第72話 孤児達の選択

 三日後。


 まだレヴィ達が攻略に出かけて帰ってこないのだが、俺は予定通りすべての街の孤児スラムに使いを出した。

 数分もしないうちに、グランドダンジョンの最下層に大勢の子供達がやってきた。

 既に各街に配下専用のワープポータルを設置しているので、それを伝って全員やってきたのだろう。


「みんな~! 私はアメリアと言います。ここは『グランドダンジョン』の最下層です。これから注意事項を言います! これは絶対ルールで、もし違反した者がいると、残念ながら一発で牢獄送りになるので覚悟はしといてくださいね」


 満面の笑顔で話すアメリアだが、内容がめちゃくちゃ重い。

 新しく迎え入れる子供眷属奴隷達にあまり勝手にされても困るから、これくらいの圧力が丁度良いのかも知れないな。


「まず、この階層で最も大事なのは、あちらに見える建物です。あそこを『主様の館』と呼びます。あの館には許可なく入ったり、近づく事も許されません。これは絶対ルールですので、違反した者は――――死を覚悟してください」


 一瞬で子供達の顔が真っ青になる。


「ですが、基本的に『主様の館』に近づかなければ、どうってことはありません。これからみなさんには色々働いて貰いますが、腹いっぱいにご飯も食べれますし、ふかふかのベッドで眠れます」


 それを聞いた孤児達が驚く表情に変わる。とても信じられないと言わんばかりだ。


「仕事もそれほど大変な仕事ではありません。仕事の説明はそれぞれ分かれて、こちらにいる各リーダー達に教わる事になりますので、顔を覚えてくださいね」


 アメリアは妹3人を紹介する。

 それぞれランダムに3つのグループを作り、妹達のグループに所属させるようだ。

 紹介も終わったので、俺はモニターで眺めていた玉座を立ち、外に出る。


「「「「ご主人様! おはようございます!」」」」


 俺をみた全員が一斉に深々と頭を下げて元気よく挨拶をする。


「うむ。よくぞ来てくれた。各街では大変な思いをしたとは思うが、ここでは違反行為さえしなければ、平和に生きられるはずだ。これからお前達の住処を作る」


 俺は最下層で入口の隣の空地に向かった。

 最下層にはまだまだ空地がたくさんあるので、ここに彼らが住める建物を建てる。

 あまり高くし過ぎても上がるのに時間がかかるので、2階建ての前世であるようなアパート構成で建てる。

 これから支配する街にもいると思われる孤児を受け入れるためにも多めに建てておく。

 幸い、ダンポにはかなり余裕があるので、次々建てていく。


 横長に建てたアパートは、一人一室与える予定で、各部屋は一人10畳間ほどの広さだ。

 各部屋にはトイレと風呂が別に設置されていて、風呂は意外にも広めに作られている。

 建物一つに部屋は全部で20室あり、1階10室、2階10室になっている。


 早速建てた20棟のアパートに、120人ほどの孤児達を案内して住まわせる。

 与えられた仕事さえこなせば、普段は自由にできるので、彼らのための専用食堂もいくつか建てておく。

 アメリア一人で彼らを賄うのも大変だろうからな。


 アパートを建て終えて、一度食堂に向かい、アメリアが作ってくれるおやつを食べながらモニターで彼らを観察する。

 意外にも適応力が高く、妹達の指示に従って、シャワーを浴びて新しい制服に袖を通していた。

 それにしても、制服なんていつの間に作ったんだ?


「ご主人様? どうかしましたか?」


「あの制服が気になってな」


「お気に召さないのでしょうか?」


「いや、とても気に入ってるのだが、いつの間に準備していたのかと思ってな」


「えへへ~ご主人様が彼らを誘ってる時に、衣服を統一させた方が誤解を生まずに済むかなと思って、私がレヴィ様の配下に伝えて作って貰いました」


「アメリアの案だったのか。偉いぞ」


「っ!? は、はいっ!」


 今にも飛び跳ねそうなくらい喜ぶアメリアに小さい笑みがこぼれる。

 俺は本当に良き配下を持ったなと思う。


「そういや、ベルはどこに行ったのだ?」


「べ、ベル様は…………」


「ん?」


「ものすごく落ち込まれまして……ご自身の部屋に引きこもられました」


「なるほど。それほど気にしていないというのに」


「私も気持ちが分かるというか……ご主人様の期待に最大限応えたいという気持ちが大きいんだと思います」


「そうか。だが慰めるだけでは彼女も納得すまい」


「ですね。――――――そうでしたら、ベル様にチャンスを与えてはいかがでしょうか!」


「チャンス?」


「はい。理由もなく褒められても納得するのは難しいですが、理由があって褒められるととても嬉しいのです。きっとベル様もそう感じてくださると思います」


 理由か…………褒める理由か。普段から俺のために働いてくれる彼女達をただ褒めるのも難しいものだな。


「分かった。そうしてみよう」


 アメリアは満面の笑顔で嬉しそうに頷いた。




 おやつを食べ終え、ベルの下にやってきた。


「ベル」


「っ!? ご、ご主人しゃま!?」


 すぐに檻の中から瞬間移動で出て来るベルは、いつもなら俺の胸の中に飛び込むはずなのが、そのまま地面に跪く。

 それくらい彼女は追い詰められていたのだな。


「一つ仕事を頼みたい」


「は、はいっ! なんでも仰ってください!」


「うむ。少し大変な作業になるがいいか?」


「はいっ!」


「配下になった街々が増えたのは、ベルも知っているな?」


「もちろんです!」


「街々を行き来する場合、我々はワープポータルを利用できるが、平民共はそうはいかない。それを何とかしたいのだ」


「下民共の移動でございますか?」


「そうだ。街と街を真っすぐ・・・・結ぶ道が必要だと思ってね」


 少し納得いかない表情のベルだ。きっと下民共の道を用意するのが理解できないのだろう。


「彼らは放っておけば勝手に人口を増やす。だがそれをもっと増長させるには交易を広げる必要があるのだ。そうすれば人口が増え、より多くのダンポが産めるのだ。これはとても大切な仕事で、ベルにしかできない仕事だ」


「!? かしこまりました! 街と街の間の道を繋げばいいのですね!」


「そうだ。方法は任せる」


「はいっ!」


 方法といってもベルなら一つしか取らないはずだ。

 彼女は自信にあふれた表情でダンジョンを後にした。

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