第19話 レヴィの初陣

 アメリア達の父親がやって来た次の日。

 意外にも不満を口にしながら、ちゃんと働いている父親に不気味さを覚えるが、生きるために仕方なくやっている感じだ。

 ちゃんと働くなら暫く放置するしかない。


 そして、本日。

 遂にあれが動いた。


 ダンジョン内を見渡せるモニターは全部で10個あるが、そのうち一つをレヴィに貸しているので9個あるモニターに、遂にレヴィの姿が映る。

 どうやらダンジョン内に入って来た侵入者の中に鍛冶師を見つけたそうだ。


 実は、ダンジョンマスターレベル1の時は、現在の時間と侵入者のレベルしか映らなかったが、レベル2になってから侵入者の『才能』が見えるようになっている。

 10歳になった時に開花する『才能』。

 その『才能』により、スキルツリーというのを手に入れる事が出来て、スキルツリーはレベルによってスキルを与えてくれるそうだ。

 ちなみに、俺に『才能』はない。

 そもそも『才能』という欄がないので、レベルが999だけどスキルを持っていないのだ。


 それはさておき、目の前のモニターに鍛冶師を擁する4人パーティーが映っている。

 一人は普通の人よりも身長は随分と小さいが、身体が筋肉質で『才能-鍛冶師』と表記されている。

 他のメンバーは普通の人で、才能に『剣士』『闘士』『シーフ』と表記されていて、それぞれ得意そうな武器を携えている。

 レベルは意外にも高くて、全員が31で1層の魔物なんて軽々と蹴散らしていた。


 それにしても31って高いな?

 子爵の兵士達でも20だったので、それに比べて随分と高い。

 兵士長が40だから、丁度その間のレベルか。


「ヴァイオ。本当にここに宝が眠っているのか?」


「おうよ。クソ領主が帰ってこないのは、どこかの層で全滅したんだろう。それならクソ領主が持っていたブラッドルビーが眠っているはずだ」


「だがよ。兵士どもが全滅した場所なんだろう?」


「恐らくダンジョンの罠に陥ったんだろう。だからシエラにお願いしたんだ」


 そう話すドワーフと男が唯一の女性に目線を移す。


「まあ、私は貰えるモノさえ貰えるんならいいんだけどさ。ヴァイオ。約束忘れないでよ」


「あったりめぇよ! 好きな武器でも防具でもなんでもいいぞ!」


「やった! 短剣がもう一つ欲しかったから、マジックアイテムでお願いね!」


 シエラと呼ばれた女が喜ぶのを仲間の男二人がやれやれと見つめる。

 子爵が持っていたとされているブラッドルビーか。

 名前からして、宝石だな。


「アメリア! 落とし物倉庫から赤く光っている宝石を探して来てくれ! ブラッドルビーというモノらしい!」


 もちろんこの場にアメリアはいないので、返事は返って来ない。

 そのままモニターを注目する。


 数十分後。


「ご主人様! 見つかりました!」


 小走りで入って来たアメリアは、少し黒がかかった赤い宝石が付いたネックレスを両手に大事そうに抱えていた。

 渡された宝石を眺める。これは美しい宝石だね。


 その時。


「誰だ!」


 モニターから驚いた声が聞こえる。

 そこにはオークを倒した先程のパーティーの4人の前に佇むレヴィの姿が見えた。

 アメリアと一緒にモニターに注目する。


「ごめんあそばせ。わたくしは偉大なる主様の始まりの守護眷属ガーディアンレヴィと申します」


「は!? 守護……眷属?」


「おい、全員気を抜くな! こいつやばいぞ!」


 全員が臨戦態勢でレヴィを睨む。


「そう驚かないでくださいませ」


 全員が冷や汗を流しながら、少し震える手で武器を構える。


「一つ聞こう。お前が兵士団を倒したのか?」


 リーダーと思われる男がそう話すが、レヴィは笑みのまま首を横に振る。


「あれは我が愛しい主様の力。私なんぞとは比べられるほどもありません」


「では、もう一つ聞こう。これから俺達はどうなる?」


「…………うふふふふ。貴方達はここで――――」


 レヴィの言葉を待つ事なく、リーダーが攻撃を仕掛ける。

 さすがパーティーというべきか、メンバーも一斉に飛びかかる。

 リーダーの剣と鍛冶師の槌がレヴィに叩き込まれる――――と思った矢先。

 レヴィはいとも簡単そうに二つの武器を左右に手で振り払う。

 二振りの武器は飛んでいるハエのごとく、大きく飛ばされた。

 その隙間を狙うかのように、女から投げつけられた短剣がレヴィの顔に刺さる。


「や、やったか!」


「ッ!?」


 一瞬希望の色に染まったメンバーは、レヴィの顔を見て驚く。

 投げつけられた短剣は確かにレヴィに命中した。

 ただ、命中した短剣はレヴィが歯で噛み、止められていたのだ。

 小さく笑みを零したレヴィが短剣を噛み砕く。


「あらあら、一流の冒険者ともあろう者が、これくらいで根をあげるのですか?」


「ちっ! アラン! まだか!」


「まもなくだ!」


 もう一人の男が両手に大きな魔力の塊を集めていた。

 アランを守るかのように全員が前を塞ぐ。

 そんな彼らに笑みを零したまま、動かないレヴィが両手を軽くあげて「いつでもどうぞ」と呟く。


「終わった!」


「よし! 行くぞ!」


 リーダーの号令と共に、全員が飛び出して来る。

 動かないレヴィを警戒しつつ、それぞれが隠し持っていた小さな剣でレヴィを斬りつける。

 最後に、後ろで力を溜めていた男の両拳がレヴィの身体に直撃する。

 2層の広場に、轟音が鳴り響き、攻撃の凄まじさを伝える。

 一緒に見ていたアメリアは、怖いようで少し震えていたが音とともに視線を外して震え出した。

 だが、あれくらいでやられそうなレヴィではないと思う。

 そうでなければ、レヴィが――――――あんな楽しそうには笑わないだろうからね。


「闘士の必殺技『衝拳牙』。なるほど。レベル30にしてはまあまあですわね」


「くっ! ば、化け物! ここは俺が受け持つ! 全員走れ!」


 リーダーがそう話すと全員が一瞬戸惑うが、長年の冒険者なだけあり、3人が出口に向かい走り出す。

 殿しんがりを勤めるのか。

 大した連携力だなと心から感心する。

 だが、彼らの狙いは叶うはずもなく。


 一瞬姿が揺らいだレヴィがその場から消え、リーダーの腹部に蹴りを入れる。

 あまりの速さに俺も一瞬で消えたかに見えるほどだ。

 そんなリーダーが3人よりも早く出口に吹き飛ばされ、その姿を見た3人の顔が絶望に染まる。

 そして、一人、また一人、レヴィに襲われ気を失った。


「うふふふふ~あはははは~! 貴方達は私の生贄になりなさい! これでご主人様に~あは♪」


 一瞬俺の背中がゾクッとしたが、レヴィが無傷で良かった。

 アスが言っていた通り、レヴィ達にオークが何万匹いようが勝てる気がしない。

 それくらいレベルによる力の差は大き過ぎるんだな。


 モニターに映っているレヴィは、『才能-ダンジョンガーディアン』と書いており、『レベル-200』と書かれていた。

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