第77話 ルゼと新しい戦いの開幕

 現在、俺の身体全体には赤い髪がぐるぐる巻かれている。

 さらに、俺の背中には腕と足だけでくっついているルゼが俺の頭の隣から顔を覗かせている。

 最初こそ、ずっと噛みついていたのだが、あれから落ち着いたようで、髪で俺をぐるぐる巻きにして、背中に乗り続けている。


 俺が玉座やベッドに座ると、器用に俺の膝の上に流れて来る。

 それにしても、まだ声を聞いていないのが一つ残念な点かな。


「ルゼ! いい加減にしなさい!」


「グルル…………」


「グルルじゃないわよ! 主様も困ってらっしゃるのよ!?」


 どうやらレヴィはルゼが気になるようで、ずっとルゼを気にしている。

 口ではこう言っているが、ルゼを最も心配していたのは、間違いなくレヴィである。


「レヴィ。俺は問題ない。ルゼには悪い事をしたのだから、暫くこうしておこう」


「主様…………既に十日が経っております…………」


 そう。

 実はあの日から十日も経っているのだ。

 それにより、大きな不満が出始めている。


 それは――――――俺はみんなと過ごす夜の時間を断っているからだ。


 まぁ、俺も少し溜まっているのだが、ルゼにはずっと我慢して貰った分、一緒にいる時間を極力過ごしてあげたいと思う。


「ご主人様~」


 レヴィががみがみ言っている傍で、アメリアがやってきた。

 相変わらず明るくふわふわしたアメリアは、こういう空気にはとても良く効く。

 レヴィ達も全面的に信頼を寄せているのもあり、アメリアが現れるとあまり言わなくなるのだ。


「アメリア。貴方からも言ってあげなさい。ルゼには困ったものだわ」


「ふふっ。ルゼ様もずっと寂しい思いをしてましたからね」


 その時。


「……アメ…………姉ちゃん…………」


「!? ルゼ様?」


 まさかルゼが初めて口にするのが、アメリアの名前だとは。


 それにしてもどうして?


 俺達が驚いている間に俺の前にやってきたアメリアが、笑みを浮かべてルゼの頭を優しく撫でる。


「ルゼ様? そろそろご主人様の独り占めはダメですよ? レヴィ様もアス様もベル様もご主人様に抱きしめてほしいんですからね?」


「…………ぅん」


「意外というか、どうしてルゼはアメリアの言葉を聞くのだ?」


「……アメ姉ちゃん…………毎日…………なでなで……」


 ん?

 ルゼってもしかして片言でしか話せないのか?


「ルゼ。喋るのが遅いから遠慮しているならしなくていいぞ」


「!?」


「俺にとってお前達は大切な眷属だ。ゆっくりでもいい。お前の声を聞かせてくれると嬉しい」


「ますたぁ…………大好き…………」


 恥ずかしいのか、俺にしか聞こえない声で呟いて俺の背中に隠れてしまった。

 だが、しっかりとその声が届いた。

 これで少しルゼに近づけた気がする。


「ルゼ様? 少しだけ話があります。良かったらこちらに来て貰えませんか? 美味しいデザートもご用意しています~」


「う……?」


「これからの皆様のためです」


「……ぅん」


 俺の身体を巻き付けていた赤い髪がゆっくりと解ける。

 背中からスルッと地面に落ちたルゼは、手と足を使い、四つん這いのまま歩き進める。

 ルゼがアメリアと玉座の間から出ていくと、溜息を吐いたレヴィが少し嬉しそうに笑みを浮かべた。


「レヴィもご苦労」


「いえ。私ではルゼに届きませんでした…………」


「確かにここまでは届いてないのかも知れない。だが、これで終わりではない。これからがある。これからルゼを見てやってくれ」


「主様…………はいっ!」


 レヴィの頭を撫でてあげると、久しぶりだからなのか、とても良い笑顔になった。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 なるほど…………話し合い・・・・というのはそういう事だったのか。

 ルゼが話し合いを終えて、すぐに戻って来て何があったのかなと思ったら、今日はアメリアがやってきた。


「ご主人様。ルゼ様はまだ恥ずかしいようなので、私が一緒に手ほどき致します」


 本来なら断ってもよいのだろうが、アメリアも色々考えての事だろう。

 それにほかの眷属達も毎日順番を待っているので、これで毎晩ルゼが離れるようになれば、良いのかも知れない。


 まぁ…………離れなくても良いかも知れない。


 横たわる俺をそのままに、アメリアがルゼを誘い、俺の腹の上に座らせる。

 恥ずかしそうに顔を赤らめて、俯くうぶさがまた可愛らしい。

 アメリアは俺には聞こえないような小さな声で何かを話しながら、ゆっくりとルゼの服を一枚ずつ脱がしていく。


 そして、その日はアメリアから色んな説明を受けながら、一所懸命に頑張るルゼがとても愛おしかった。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 次の日からはいつも通りにアメリアが決めた順番に戻った。


 それから数日が経過して、眷属達との時間を過ごして、遂には次の作戦に移る事になったのだが、ここで問題が起きた。


「ルゼ。魔人共を駆逐したいのだけれど、探せるわね?」


「ぅん……レヴィ姉ちゃん…………」


「主様。ルゼは元々とてもが利きます。匂いだけで魔人共を探し当てるのは造作もありません」


「ふむ……ルゼ。お前はどうしたい?」


 すっかり守護眷属の列に並ぶルゼが、俯いていた顔をあげて俺を見つめた。


「私…………頑張る……ますたぁ…………噛んだ…………贖罪しょくざい……したい…………です……」


「あれはもう気にしなくても良いのだが、それでルゼの気持ちが落ち着くのなら良いだろう。しかし、まだ王国の攻略が残っている。一番広い北部領土を手に入れたからと言っても、まだ東部と西部、さらには王都がある南部がある。二つを同時に進めるのはほぼ不可能だろう。何かいい策はあるか?」


 俺の質問にシャーロットが手を上げる。


「シャーロット。話してみろ」


「ありがとうございます。実は以前から鍛えていたヘルサイズ以外の部隊の準備が整っております。ご主人様の力のおかげで彼らはすぐにでも戦場に投入できるでしょう。これなら守護眷属様のお手を煩わせなくても、王国を滅ぼせるでしょう」


「…………ベル」


「はいっ!」


「お前には悪いがこれからも道を作って貰わなければならない。だがもしもシャーロット達が相手できないような強力な相手が出ないとも限らない。そこでお前には二つの命令を課す。シャーロット達と連携を取り、戦いを補佐しつつ、道を作ってくれ。基本はシャーロット達だけで十分まかなえるはずだ」


「かしこまりました」


「ありがとうございます」


 二人が深々と頭を下げると、玉座の間から外に向かった。



「レヴィ。アス。お前達はルゼと共に近くにいる魔人共を全員駆逐して来い」


「主様」


「ん?」


「魔人共はダンポとして非常に有効です。全員生きたまま捕まえて参ります」


 既にダンポはいらないくらい毎日増えていくのだが、多いに越したことはない。


「よかろう。だが無理はしなくていい。生け捕りばかりに気を取られ足元をすくわれたら元も子もない。お前達の安全が第一だ。わかってくれるな?」


「「「はいっ!」」」


 レヴィとアスがルゼを連れてダンジョンを後にした。

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