第78話 王国を襲う魔物の群れ(三人称視点あり)

 ◆王国東部◆


「あ、あれはなんだ!?」


 高くそびえ立つ城壁から地平線を眺めている兵士が驚きの声をあげる。

 周囲の兵士達も彼に釣られて、地平線の向こうを眺めた。

 普段ならただ平和な風景が広がっているはずの景色に、広範囲で土煙が上がっていた。


「お、オークだ! オークの群れだぞ!」


「ありえない! あんな数のオーク……ありえない!」


 土煙から見てるのは、緑肌の強靭な肉体を見せている怪物――――オークであった。


「それだけじゃねぇ! オークの間に化け物も混じっている!」


 オークの間に見えているのは、オークが小さく見えるくらいの巨体を持ち、黒い肌を持つ人型魔物。

 その姿を見た事がある人は数少ない。

 それもそのはずで――――


「ま、まさか…………地獄の番人! サイクロプス!?」


 サイクロプスの一つ目が城壁を睨んだ。

 遥か彼方からの睨みなはずなのに、城壁に圧倒的な殺気が襲う。


「ば、化け物だああああああ!」


 一人の兵士が武器を投げ捨てて、叫びながら逃げていく。

 彼に感化されて一人、また一人城壁から逃げていく。

 次第にその波は大きくなり、住民達を巻き込みながら街全体が恐怖の渦に呑まれた。


 数時間後。


 街には置いて行かれた子供達がただただ現状を理解できず、震えて涙を流している。

 そんな彼らの前に黒いローブをなびかせて、不思議な仮面を着用した女が降り立つ。

 大量にやってきたオークは、街を崩壊させると思いきや、大人達が逃げた跡地に全く手を加えない。

 むしろ、大事そうに家を壊さないような足取りで街を進む。


「みんな~! よく聞きなさい。この街は死神教が占領したわ! 出ていくなら今のうちに出ていきなさい! 今ならその命を助けてあげるわ。でも出ない場合、我々の敵だと判断し、全員――――――命を狩らせて貰うわよ」


 彼女の声に震え上がる子供達だったが、何故か誰も逃げない。

 捨てられた子供達はゆっくりと、広場に集まり出した。


「あら? どういうつもり? 全員死にたいの?」


「あ、あの! 死神様は信じる者には慈悲を与えてくださると聞きました!」


「へぇー」


「私達はずっと死神様がいらっしゃるのを待っていました! どうか、死神様を崇めさせてください!」


「ふふっ。いいわよ。では死神様への信仰度を試すわ! こちらのオークに投げ飛ばされて・・・・・・・死んでもらう・・・・・・わよ?」


 子供達は迷い一つなく、彼女の指示に従い、死神教の――――使徒としての洗礼を受けた。

 その日、その街の大人達は全員が北側に逃げ去り、残った子供達はオークにより蹂躙された。

 だが、子供達は全員が幸せそうな笑みを浮かべたとされる。


 あれから数日後。

 その街には不思議と活気あふれる生活を送る子供達の姿がいた。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 眷属達が戦いに向かって既に数日が経過している。

 毎日のように街を占領したというアナウンスが流れてくる。

 さらに凄いと思うのは、占領した街を支配するためのダンポは毎日のように貯まっている。

 そのダンポを使い支配街を毎日のように増やしていく。

 一応街の状況を確認しているのだが、元々の王国北部は住民ごと支配していたのだが、ここからの街は殆ど子供達しか残っていない。


 それもこれから増えるであろう住民達の住まう地を確保するためである。

 ダンジョンの中で過ごさせてもいいんだけれど、ダンジョンが維持できるか分からない。

 それに一か所に大人数をまとめるのは、人の社会からみて必ず不正や腐敗が始まると相場が決まっている。

 それもあるため、ギブロン街を中心としたネットワークを構築しつつ、増える人口は各街に送る予定だ。



 今回の戦争で一つ大きな検証が成功した。

 それというのは――――魔物生成である。


 今までの場合、1層と2層にFランク魔物を2,000体生成して、支配下の住民達に狩らせているのだが、アメリアの疑問から、支配下となった街もダンジョン化するなら、街にも魔物を作れないかと考え付いた。

 それを試した結果として――――見事に当たったのだ。


 しかも、本来なら魔物生成した階層から違う層には移動できなかったのが、支配街の魔物生成の場合、支配街から離れるという事が発覚したのだ。

 つまり、一つの街で2,000体の魔物生成を行い、それを外に行かせることができて、それが倒された場合、通常ダンジョン同様にまた元の支配街に再復活するのだ。


 それを利用して、ヘルサイズ達にDランク魔物のオークや、Cランク魔物のサイクロプスを付けて進軍させた。

 それもあって、毎日ひっきりなしに街を占領したというアナウンスが流れている。

 アナウンスが流れる度に全て支配承認していく。

 占領するときにオークが減った場合は、また召喚してあげると伝えているのだが、一向に帰ってくるヘルサイズは一人もいない。

 支配下になった街を眺めていると、戦った形跡すらないのが少し不思議だなと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る