第067話 昼食準備、話題は魔族について
「彼女を助けることは現実的じゃないと言ったのに、どうするつもりなんですか?」
シーナちゃんは泣き疲れたのか、それとも安心して緊張の糸が切れてしまったのか眠ってしまった。
そんな彼女を抱き上げたローレンさんに対して呆れたようにアントンさんは言った。
「もしそうだとしても放っておけない」
私としてはローレンさん派で彼女のことを助けたい。
でも、アントンさんが指摘した問題を解決する方法が思いついたわけじゃない。
「気持ちは分かりますけどね。行くにしても行かないにしても施設の場所は聞いておきたいですね。かといって起こすのは可哀そうですから早めの休憩を取りましょうか」
苦笑いをした後、アントンさんはシーナちゃんの頭を撫でた。
何だろう。ローレンさんの方が見た目の年齢は上なのに、話し方だったり落ち着いた雰囲気があってアントンさんの方が大人っぽく感じる。
体格の差もあるけどアントンさんは高校1年生生くらい、ローレンさんは大学生くらいに見えるんだけどな。
「寝袋を準備するので少し待っていてください。レディーを地面へ寝かせるわけにはいきませんから」
彼はそう言って魔法で土のベッドを作るとその上にリュックから取り出した寝袋を敷いた。
ローレンさんが寝袋の上にシーナちゃんを寝かせる。
どんなものかと思って土のベッドを触ってみたけど上から10cmくらいまでふかふかで、それより下は固くて寝心地が良さそうだった。固い部分は石かと思うくらいにカチカチで触っても土がつくことはなかった。
2人ともテキパキと昼食の準備を始め、私とテバサキは先にご飯をもらって食べた。
「コールくんについてなんですが、もしかすると領主様の三男かもしれません」
食事の最中、まるで世間話を話すようにアントンさんがそんなことを言った。ローレンさんが咳き込んだ後、食事の手を止めて理由を尋ねる。
「領主様の三男はコルネリオという名前でニックネームがコールでもおかしくありません。彼の保護者だという3人は元冒険者で現在は領主様に雇われて護衛なんかの職務に当たっている【ミツミの尻尾】である可能性が高いです。アルがアルバーノさん、タタはそのままタタさん、ミラがミランダさんでそれぞれシーナちゃんが言った特徴と一致しています」
わざわざその人たちを装う理由もなさそうだからアントンさんの言う通りかもしれない。
「領主様のご子息が誘拐されるってあるのか? そうならないための護衛だろ?」
驚くローレンさんの反応はもっともだ。
でも、町が襲われてお城に魔物が入ってきたり、領主様が寄生虫で暗殺されかけたり、規格外の存在に町や村のほぼ全員が眠らされるという出来事に遭遇したからそういうこともあるかもしれないと思ってしまった。
……あれ、むしろ私の体験の方が異常なのでは?
「それはまぁそうなんですが、悪人もそれを分かっていて対策して計画を立てますから。組織は内側からの攻撃に弱く、末端の人員まで裏切らない者で固めるということはまず不可能です。それに、本人にそのつもりはなくてもお酒を飲まされたりして酔わされて情報を抜かれてしまうことだってあるでしょう」
彼は苦笑いてからお酒を飲むような仕草をすると肩を竦めておどけた。
レスターさんたちのところもフレイさんが裏切っていたし、マルコスが勧誘されていた。
そのことを思い出してちょっと悲しくなった。
「アントンはシーナちゃんに対して態度を変えないんだな」
「それはこちらの台詞です。一般的に魔族は恐怖と憎悪の対象とされているでしょう? 例外的な国もありますが、トルトイアは違います。まぁ僕は良いお客様になってくれるなら魔族でも歓迎しますが」
魔族が恐怖と増悪の対象ってどういうこと?
話の流れ的に「トルトイア」が今私のいる国の名前かな?
疑問に思っているとアントンさんがちょっとしたエピソードを話してくれた。
「町を出る際に護衛を依頼した3人組の冒険者パーティーへ『もし人の気配がない場所で幼い子どもが泣いていたらどうしますか?』と質問したことがあるんです」
冒険者は子どもに話を聞いたり保護すると答えた。
次にその子どもが人族ではなく、たとえば獣人だったらどうするかと尋ねた。その時も子どもが人族だった場合と同様で話を聞いて保護する。獣人を怖がる人族もいるからぱっと見では分からないようにマントを羽織らせるかなどしてしてから連れて行くとの返答だった。
次に魔族の子どもだった場合はどうするかと尋ねたという。
「彼らは『気が付いた時点で警戒し、見張りと報告役に分かれて冒険者協会へ報告します』と返答しました。別の1人は『報告が終わったら周辺でおかしなことが起こっていないかを確認することも大切ですよね』と答え、もう1人も2人の言葉に頷きました。報告というのも討伐対象として、とのことです」
魔族に対しての対応が人族や獣人の子どもと違いすぎない?
体内に魔石を持った人自体、私はあまり知らない。
ルセルリオの領主様の屋敷を燃やした人、ジェフリーさん、フェルさんも体内に魔石があったから魔族だと思う。屋敷を燃やした人は悪いけど、ジェフリーさんは良い人だしフェルさんも悪い人には見えなかった。
人間と同じように魔族にも良い魔族と悪い魔族がいると思うんだけどな。
私が知っている魔族と思われる3人は普通の人より持っている魔力が多くて、魔法で様々なことができるんだろう。その分、悪いことをしようと思えばできてしまって種族全体の印象も悪くなるのかもしれない。魔族に関しての美談もあるかもしれないけど、元々の悪評が多ければきっと広がらないだろうね。
「俺のじいちゃんばあちゃんは元冒険者で『良い魔族がいることは知っているが、それ以上に悪い魔族と関わったことが多い。だから魔族が全て悪だとは思わないが、まずは警戒するべきだ』という方針だった。色々な経験談も聞いた。ある時、酔ったじいちゃんにこう言い聞かせられた。『人間と同じで相手を知るまで良い奴か悪い奴かなんて分からない。悪い奴だった場合、痛い目に合いやすいのが魔族なんだ』ってな」
ローレンさんはバートさんの口調を真似しながら言った。
「ローレンさん、シーナちゃんのこと警戒したんですか?」
「……してない」
目を丸くして大袈裟に驚き片手で口を覆ったアントンさんから顔を逸らし、ローレンさんはバツが悪そうに答えた。
「悪いかよ。俺は小難しいことが苦手なんだ。困ってる人がいたら助けたいし、悪いことをしてる奴がいたら止めたい」
「腹芸とかできなそうですもんね」
「そういうアントンは得意そうだよな」
「えぇ、得意ですよ。感情を簡単に気取られるなんて商人としてあるまじきことですから」
「そういうタイプ、苦手なんだよなぁ」
「僕はローレンさんみたいなタイプ好きですよ。非常に分かりやすくて助かります」
「そりゃそうだろうな。隠す気ねぇもん」
アントンさんは微笑み、ローレンさんは苦笑いして軽口の応酬が行われた。
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