第71話 スラム街

「ご苦労」


「「「はっ」」」


 玉座の間に数日ぶりに帰って来た面々をねぎらう。


「彼らを説得・・するのも容易ではなかっただろうに、よくぞ頑張ってくれた」


「「「ありがたき幸せ」」」


「それでは例の作戦をそのまま進める」


「「「かしこまりました!」」」


 これから2日の休息を取った後、また別の街を占領しに向かう事となる。

 2日も休む理由としては、レヴィ、アス、シャーロットの3人がいるからである。


「次の戦いではアスが残るのか?」


「はい☆ たまにはベルも運動・・が必要でしょうから」


「がんばります~」


 ベルは眠たそうな表情のまま緩く返事をする。が、全身からはやる気満々の気配を放った。


 あれから2日が経過し、今度はレヴィとベルとヘルサイズ達が出発した。


「マスタ~☆ 支配した街はいかがですかぁ?」


「うむ。『ダンジョン死神教』の信者達のおかげなのか、全ての街が安定し始めたな」


 モニターに映る各街の広場には、いつの間にか建てられた俺の銅像に向かって祈りを捧げる人々が見えていた。

 という事は、これから毎日得られるダンポも増えるという事だ。


 その現状をゆっくりと眺めながら、また数日が経過すると、今度は5つの街が支配下となった。

 レヴィ達も支配するのに慣れてきたのかも知れない。


 ダンポもそれなりにたまっているので、新しい5つの街も支配下におく。

 新しい街々もモニターには痛々しい戦いの跡があった。

 それにしても1つの街はほぼ絶望的なまでに崩壊しているのだが…………。




「ご苦労」


「「「はっ」」」


「今回も見事な手腕だった」


「「「ありがたき幸せ」」」


「まだまだ作戦は続くが、頑張って欲しい」


「「「かしこまりました!」」」


「さて、それはそうと、ヒブ街? だったかな。あの街は随分と壊滅しているのだが、どうかしたのか?」


「っ!? …………ご、ごめんなしゃい…………」


 ベルが震えながらその場で土下座する。


「アスお姉ちゃんに教わった通り、早く降伏するようにしたんですけど…………全然話を聞いてくれなくて…………」


「そ、そうだったのか。ベル。ケガはないか?」


「ケガはありません! ご主人しゃまの大切な資源を多く傷つけてしまって……ごめんなしゃい…………」


「よい。俺はお前達が無事であれば、街が一つや二つ滅亡・・しようが、気にしない」


「ありがとうございます。ご主人しゃま」


 いつも眠たそうにしているベルがここまで落ち込むのも珍しいな。


「ベル。すまないけど、次からは防衛をお願いね」


「あい…………」


 レヴィは少し厳しかった。




 あれからまた2日が経過して、ヘルサイズの面々が出発して、また俺の周囲が静かになっていった。


「ご主人様~」


「アメリアか。デザートの時間は終わっているんじゃないのか?」


「はい。えっと、今日は一つお願いがあってきました」


「お願いか。アメリアの頼みなら何でもよいぞ?」


「わ~! ありがとうございます! えっと、せっかく占領なさった街々なのですから、ご主人様も直接現場を見てみてはいかがでしょうか?」


「ほお?」


 アメリアに言われて気づいたが、ギブロン街とは違い、他の街々は直接占領している。

 『ダンジョンの死神』として、各街を占領しているので、支配下においている状況がまるっきり違うのだ。


「いいだろう。せっかく時間もある事だから、ギブロン街以外の街も見ておくか」


「はい~それが良いと思います」


 アメリアの意見を採用して、玉座の間を後にして魔方陣を伝い、新しく支配下となった街に向かった。




 ◇




「あ、あれは!」


 街に入るや否や俺達を見つけた人々がその場で土下座をする。


「「「死神様! 身を捧げます!」」」


 これは祈りを捧げている時に、みんなが口にする文言だ。

 別に身を捧げなくてもいいのだが、グランドダンジョンでダンポを増やす意味でも彼らには沢山子を産んで貰い、人を増やして貰わないといけないのだ。

 アメリアとベルと共に街の中をぐるっと歩き回る。


「ご主人様。ここから先は…………」


 アメリアが申し訳なさそうに話す先は、周りの家と違い、からボロボロさが目立つ。

 彼女の忠告を無視して、その中に入っていく。

 やはりというか、鼻をつく匂いが襲う。それでも構わず中に入っていく。


「し、死神様!?」


 俺を見て驚く子供達が、驚く声に応えるかのようにどんどん家から出て来て、俺の前で土下座をする。


「孤児か」


「は、はいっ!」


「ここはスラム街でいいのか?」


「そうでございます!」


「大人はどこだ?」


「お、大人はいません……」


 その『いません』が、戦いで亡くなった――――のなら、まだ良かったと思う。

 でもここで長年生活しているのが、その姿を見れば分かる。

 この街の規模からして、少なくともギブロン街よりも大きい。住んでいる人も多いはずだ。

 それなのに、孤児達が集まっているスラム街が存在する。その事実にこの世界の闇を感じずにはいられなかった。


「お前達。生活を変える気はあるか?」


「はい!?」


 全員が驚いて顔を上げる。

 この世界の人々は全員が美男美女だ。それは子供とて同じだ。

 なのに、どの子もしっかり洗えず髪はボロボロだし、肌もボロボロだ。子供なのにだ。


「俺は何もしない者に手を差し伸べるつもりはない。お前達がここで腐っていくのなら、それもまた良いだろう。だが生きるために働くのなら、俺の下に来い。お前達なら受け入れてやってもいい。ゆっくり考えてみるといい。3日後に使いを出す」


 俺はそう言い残して、その場を後にした。

 そこから支配下となった街を全て訪れて、孤児が集まっているスラム街を訪れて同じ提案をした。

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