悪魔は、多種多様な言語を理解し話すことができるため、悪魔に憑かれた者もその能力を身につけるという話です」
つまり、比喩でも何でもなくリオルさんには悪魔が憑いているってこと?
「それから悪魔は魂だか精神を食らう存在とされています。何が問題かって言うと、それらを食らいつくした後は悪魔が依り代に成り代わると考えられているんです」
もしそれが本当なら大問題じゃない。
マルコスの言葉を止めたりしていないのでエリックさんの知識とも合致するのだろう。
ドルフもリオルさんも落ち着いている。
「え、リオルくんは大丈夫なんですか?」
「大きな頼み事をしなければ大丈夫です。ありがとうございます」
目を丸くするハウロさんにリオルさんが嬉しそうに微笑んだ。
そんなこんなで休憩時間も終了し、私たちは再びラテルへと向かって走り出した。
「ラテルへ戻ったらゆっくり休みたいですね。起こった出来事が濃すぎてお腹いっぱいですよ。どうせなら美味しい食べ物でお腹を満たしたいのに」
「食べたい料理を教えていただければオススメの店を紹介しますよ」
「いいですね。良い酒場も教えてもらいたいです。今回の件が落ち着いた時にでも打ち上げとしてみんなで一緒に飲みましょうよ」
「えぇ、ぜひ」
明るい調子で会話をするドルフとマルコス。
打ち上げするなら私も参加したいなぁ。無理だろうとは思うけど。
「リオルくんはお酒飲める?」
「いえ、あまり……」
「じゃあ俺と一緒だ。俺も弱くて」
ハウロさんはリオルさんを気遣っているようでそんなふうに当たり障りのはない話題を振っていた。
エリックさんは彼らの会話を聞きつつ笑ったり、たまに会話に参加していた。
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