第18話 クズの再訪(三人称視点あり)

 レヴィが鍛冶師を捕まえに行ってから数日が経過した。

 俺はと言うと、Eランク動物生成を行い、豚肉、鳥肉、牛肉を生産している。

 それも全てアメリアが作ってくれる料理のためだ。


 とある日の事。

 俺のモニターに見慣れた人が映る。

 こいつ…………何故ここに?

 そのまま注目していると、拡張前のルートを進める。

 明らかに狩りに来たのではない。こちらに2層に向かうための動きだ。


 しかし、拡張した事もあり道が変わっている事にすぐ気づいたそいつは、誰もいない行き止まりで声を上げる。


「旦那! ちょっと話があるんだ! うちの子供達がちゃんと働いているのか? もしよければ、俺に任せてくれれば、子供達をちゃんと教育・・してやるよ!」


 教育ね…………。

 お前の教育が碌なモノじゃない事くらい、前回会っただけで知っている。

 自分の子供も売る行為をしているからな。


「だ、旦那! 俺はアメリアの父だからよ! どうにかアメリアに相談してくれねぇかな!」


 もう二度と関わるなと言ったはずだが…………。

 それでもアメリア達のたった一人の父親か。


「アメリア!」


 すぐにアメリアがやってくる。


「ご主人様? お呼びでしょうか?」


「ああ。これを見てくれ」


 俺の下に小走りでやって来たアメリアにモニターを見せると、可愛らしいその顔にシワが出来る。


「どうして…………」


「どうやらお前達に会いたいそうだ」


「…………」


「俺はアメリア達の働きに満足している。父と会いたいのなら会っても構わない」


「…………分かりました。ご主人様。大変申し訳ございませんが、一度面会させてください」


「いいだろう。アス!」


「ここにいますよ~マスタ~☆」


 既に聞き耳を立てていたアスが少し開いた入口から入って来る。

 レヴィは鍛冶師を探しているが、アスが何もしていないので暇だったのだろう。


「こいつを連れてこい」


「かしこまり~☆ あっ、五体満足でですよね~?」


「お、おう」


 まさか五体満足と言われると思わず、間抜けな声を出してしまった。

 緩く笑顔になったアスがその場から消え去る。

 1層にワープでもしたのか。

 ガーディアンならではの、ダンジョン内を自由にワープ出来るようで、こういう仕事を任せるにはもってこいだな。


 それから数分もしないうちにアスの後ろにくっついて、嫌らしい笑みを浮かべたアメリア達の父親がやって来た。




「だ、旦那! お久しぶりでございます!」


「ああ。俺は会いたくはなかったがな」


「そんな冷たい事言わないでくださいよ! ほら、旦那にお土産もありますから!」


 父親が取り出したのは、青色に光小さな石だった。


「それは?」


「ご主人様。あれは小魔石でございます。魔道具を動かす時なんかに使います」


 魔道具に魔石か。

 まだまだこの世界の事を知らなさ過ぎるか。


「それで? お土産を持って、わざわざ約束を破ってまでやって来た理由はなんだ?」


「は、はい! ここで働かせてはくれませんか!? どんな雑用でもしますから!」


 ちらっと見たアメリアは、ゴミムシを見ているかの表情を浮かべている。

 最近アメリアが怖くなった気がするのだが…………。


「うちの働き口は間に合っている」


「そ、そんな! 本当に頑張りますから! 何ならアメリア達の教育・・も任せてください!」


 先からアメリア達の教育と言っている事に違和感を感じるな。

 一体、なんの教育だ。


「…………アメリア」


「はい」


「あの男にここの仕事を教えてやれ」


「ッ!? ………………かしこまりました」


「旦那! ありがてぇ!」


 またもや父親をひと睨みしたアメリアは、俺に頭を下げて父親を連れて外に出た。


「マスタ~、あんなのをここに置くのですか~?」


「…………あれでも一応はアメリア達の父親だからな」


「アメリアは明らかに嫌ってましたけど~」


「そうだな。アス」


「は~い☆」


「もしあの父親がおかしな真似をしたら拘束しろ」


「あ~い☆」


 アスがスキップしながら玉座の部屋を後にした。

 まさか、またあの男に会うとはな。

 眷属奴隷にすらしたくはない。

 暫く仕事ぶりを見て、追い出すとしよう。




 ◇




 アメリアは自身の父親を連れて作業場に向かう。


「お父さん。好き勝手に触ったりしないでね」


「ふ~ん。お前達も随分偉くなったもんだな」


「…………」


 返事すらしないアメリアに、苛立ちを覚える父親。

 作業場に着くと、アメリアの弟妹が父親を見るが、誰一人反応せず、自分の作業に集中する。


「おい! 俺はお前達の父親だぞ!」


「お父さん。貴方の作業はここで植物を集めて、向こうの建物の運ぶ事。いいですね?」


「ちっ。どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」


 苛立つ父親を冷たい視線で見送ったアメリアが作業場をあとにする。


「アメリア~」


「アス様」


「あいつが変な事をしたか拘束してくれと言われてるから心配しないで~☆」


「ありがとうございます。それで少し安心出来ます」


 アメリアの頭を優しく撫でたアスは、屋根の上に飛び上がり、作業場を見張り始める。

 アスが見張るならと安心したアメリアは食堂に戻った。




 テキパキ仕事をこなす自分の子供達にさらなる苛立ちを覚える父親。


「マリ! 休みはまだか!?」


「まだ始まったばかりでしょう!」


「ちっ! なんで俺がこんな雑用をしなきゃなんねぇんだ!」


 父親に冷たい視線を送る子供達。


「なんだよ! 父親を睨むんじゃねぇ!」


 それでも睨み続ける子供達に、父親は少し恐怖を感じ始める。

 ただ無言で冷たい視線を送り続ける子供達が、今まで知っていた自分の子供達ではないように思う父親。


「わ、わーったよ! やりゃいいんだろう! やりゃ!」


 内心舌打ちをしながた、手に渡された籠に植物を取って入れ続ける父親であった。






「ふう~ん。私としては早く手を出して欲しいんだけどね~これでマスターのご褒美が頂けるかも知れないんだからさ。早く手を出しなよ」


 屋根の上から父親に呟くアスの瞳には、欲望の色が灯っていた。

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