第085話 アルさん宅で集まりがあるらしい
「凄いな、ラナが嬉しそうだ」
クルクル鳴いていた私の頭をローレンさんが撫でてくれる。
「褒められたことが分かったのか、ドルフ様の名前を聞いて安心したのかもしれませんね」
ありがたいことにその両方だよ。
「ラナを無事に送り届けるためにも、しっかりと準備をします。もう少しラナのことよろしくお願いします」
「えぇ、任せてください」
「僕にもお手伝いさせてくださいね」
少なくともローレンさんは私をゾニアーノへ送ってくれるつもりらしい。
全く知らない人よりも知っている人の方が安心するからありがたい。
小屋の扉を開けっ放しに3人はアルさんの家へ入った。
私は庭へ出て軽く運動をする。
庭を走って満足してから木陰で休んでいるとタタさんとシーナちゃんが庭へやって来た。
タタさんの恰好は前と変わらない。でもシーナちゃんは白い絹の服に薄いピンク色の上着、水色のスカート、茶色のサンダルを履いている。さらには猫耳が付いた帽子を被っていてとても可愛らしい恰好をしていた。
「ラナちゃん、こんにちは!」
笑顔で挨拶をしてくれたシーナちゃんの肌は綺麗に治っていた。魔力が流れ出している様子もない。
私は鳴いて屈むとシーナちゃんの頬辺りに顔を摺り寄せた。
シーナちゃんが私の頭を撫でる。
元気になったようで良かった。頑張った甲斐があったよ。
「この服、タタさんが買ってくれたの。似合ってる?」
少しして私から離れたシーナちゃんがその場でクルリと回った。
私は同意を込めて鳴いた。
「似合ってるって。良かったな」
「うん!」
微笑みながらシーナちゃんの頭を撫でるタタさんに彼女は笑顔で頷いた。
可愛い。2人の関係も良好そうだ。
その後2人はアルさんの家へ入っていった。
それから約20分後、ミラさんとシークくんがやって来た。ミラさんは前回と同じローブ姿。シークくんは執事服って言えばいいのかな。白いシャツに黒い上着、黒いズボンを履いている。ネクタイとかはない。ボタンも1番上まで留めていてきちっとしている。
似合っていてカッコいい。
「おー、ラナだ。元気?」
「ククッ」
庭へ入って来たミラさんが私に近づき体を撫でてくれた。
「ミラさん、すでに10分の遅刻です。もっとラナさんと触れ合いたいかもしれませんが、親しい友人との集まりであっても遅刻は良くないことです。急いでください」
シークくんはミラさんの服の裾を軽く引いてアルさんの家へ行くよう促している。
さりげなくさん付けで呼ばれたけど初めてだよ。
「はーい」
ミラさんは間延びした返事をするとアルさんの家へ入っていった。
うん、2人も仲良くやっていそうだね。
家の中でどんな話し合いが行われるのかは分からないけど良い方向へ進めばいいな。
その日のご飯は木の実や魚に加えて解体されて元の姿がなくなったお肉も出されるようになった。
きっとドルフが手紙に書いてくれたんだろう。
その翌日もローレンさん、アントンさん、アルさんが小屋へとやってきた。今日はローレンさんの肩にテバサキが止まっている。
ローレンさんに連れられ寝床となっていた小屋を出る。庭には昨日まではなかった大きな馬車があった。しかも、その馬車の上に空の檻が乗っている。さらに言うと馬車の左右には見たことのない人が3人ずつ立っていてこちらを見ている。騎士らしい鎧を着ている人が3人、魔法使いらしくローブを着ている人が2人、革の鎧を着た軽装の人が1人。全員男性だ。
それから馬車に繋がれた馬が2匹、それ以外にも4匹いる。
探知魔法を発動させてみる。体内に魔石の反応はない。全員人族のように見える。
アントンさんやアルさんはすでにその馬車の近くにいてその人たちと話しているようだった。
「大丈夫だから」
馬車の方を見る私を撫でながら安心させるようにローレンさんが言う。
「ごめんなラナ。この中で大人しくしてくれ」
ローレンさんは私を檻の中へ誘導しつつ一緒に中へ入った。
「あとこれ、ドルフさんが喜ぶかもって」
彼が檻の外にいるアントンさんから受け取り私へ差し出したのは、30cmほどの大きさがある麦色の体に黒い目をした兎のぬいぐるみだった。ルナの方がもう少し薄い麦色だし耳の角度とか鼻の感じは違うけど、全体的に見れば似ているかもしれない。
両手でそのぬいぐるみを掴むとローレンさんは手を離した。
私は檻の中に横たわると掴んだぬいぐるみを抱きしめながら顎の下に敷いた。鱗に覆われているせいで人間だった時より触覚は鈍いけど柔らかいことは分かる。何より、ぬいぐるみからはドルフの匂いが微かにした。
癒されるー。
そんな私を見た騎士さんたちは驚くように目を見開いていた。
危険視されている魔物がぬいぐるみを抱きしめたらそりゃ驚くか。
でも、久しぶりのもふもふ要素だったから仕方ないよね。テバサキも可愛いけど触らせてくれないし。
「良かったな」
「ククッ」
ローレンさんに撫でられながら私は返事をした。
その後、ローレンさんは檻から出て行き私が入った檻の扉には南京錠がかけられた。檻自体にも大きな布がかけられて外が見えない。
「出発だ」
そんな渋い声が聞こえたと思うと私を乗せた馬車はゆっくりと動き始めた。
町の中はゆっくりと、町を出てからはそれなりの速さで馬車は進んだ。
レクシス様をルセルリオまで護送した時とは逆で護送されることになるなんてね。
「ラナでしたっけ? ディナルトスだと聞きましたけど大人しいですね。さっきなんてぬいぐるみを抱きしめていましたし」
「大人しいだけでなくとても優しい子ですよ。怪我をしたじいちゃんを乗せて村まで連れてきてくれましたから」
ローレンさんと聞き覚えのない声との会話が聞こえてきた。声の印象だけで言うと若そうだ。
私も人のいるところへ行きたかったし、今もこうやって帰宅を手伝ってもらっているから私も助かってるよ。本当に良い人と出会えたなぁって感じる。
でも、やっぱり寂しいな。
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