第73話 ベルのお仕事。
「アメリア」
「はい。ご主人様」
「今からベルが街間の道路を作る。それをサポートして貰いたい」
「道路でございますか?」
頭を傾げるアメリアが可愛らしい。
「ああ。各街が真っすぐ繋げられれば、今以上の物流が生まれるはずだ。それで領民達の生活もより豊になり、子供をたくさん産めるようになるだろう」
「なるほど! それでどんどん人口を増やしてダンポになさるのですね!」
「そうだ。そのためにも領民達の物流は大事だからな。ベル一人では大変だと思うので、それをサポートして貰いたい」
「かしこまりました。早速ベル様と打ち合わせ致します」
すぐにベルに向かうアメリア。
アメリアが担当している食堂では、今回新しく眷属奴隷となった女の子たちが一生懸命に料理を練習していた。
すでに料理の仕方やレパートリーは伝えているようで、アメリアがいなくなっても彼女達は手を止めることなく、料理の練習を続けていた。
食堂を後にして、リース達の仕事場を一度訪れて、励ましてから玉座に戻った。
モニターを駆使してベルとアメリアのやり取りを眺める。
「ベル様」
「アメリア?」
「ご主人様からベル様の手伝いとのことで」
「そうなんだ~」
「何かお困りがございますか?」
「う~ん。ご主人しゃまから道路を作って欲しいと言われたんだけど、どうやって道路を作ろうか悩んでいて…………」
「そうでございましたか。今のところの案はございますか?」
「うん! 私の
「確かに……ベル様の突撃は素晴らしいのですが、形が丸かったですね」
「そうなの…………」
肩を落とすベルにアメリアが優しく微笑む。
まるで妹を見るかのような笑みだ。
そもそもアメリアには可愛らしい妹が3人もいるので、妹達のサポートには慣れているはずだ。
「ベル様? ではこうしてみませんか?」
「うん?」
ベルに何かを耳打ちすると、ベルの表情がぱーっと明るくなり、「それ凄くいい! それ試してみよう!」と話した。
「ベル様。それでしたら、少しだけお待ちください。すぐに各街に通達致します。知らずに引かれるご主人様の領民がいるかも知れません!」
「それはダメ! アメリア! すぐに知らせてちょうだい!」
「はい! かしこまりました! すぐに行ってきます!」
「うん! 私はギブロン街で待ってるね~」
「はいっ」
妹の扱いが本当に上手いアメリアだな。
アメリアが最下層に向かい、各街に連絡をしている間、ベルはギブロン街に向かった。
ギブロン街に着いたベルを、住民達が不思議な視線で見つめる。
西入口付近でアメリアを待っているベルを見かけた兵士が、真っ青な顔で冒険者ギルドに走っていく。
暫くして、冒険者ギルドの方からギルドマスターのヴァイオが急ぎ足でやってきた。
「ベル様。いらっしゃいませ」
「ん? 誰?」
「レヴィ様の眷属でございます」
「ふ~ん。あ! お前! ギブロン街の!」
「はっ。覚えて頂きありがとうございます。何か不自由がございませんでしたか?」
「ん~特にはないかな?」
「かしこまりました。もしよろしければ、あそこでお待ちくだされば、すぐにアイスクリームをお持ちします」
「え~! で、でも……今はお仕事中だし…………」
「さようでございましたか。では仕事までの間だけでもご用意しましょう」
「う~ん。仕事までならいいか!」
少し悩んでアイスクリームの誘惑に負けるベルが少し可愛いと思ってしまった。
それにしてもベルはアイスクリームが大好きで、既に眷属達は守護眷属達の好みまで覚えているのだな。
感心していると、すぐにアイスクリームを持って来た部下からベルに渡した。
近くにあったベンチでアイスクリームを貰って食べるベルは、小さな足をぶらぶらさせて嬉しそうにアイスクリームを頬張る。
そんな姿を見た住民達は、声を揃えて「可愛い~」とベルを愛おしく眺めていた。
丁度計ったかのように、ベルがアイスクリームを食べ終えたタイミングで、アメリアが数人の眷属を連れて現れた。
「ベル様。お待たせしました」
「お、おかえり! 待ってないよ! アイスクリームも食べてないからね!」
「うふふ。ベル様。失礼します」
頬に着いたアイスクリームの欠片をハンカチで拭うアメリア。
その姿もまた可愛らしく、普段見れない二人の関わりが面白い。
「アメリア! そろそろいいの?」
「はい。ギブロン街にも連絡を終えていまして、住民達が避難しております」
実はアメリアが来る直前に、ギブロン街に大きな鐘の音が鳴り響いて、住民達が家に帰って行った。
これは緊急時に行われる鐘で、今や全員が死神教の信者であるギブロン街で、鐘の音を聞いて家の外に出るような住民は存在しない。
ベルとアメリアがギブロン街の西入口から外に出る。
俺が見れるモニターもここまでで、この視界を超えると、これ以上姿を見る事はできない。
入口の前に立つベルに、後方にいた眷属達が大きな金属を持ち運んだ。
「ベル様。こちらが例のモノでございます。以前道路を作るためにとご主人様が考案なさったものでございます」
「ご主人しゃまの!」
「はい~もしかしたらご主人様はベル様のために作っておいたのかも知れませんね」
「!? ね、ねえ。アメリア」
「はい?」
「これが終わったら、それをくださいとお願いしたら聞いてくださるかな?」
「間違いなく聞いてくださると思いますよ?」
「うん! 仕事が終わったら、それをくださいとお願いしてみるっ!」
「はい~」
今にも頭を撫でそうになったアメリアだったが、さすがに相手は上司なので途中で手が止まった。
ベルが持つ金属。
それは大きな金属の鉄ローラーである。
いわゆる『タイヤローラー』と呼ばれていた作業車を思い出して作っておいたモノで、もしこの先道路を整地する際に使えるかなと思ったのだ。
大きさはベルよりもはるかに大きく、運んでいるだけで地鳴りがするほどに重いものとなっている。
しかし、鉄ローラーを片手で持ったベルは軽々と持ち上げた。
ステータスがある異世界だからだが、小さな体を持つベルが、前世でいう数トンにも達する重さの金属を軽々と持つ姿が中々面白いと感じる。
鉄ローラーをセットしたベルは、アメリアに「行ってくるね~」と言い残すと、目にも止まらぬ速さで真っすぐ隣の街に向かって走り出した。
彼女が通り過ぎた場所には平坦な道が出来て、ただ地面をこすりつけているわけではなく、
それもあり、彼女が通った道の両脇には余った土が積みあがっている場所が見受けられる。
モニター越しに水平線に消えるベルを眺めた。
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