第79話 兵士長(三人称視点)
※注意とお詫び※
実は前話からですが、この話から暫くの間、三人称視点が続きます。
途中で主人公視点(一人称視点)もありますが、かなり長期間三人称視点で物語が進みますので、ご理解の程よろしくお願いします。
◆王国北部◆
「た、隊長! また難民がやってきました!」
「またか…………王都からの返信は?」
「以前と変わりません!」
「くっ…………自分の国民を…………斬り捨てろというのか…………」
城壁から下に集まっている大勢の難民を眺める兵士隊長は悔しそうに拳を握りしめた。
それもそのはずで、王国北部に大勢の難民が流れてこんで、彼らが過ごす場所がない。
王国はその状況を解決するために――――自らの手で王国民を
その理由として、王国の秩序を守っていた騎士団が全員居なくなったためである。
騎士団がいた頃は、ここまで酷い仕打ちはなかっただけに、王国の兵士達は悔しい思いを飲み込んだ。
だが現実は刻々と迫って来て、遂には城壁の前には街に入りきらないほどの難民にあふれた。
「兵士長。このままでは難民もですが、住民達の不満も爆発します」
「だがこのまま彼らを自らの手で殺すのは…………」
「そもそも彼らを追いやった魔物の軍勢のせいです。北部にいるはずの魔族の仕業でしょうから、一体勇者は何をしているのでしょうか…………」
「そうだな。願うなら今すぐ勇者に帰って来て貰いたいのだが、あの勇者なら寧ろ難民を斬り捨てそうだな」
「ええ。暴虐の勇者ですからね」
城壁の内側と外側から怒声が鳴り響く中、その時は遂にやってきた。
「ま、魔物の軍勢が来た!」
一人の声が怒声をかき分けて周囲に響き渡った。
城壁の外側と城壁の全ての兵士達の視線が地平線に向いた。
「あまりにも早すぎだろう! もう来やがったのか!」
「兵士長! どうしますか!」
「…………民達を
「!? しょ、正気ですか!?」
「当たり前だ。寧ろ正気だからこそ、そう思っている。どの道我々兵士はここで死ぬ。それなら民達を少しでも生かせる事を考えた方がいいだろう」
「…………王様が黙っていませんよ?」
「ふん。あんな王なんぞ、どうでもいい。俺は王なんかに忠誠を誓ったわけではないからな」
「兵士長も本当に変わっておられますね…………ですが、それを知っていて、俺達は兵士長の後を追ってきていますからね」
兵士達が一斉に兵士長を見つめる。
彼らの視線には圧倒的な信頼が寄せられる。
兵士長こそ、もと騎士団長であり、王国最強と名高かった者でありながら、正義を重んじるあまり王の逆鱗に触れ、辺境の地に飛ばされているのだ。
「エクス! お前は住民達を避難させろ! 10分後、ゲイムは城門を開けてやれ!」
「「はっ!」」
「それが終わったら――――――全員今日のくじ運は最悪だ」
兵士長の言葉に、兵士達が大笑いをする。
一通り笑うと、全員鋭い表情で地平線を睨んだ。
「兵士長。どこで戦います?」
「城壁で待ち構えたいのは山々だが、サイクロプスがいる以上、打って出た方が良さそうだな」
「ですね。すぐに準備します」
「おう。任せた」
副兵士長が兵士達をまとめて走り去る。
数分後、街の住民達が反対側の出口から街を出て北に逃げていく。
さらに数分が経過して、正面の入口が開くと、今かとばかりに難民達が街を通って北に逃げていく。
山脈に両脇を止められているこの場所を通るには、この街を通るしか道がなかったため、難民達は必死に訴えていたのだ。
逃げながらも、すぐに入れてくれなかった兵士長に呪いの言葉を投げかける難民達に、兵士長は苦笑いが浮かぶ。
自分が守っていた王国民というのは、しょせんこの程度だったという事だ。
街に全ての住民達が居なくなり、兵士達の準備が整って街の前に出陣する。
「お前ら! その命を俺に託せ!」
「兵士長~当たり前じゃないですか! ここに来た時から俺達は兵士長に懸けてますよ!」
「「「そうだ! そうだ!」」」
兵士達の信頼が籠られた言葉に熱くなる兵士長は、嬉しそうな笑みをこぼした。
そして、右手に剣を高く上げて、目の前の魔物の軍勢に向かって走り始めた。
魔物の軍勢に勇敢に剣を向けた兵士達だったが、圧倒的な数に兵士達は一人、また一人その命を落としていく。
その中、オークの群れの中で圧倒的な力を見せていた兵士長が近くにいるサイクロプスを目掛けて走る。
「剣聖奥義! 断絶守護!」
真っ赤に燃える気配は、その命を燃やすがごとく、赤く燃え上がる。
人とは思えない高さの跳躍を見せた兵士長の一閃がサイクロプスの頭部を斬り捨てる。
兵士長とほぼ同時に地面には巨大なサイクロプスの頭部が落ち、巨大な身体が倒れ多くのオークを巻き込んだ。
「はぁはぁ…………くそ、まだこんなに残っているのか…………悪いな、お前ら」
兵士長の後ろからは既に戦う音が
その時、兵士長の前に一人の影が舞い降りる。
「お久しぶりですね」
「なっ!? お、お前は!」
降り立つ美しい金髪をなびかせた女に、驚きを隠しきれない。
「ドミニク師匠。師匠さえ良ければ、こちらに寝返りませんか?」
「…………断る」
「それは死んでいった兵士達のためですか?」
「…………そうだ」
「相変わらずですね。私はそんな貴方がとても憧れでした」
「俺もお前を育てた事を誇りに思っていた」
「……その頃の私はもう死んでいます」
「そのようだな」
「謝りはしません」
「もちろんだ。今のお前は――――――昔みたいなつまらない表情をしない、良い女になったと思うぞ」
「ふふっ。師匠にそう言われると嬉しいです。では――――――さようなら」
女と兵士長が凄まじい速度で通り過ぎる。
数秒後、兵士長の首が宙を舞った。
「英雄ドミニク様。ここでゆっくりお眠りください」
王国歴史上、もっとも功績を残した英雄ドミニクは愛弟子の一人の手によって、その生涯を終えた。
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