第024話 冒険者との会話
『ねぇラナ、何でこの子は起きないの?』
空にある巨大な糸玉を見上げている時、グルに話しかけられてそちらを見た。
エミリちゃんは眠ったままだ。
『私にも分からないけど、普通じゃない状態なのは確かだと思う』
『そっか』
眠ったエミリちゃんを見るグルは心なしか寂しそうに見えた。
その後、彼女たちと別れて私たちは町の出口へと向かった。
探知魔法を作動させながら歩く。道行く人間全員の右腕には魔力の糸が繋がっていた。
でもエミリちゃんのように4本線はない。
そして私たちのような動物には繋がっていない。あくまでも「人間」だけが対象のようだ。
魔力の糸――長いから
魔糸は町の上空にある糸玉のような魔力の塊から人に伸びている。そしてその糸玉にも太い魔糸が繋がっていた。その太い魔糸は町の外へと伸びている。
太い魔糸から糸玉へ、糸玉から伸びた魔糸が人に繋がっている。魔力の流れも同様だ。
太い魔糸を辿ればこんなことをしている元凶の所まで行けるかもしれない。
問題は、太い魔糸は遠くまで続いていて伸びている方向しか分からないことだ。どれくらいの距離があるのか予想もつかない。
魔力を可視化できるようにはなったけど、見えるのはあくまでも探知魔法の範囲のものだけだ。範囲外の魔力が見えるわけではなかった。
それでも十分便利なんだけどね。
どうするべきだろうと考えていると町の出入口である門へと到着した。
……何か結界のような薄い魔力の壁がある。
全体を確認できてはいないけど町を囲っている壁に沿っている。
それからもう1つ。
町の中だけだと思っていたのに、糸玉から伸びた魔糸は町の外まで伸びていた。
でもその本数は町の中と比べてとても少ない。次に、魔糸を流れる魔力はエミリちゃんと同じくらいだった。
魔法が発動しているから魔糸を流れる魔力も多いんだろうか。
そんな推測をしている間に町を出るための手続きが終わってしまった。
大丈夫なのか不安に思いながら私たちは魔力壁へと進んだ。
魔力壁を通り過ぎて門を出る。
直後、カイルに繋がっていた魔糸が青色から黄色に変わった。
待って怖い。
最初、魔糸はどの状態でも赤色に見えていた。しかしそれでは分かりにくい。だから流れる魔力量が少ない順に青、黄、赤と色が違って見えるように設定した。
それまでカイルの魔糸は青色だったのに、魔力壁を越えた直後に黄色へと変化した。
え、これ町から離れて大丈夫? 町から一定の距離を離れたら魔法が発動する、なんて条件があったたらどうしよう。
いやでも、昨日はガルとギルが出かけていた。ガルの騎手であるジナルドもギルの騎手であるザックも何ともなかった。
ガルやギルともお出かけをしたことはあるけど、基本的にお出かけの範囲は決まっている。その範囲内なら大丈夫なはずだ。
……でも条件が変わっていたら?
そんなことを考えるとカイルを連れて町から離れることが怖くなった。
背に乗ったドルフが走るように指示を出すが、私は走らなかった。
同じように指示を出されていたグルがカイルを乗せて走り出す。
私が止まっていることに気が付いたカイルが慌てて停止の指示を出した。
「ラナ?」
ドルフに再度指示を出されたが私はその場を動こうとしなかった。
「どうした?」
引き返してきたカイルがドルフに尋ねた。
「ラナが走ろうとしない」
再度指示された私は弱々しく鳴いてその場を動かなかった。
「お、ディナルトス」
「この前の襲撃事件の時、人を助けて回ったらしいですよ」
「へー、あのディナルトスがなぁ」
町を出てすぐのところで止まっていると、私たちの後に手続きを終えた冒険者風の男性2人の会話が聞こえてきた。
1人は大剣を背負った筋肉質で大柄な剣士という風貌で、もう1人はローブを着て杖を持った平均的な体格の魔法使いといった風貌だ。
その2人も魔力壁を越えて町から出た途端に魔糸が青色から黄色に変化した。
「騎士さんたちも大変ですね。僕たちにも手伝えることがあればいいんですが」
「お心遣いありがとうございます。手伝っていただけそうなことがあれば頼むかもしれません」
「その時はぜひお声がけください。僕たちも他人事ではないので協力は惜しみません」
2人の冒険者は馬に乗って私たちに近づいて来るとドルフたちに友好的な態度で接し始める。
「あぁそれから、すでに把握されていることかもしれませんが、今回の現象が始まってもう3日目でしょう? 腰の軽い旅人や冒険者、行商人が町を離れ始めています。僕たちはもうしばらく様子見です。町を離れることが正解とも言えませんから」
そう言ってローブの男性は肩を竦めた。
そんなことになっているんだ。
このまま続いたらもっとまずいことになることは私にも分かる。でもどうすればいいのかすら分からない。
魔糸を結界で切ったり妨害できないかな? エミリちゃんのように発動していたらまずいけど、繋がっているだけの今なら切っても大丈夫なのでは?
……でも分からないことばかりの状態でするようなことじゃないよね。
ちょっかいをかけて対策されたり、警戒されるようになったら元も子もない。
「何がトリガーになってるか分からねぇからなぁ。とはいえずっとこもってる訳にもいかねぇ。昨日、町を出て依頼をこなして戻ってきた同業者は今朝もピンピンしていたから、町を出るくらいなら大丈夫だろうと判断して俺たちは依頼を受けることにした」
「こんな状況ですが、お互いに頑張りましょう」
そう言って彼らは馬を走らせて離れていった。
離れていく彼らの魔糸は黄色のままだった。
「さ、俺たちも行こう」
ドルフから指示が出る。
不安はあった。
ただ、ドルフたちも危険性があることを分かっていて町を離れるというのであれば従うことにした。
「俺たちのことを心配してくれたのか?」
「ククッ」
走り出した私の体を撫でるドルフの問いに私は肯定を返した。
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