第80話 魔人狩り(三人称視点)
◆とある山の奥◆
「ルゼ~」
「あい…………」
「そろそろ離してあげたら? そいつ死んじゃうわよ?」
「あっ……ご、ごめんなさぃ…………」
「いいのよ。でもご主人様のためになるのだから、殺さないようにしようね?」
「うん!」
そう話すルゼは、両腕両足と羽がボロボロになった魔人をゴミのようにポイっと投げ捨てる。
投げ捨てられた魔人は、そのままメイド達に拾われ頑丈な鎖に繋がれ、その場から連れ去られた。
「ルゼったら、またやりすぎちゃったわね。まだマスタ~の悪口言われちゃったの?」
しょぼくれているルゼの頭を優しく撫でるアスに、目を潤ませて小さく頷いた。
「よしよし、いい子だね。マスタ~もルゼの気持ちなら理解してくれるわよ。大丈夫大丈夫」
「ぅん……」
「ふふっ。ルゼのおかげで主様に献上品をいくつも持って帰れるわ。だから胸を張りなさい」
「うん……! レヴィ姉ちゃん! アス姉ちゃん!」
二人の励みにより、また元気を取り戻したルゼは、喜んでくれるご主人様の笑顔を想像して、笑いがこぼれた。
「それにしてもルゼのおかげで魔人もずいぶん捕まえやすくなったわね。最初はよく吠えるなと思ったら、やっぱり雑魚ばかりだね」
「うんうん★ なんでなんな雑魚がうちのマスターを馬鹿にするのか理解不能★」
「アス。漏れてるわよ?」
「あら☆ 私もルゼと同じ思いだから、怒ってしまうね」
「全く…………アスは魔人を二
「そ、それは……レヴィだって一匹やったじゃない」
「それは主様を侮辱するから!」
レヴィとアスが言い争いをしていると、それを聞いたルゼがクスっと笑う。
それに釣られるかのように、レヴィとアスも大声で笑った。
「ルゼ、そろそろ次の獲物を探しましょう」
「ぅん。それがね。二つあるんだけど……どっちがいいかな?」
「ん? 二つ?」
「うん。一つは大きいのが一つ……、もう一つには弱いのがたくさん…………」
「「大きいの一つ」」
「ぁい」
レヴィとアスが間髪入れず答えたのは、魔人の中でも大物と思われる獲物だ。
すぐに目を瞑ったルゼの鼻がぴくぴくっと動き始める。
暫く匂いを嗅いだルゼが目を開けると、元々赤い瞳は真っ赤な炎が燃えるようなオーラを発していた。
「あっち……!」
「了解。行くわよ! 二人とも!」
「あ~い☆」「あいっ」
一瞬で消えた三人が残った場所は、元々何もなかったかのような静寂に包まれた。
◆王都より遥か北側の山脈◆
「あいつは?」
「どこにも見当たりません」
「ちっ…………まさかこのタイミングで逃げるとはな」
悪態をつくのは、王国第一騎士団の団長ジラールである。
共に逃げ込んだはずの協力者であるセーラの姿がどこにもおらず、元々逃げると公言していた彼女だったのだが、ジラールの提案で残っていたのだが、どうやら逃げたようだ。
「それより、あれはどうなった」
「既に王国の東部と西部を制圧したようです」
「早すぎる。一体どんな集団ならこれ程の速さで侵攻できるんだ」
「騎士からの報告ですと、疲れ知らずの大勢の魔物の軍勢だそうです」
「魔物の軍勢!? 最初は変な集団だと聞いていたのだが?」
「はっ。どうやら南部は不思議なローブの集団だったのですが、東部と西部は殆ど魔物の軍勢で押しかけたそうです」
「ちっ! という事は、逃げ込んだ魔族だな! それにしても勇者は何をしているんだ! 魔族を滅ぼすとあれだけ大言しておきながらっ!」
テーブルを激しく叩きつけると、粉砕されたテーブルが四方に倒れ込んで、空しい音を響かせた。
「団長! 大変です!」
「っ!? なんだ!」
「外に変な一団が現れました!」
「変な一団?」
「女3人です! メイドの女と派手な服の女と幼子です!」
「……? どうしてそれくらいで報告にくるんだ!」
「そ、それが……とても人とは思えないほどの気配を放っておりまして」
「なっ!? もしかして、セーラが言っていた相手か!?」
ジラールは王国の歴史を象徴する王剣ベクハドールを担いで外に急いだ。
急いで外に出たジラールの視界にはとんでもない光景が広がっていた。
「ルゼ~ここで合ってる?」
「もういなくなってるぅ…………」
「珍しいわね。ルゼの
3人の女が談笑している光景。
その周囲には王国内でも一か二を争う強者のはずの騎士達の――――亡骸が転がっていた。
それも圧倒的なまでの力でねじ伏せられたのが分かるその光景に、ジラールは思わず息をのんだ。
「ん? なるほど…………レヴィ? どうやらルゼの鼻は当たったみたい」
「あら? どうしたの?」
派手な服の女がジラールを指さす。
いや、ジラールではなく、ジラールが持つ剣だ。
「本当に珍しいわね! ルゼ? よくやったわ!」
「ぅん? 魔人じゃなかったけど…………いいのぉ……?」
「ええ。魔人
3人の女はまるでジラールは眼中にすらない会話を続ける。
普段ならそれに腹を立てるはずのジラールだが、一歩も前に出る事ができなかった。
その理由は目の前の女3人から放たれる強者の気配が、今まで出会ったどんな存在よりも絶望に近かったのだ。
――――それこそ、暴虐の英雄と同じくらいに。
「さて、そろそろ回収してマスタ~に持っていこう? ルゼも凄く褒められると思うよ☆」
「やった!」
飛び跳ねて喜ぶ幼女。
その姿に瞬きするジラール。
だが瞬きが終わった瞬間には幼女の姿はいなくなっていた。
「!?」
一瞬、ジラールの鼻には、一度も嗅いだ事がない甘い香りがした。
だが感じた次の瞬間、視界が不自然な形で変わっていく。
まるで世界が
そして、その視界には自分を見下ろす逆様になっている幼女と、既に身体がバラバラになっている騎士達が見えた。
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