第3話 初めての侵入者

 ダンジョン1層に恐る恐る入って来たのは、若い4人組のパーティーだった。

 男4人のパーティーなんて、何だかむさくるしいと思ってしまう。

 そんな事はどうでもいいか。


 彼らがダンジョンに入って来て、どういう風になるのか見守る。

 オーク1体とコボルト10体は次の階層への階段付近に待機させている。

 他のFランク魔物は道に等間隔に散らばっている感じだ。


 パーティーが最初の魔物を見つけると、安堵の息をしているのが見える。

 きっとFランク魔物だと判断して、彼らにとってFランク魔物は大した驚異ではないのだろう。

 それが証拠に、4人は簡単に魔物を斬っていく。


「うお~! 弱い魔物ばかりだから経験値うめぇ~!」


 モニター越しに声まで聞こえる。

 そこで気になったのは、『経験値』という言葉だ。

 この世界に着いた時、自分の命と引き換えに大量の経験値を得た。

 魔物を倒すと経験値が手に入るのは間違いないな。


 パーティーは次々魔物を倒していく。

 その時、メンバーの頭の上に数字が書かれている事に気付いた。

 全員8って書いてある。

 この8って何ぞや?


【ダンジョン内モニターには、侵入者のレベルを表記する機能がございます】


 うお!? びっくりした!

 集中して数字を睨めっこしていて、急に声が聞こえたらびっくりするよね!?

 まあ、それはおいといて、あの数字はどうやらレベルらしい。

 レベル8って…………少なくともレベルが999まである世界で8って相当低い事くらいは分かる。

 Fランク魔物に喜んだのはそういう訳だな。


 それはそうと、彼らがここに侵入して俺に何の得があるんだろう?


【侵入者によるメリットは全くありません】


 天の声さんの返事がとても助かるな。

 それにしてもメリットが全くないのか……。

 じゃあ、本当に彼らを倒して初めてメリットがあるという事か?


【ダンジョン内で侵入者を倒すと、強さによってダンポが獲得できます】


 強さって事は、レベルによってという訳ではないのか。


【ダンポ獲得率はレベルに強さを掛けた数値となります】


 なるほど、強さ×レベルね。

 …………という事は少なくともレベルを上げて倒せば、間違いなく獲得ダンポが増えるのもまた事実だな。


 パーティーの動向をずっと目で追う。

 俺のダンジョンの魔物達を嘲笑うかのようにガンガン倒していく。

 別に魔物達に思い入れはないが、こちらが一方的にやられるのはいい気分はしない。

 現在残りの798ダンポから10ダンポを使ってEランク魔物を彼らの後方に設置してみる。


 現れたのは、コボルトではなく、紫色の身体を持つ1メートルくらいの蛙だった。

 名前は『ポイズンフロッグ』だ。

 さっき配置した時には同じコボルトが10体だったのに、どうしてなのだろう?


【各ランク配置にて、固定数で決まったパーティーが配置される場合があります】


 『Eランク魔物10体倍数配置にて、コボルト10体倍数配置になる』

 『Eランク魔物10体、Dランク魔物1体同時配置にて、コボルト10体、コボルリーダー1体配置になる』

 『Eランク魔物100体、Dランク魔物10体、Cランク魔物1体同時配置にて、コボルト100体、コボルトリーダー10体、コボルトボス1体配置になる』


 頭に三つのセット配置が思い浮かぶ。

 『セット①ダンポ100、コボルト10』

 『セット②ダンポ200、コボルト10、コボルトリーダー1』

 『セット③ダンポ不明、コボルト100、コボルトリーダー10、コボルトボス1』

 セットが頭に保存される。

 これをそのまま階層に配置すると決まった魔物が配置出来るのね。


 魔物のセット配置について学んでいると、先程のパーティーの後方からEランク魔物のポイズンフロッグが襲い始める。

 彼らは悲鳴を上げつつ、前方のFランク魔物、後方のEランク魔物と戦い始める。

 必死に戦うも、4人中、1人がポイズンフロッグに足を引っ張られ大怪我を負う。

 他のメンバーも押し寄せてくるFランク魔物に足をとられ、彼を助けられず、ついに彼の上に書いてあった数字が消えた。

 つまり…………。



 - 侵入者排除により、ダンポ80を獲得しました。-



 やっぱりか……。

 何と言うか、彼らは間違いなく人間だ。

 画面越しではあるが、俺の判断で目の前で人が命を落とす。

 学生頃によくやっていたゲームの感覚に似てるけど、これは間違いなく現実だ。

 少し罪悪感を感じてしまう。

 ただ…………悪いけど、先に仕掛けて来たのは向こうだから、止めたりはしない。

 こちらだって命が掛かっているんだ。

 彼らだけでなく、これから訪れるであろう侵入者も排除させて貰う。


 俺は配置していたDランク魔物のオークを【フロア内オブジェクト移動】を使って彼らの目の前に運ぶ。

 しかし、移動が拒まれて、相手から少し遠い場所になった。


【魔物をフロア内オブジェクト移動で移動させる場合、侵入者の半径50m以内には移動出来ません】


 そんなルールもあったのか……つまり、召喚も不可能かな?


【魔物生成も侵入者の半径50m以内には行えません】


 とても大切な情報を知る事が出来て良かった。

 50mくらいなら数秒で着けるはずだし、オークが彼らに向かう。

 既にポイズンフロッグにもう一人がやられて二人になっている。

 そんな所に、オークが登場した。


「ふ、ふざけるな! なんなんだこのダンジョンはー!」


「た、助けて! 死にたくないよ!」


 彼らの断末魔を聞きながら、じっとモニターを眺める。

 これが『ダンジョン』なのだと、心に言い聞かせる。

 ただ、一つだけ思ったのは、転生していても俺は俺である事。

 理由は知らないけど神様に転生させてもらい、ダンジョンに落ちて、人と交わりたくなくてダンジョンで生きる覚悟をしても、どこかに人としての心はちゃんと残っているみたい。

 まあ、もう働きたくないのは本当なので、これからはダンジョンの魔物達に頑張って貰おうっと。


【倒された魔物は、再復活まで60分掛かります】


 お? 配置した魔物って倒されても復活すんの!?

 そういや『フロア魔物再生時間(1)』というのがあったな?

 最大って6万という事は、1,000を等倍だと考えて、それが60倍になる。60分から考えれば最大時、まさかの1分で復活とか言わないよね? でも6万ポイントも必要なら、もしかしたら有り得るかも知れない。


 現在のダンポは1,108。

 これをどう伸ばすか……今回は4人で320だった。

 あの激痛で999だと比べれば、ものすごく稼げる。

 つまり、沢山の人に来て貰うべきか。

 そんな事を考えていると、向こうでの思い出がよみ返った。




 ◇ ◆ ◇ ◆




「おい! 坂口! こんなバカみたいな値段でセールに出したら、赤字だろうが!」


 無能で有名な先輩が、俺が出したセール額に文句を言ってくる。


「先輩、箱を安く売れば、流れ的に中身が売れると思います。だから現状では箱で損をしているように見えて、将来的に中身が沢山売れるから――――」


「馬鹿野郎! 少しでも赤字になったらダメだろうが! 頭にゴミムシでも沸いてんのか!」


 …………いやいや、頭にゴミムシが沸いてるのはあんただろう。

 手前の数字だけで赤字に見えるけど、結果的にものすごく売り上げになるはずだ。

 なのに、それも見こせないなんて、無能の中の無能だね。


 俺は上司に相談して無能先輩と組を変えて貰った。

 その後、無能先輩の商品と、俺の商品が勝負になる。


 半年後、俺の圧勝で無能先輩はクビとなった。

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