番外編 シークとミランダ(2/3)

 シークが趣味を見つけてから約1週間が経った。

 せかせかと動いていたシークも自室にいる時間が増えた。そうは言ってもリビングで趣味に勤しんでいることもある。


 読書に関しては、どんな影響があるか分からないためミランダが選書を行っている。

 ミランダも読書が好きなので特に負担はない。

 どんな本が読みたいかリクエストも受け付けていた。


 画材や刺繍に必要な道具も減っていればその都度買い足した。


 何か問題が起こってはいけないため、慣れないうちはシークの外出を禁じている。

 それはタタと住んでいるシーナも同様だ。


 しかし先日、タタとシーナは一緒に買い物をしたという。

 シーナも喜んでおり、お出かけは成功だったそうだ。


 それを聞いたミランダはシークと外出することを考えた。

 問題はどこへ出かけるかだ。


 まずは町の案内をするということは決まっている。

 どのルートでどこを回るかが決まっていない。


 スケジュールに関してもそうだが、ミランダはこの手の段取り決めが苦手だった。

 あれこれと考え込んでしまい、どうすれば良いか分からなくなるのだ。


「ここ数日、何か考え事をしているようですが大丈夫ですか?」


 そんなミランダの様子にシークは気がついた。

 問われた彼女は悩みながらも彼と外出することについて考えていたことを伝えた。


「行きたいところとかやってみたいことってある? できるかどうかは分からないけど、言うだけならタダだから言ってみて」


 シークは少し考えてから口を開いた。


「服屋、手芸店、本屋、魔道具店、それから市場へ行ってみたいです」


 どこも特に問題がないところで、服屋と手芸店以外はミランダも好きな場所だった。


「シークくんが服に興味を持ってくれて嬉しいな」

「ミランダさんに全裸だと思われたくないので」


 シークがミランダと生活し始めてすぐの時、生活用品を揃えようと服の好みを聞いた。しかし彼は体の一部を変化させることで服を再現できるため不要だと答えた。

 服を着ることでお洒落以外にも体の保護、体温調整ができるのだと伝えた。だが彼にとっては些細な効果であり、服にかける金銭を勿体ないと感じていた。

 そこでミランダは別の方法で切り込むことにした。


 服に見えてもシークの体の一部であるなら、それは全裸なのではないか。ということだ。


 彼は否定できず、服の購入を受け入れた。


 そんなやり取りを思い出し、ミランダは感動すらしていた。


「あまり多いと見て回るのも大変です。行く場所は多くてもあと1つか2つにしておいた方がいいと思います」


 ミランダの心中を知ってか知らずか、彼女の手元にある紙を見たシークが話題を変えた。

 うんうん、なるほど。とミランダがメモを取る。


「時間もお昼から夕方くらいまででいいとのではないでしょうか。昼食は軽く家でとって夕食を外で食べるというのでどうでしょう?」


 いいね。と彼女は同意する。


 それ以降も同様にシークが大枠を決めたことでミランダはサクサクと予定を組むことができた。


「行くのはこの辺りでいかがでしょうか?」


 いつ行くかということに関してもシークが候補を出した。

 ミランダはその中から選び、外出の日取りは決定した。




 そして数日が経ち、外出当日となった。


「よし行こう」


 準備を済ませたミランダがシークに手を差し出す。彼はその手をじっと見たまま固まってしまった。

 ミランダは苦笑いしてシークの手を取ると家を出た。


 昼を過ぎているとはいえ、通りは多くの人が行きっている。

 服屋ではミランダの着せ替え人形となり、手芸店では刺繍の図案が載った本を眺めた。

 本屋では好きな小説の続巻を発見したミランダを落ち着かせ、魔道具店では不要な魔道具を購入しようとする彼女を止めた。


 いくつかの品を購入しながらお出かけは順調に進んだ。


 市場を見る前に1度休憩しようと近くの噴水の縁に2人は腰をかけた。


「楽しい?」

「勉強になります」


 ミランダがシークをじっと見る。


 無理に表情を作る必要はないと言ってから彼はずっと無表情だ。

 ミランダはそれが悪いとは思っていない。シークが少しでも過ごしやすくしてくれればそれでいいと考えているからだ。


「面白いものが見つかればいいなぁ」


 しばしの休憩を終えた2人は市場へと向かった。


 市場には食べ物を売っている屋台を始め、服や食器、絵画や工芸品など様々な物が売られている。決まった日時に出店している店もあれば、その日限りという店もある。

 商品や人との出会いは一期一会なのだ。


「だから今を逃せば手に入らなくなるかもしれないの」


 そう熱弁したミランダは、少女を模した精巧な人形を大切そうに抱えていた。

 白い肌に長い金髪、純度の高い宝石のように透き通った緑色の瞳。垂れた目はおっとりさを感じさせ、柔らかな微笑みを浮かべている。そして、新葉のような淡い緑色のドレスは少女に良く似合っていた。

 背丈が40cmほどとかなり大きめではあるが、それでもとても愛らしい人形だ。


「ですが、それはとても高価な品物です」


 だがその値段は、非常に可愛くないものだった。

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