第38話 真犯人(三人称視点あり)
「…………」
俺はアスが持って来たリストを見つめて、驚きのあまり、何度もリストを読み返した。
このリストはアスが調査してくれたもので、不備があるとは思えない。
つまり、ここに書かれているのは、全て本当の事なのだろう。
「アス」
「はい★」
未だ怒り声のアスだ。
「アスの見立て通り、この人物一人で全て方が付きそうだな」
「はい★ 私も最初は驚きでした。まさか……彼が
「うむ。これはある意味してやられたのだな」
「マスタ~★ どう致しますか?」
「沈黙の蠍がああいう報復を受けている。その裏の者にも同じ報復を与えるべきだろう」
「かしこまりました★ すぐに彼を――――」
目を光らせるアスはどこか楽しむように最下層を後にして、ギブロン街へ向かった。
◇ ◆ ◇ ◆
ギブロン街。
冒険者達にとある連絡が入り、屋敷にやってくると、通報通りにその屋敷には人の影一つ見当たらなかった。
現状の確認が終わった彼らは、すぐにギルドに報告に戻る。
「…………『沈黙の蠍』が滞在していたと思われる屋敷が空っぽか」
「はい。間違いありません。昨日までの生活の雰囲気は感じられます。食事なども準備されていました」
「それが人間だけ忽然と姿を消したと?」
「そういう事になります」
「…………分かった。引き続き、街の治安を維持してくれ」
「はっ!」
冒険者達はギルドマスターの部屋を後にする。
「…………」
窓の外を眺める冒険者ギルドのギルドマスターのシメオ。
「…………」
――――「うふふ♪」
「っ!? 誰だ!」
シメオは両手にナックルを取り出し、声が聞こえた方を向く。
「誰も……いない?」
――――「あは♪」
「っ!? 出てこい! 隠れているのは知ってるぞ!」
声を荒げるシメオ。
それには目的があった。
大声を上げれば、冒険者ギルド内にその声が響くはずだ。
少なくとも何らかの敵に対してけん制出来るはずだ。
だが。
「誰も来ないわよ」
「っ!」
急に声が聞こえた右側に向かって、思いっきり腕を振るう。
だが、その腕は誰かに当たる事なく空を切る。
「くっ…………ダンジョンの魔人か!」
――――「うふふ♪」
シメオは迷う事なく、部屋の窓から外に飛び出る。
窓ガラスが割れる音が鳴り響く。
冒険者ギルドの前に着地したシメオ。
「っ!? なんだこれは!?」
確かに部屋から窓ガラスを割って飛び降りたはずのシメオは、冒険者ギルドの前に着地したはずだった。
――――はずだった。
なのに、今自身がいるのは、冒険者ギルド内のギルドマスターの部屋。
自分が元々いたはずの部屋の中だ。
――――「うふふ♪」
また女の笑い声が聞こえてくる。
シメオはもう一度同じ事を繰り返す。
だが、先程と同じで窓の外に飛び降りても元通りの部屋に戻される。
「…………魔人の力か」
大きく深呼吸で息を整えたシメオは部屋中を鋭い目が見回す。
「――――スキル! 炎覇衝撃波!」
シメオの両手から大きな炎のように燃える魔力が周囲に広がる。
次の瞬間。
「ぎ、ギルドマスター…………?」
目の前には自分の技でボロボロになっているギルドの受付嬢が自分を見つめていた。
「な、なっ!?」
受付嬢だけではない。
その周囲には多くの冒険者達や友人でもあるヴァイオ達も倒れている。
「シメオ……何故…………」
「ヴァ、ヴァイオ!?」
急いでヴァイオに駆け寄るが、シメオの前でその命を落とした。
「ボス……」
「!?」
シメオの後ろに多くの沈黙の蠍のメンバーが這いつくばってシメオを呼んだ。
「ボス……僕達と……一緒に……」
「く、来るな!」
「そんな……ボス……どうして……僕達を……見捨て……」
「見捨てた訳じゃない!」
周囲はいつの間にか沼になってシメオの足は沼に取られ動けなくなっていた。
「い、一体何が起きているんだ!」
シメオの身体に絡み始める沈黙の蠍の部下達。
急いで殴り飛ばし始めるが四方から絡む部下達の重みでどんどん沼に引きずられていく。
「や、やめろぉおおおお」
シメオの空しい声が鳴り響いた。
◇
「がはっ! ――――!? こ、ここは?」
周りを見渡すと間違いなくギルドマスターの部屋のソファーの上だ。
次に扉のノックの音が聞こえて、受付嬢が入って来る。
「マスター。今日の――――ん? どうしました? あ~もしかして~また眠ったのですか?」
「!? こ、ここはどこ……だ?」
「どこってマスターの部屋じゃないですか」
「そ、そうか…………」
「どうしたんですか?」
「ちょっと眠ってしまったのかも知れない。酷い悪夢を見てしまった」
「悪夢ですか~あは♪ ちゃんと仕事やってくださいね~」
「あ、ああ…………」
そして、受付嬢が部屋を後にした。
「…………っ!? い、今の受付嬢は…………誰だ!?」
間違いない。
先は当たり前のように声を交わしたが、初めて見る顔と声だった。
急いで彼女を追い掛けて部屋から外に出る。
「っ!?」
廊下にはおびただしい数の
「シメオ……お前に殺された恨み…………」
「うちの娘を……恨めしや……」
「借金で……嫁を……ユルサナイ……」
「う、うわあああああ!」
全員
扉を閉めて後ろを向く。
「マスター?」
「な、なっ!? お、お前は誰だ!?」
「あら? 私ですよ? もう忘れたんですか?」
「あ、ああ、そうだった……すまない。ちょっと悪夢を見てしまったから……」
「あは♪ 変なマスター」
「そうだな…………今日の俺はどうかしてるのかも知れない」
「うふふ~さあ、マスター? 今日も仕事がこんなに沢山あるんですからね? 頑張ってください~!」
「あ、ああ……」
受付嬢が部屋を出て行く。
「っ!? い、今の女は誰だ! どうして俺は知って
――――「うふふ♪」
「くっ! 魔人の仕業か! 出てこい! 相手になってやる!」
いつものナックルを取り出す。
だがいつもと感覚が違う。
自分の両手を見つめると――――――そこには血まみれのヴァイオと見知った受付嬢の顔が両手に握られていた。
「シメオ……どうして……」
「マスター……私を……殺して……」
「う、うわああああああああああ」
◇
「マスター! 落ち着いてください!」
「やばいぞ! シメオさんは元Sランク冒険者だ! みんな油断するな!」
冒険者ギルド内。
急に襲い掛かるギルドマスターのシメオに冒険者達が対峙している。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
シメオの口から人間とは思えないような声が発せられる。
「来るぞ!」
すぐに愛用のナックルで殴り掛るシメオを、冒険者達が迎撃する。
大きな盾で受け止めてすぐに別な冒険者がシメオの足や手を斬りつける。
だがシメオは全く止まる気配がなく、盾を殴り、粉砕させていく。
「何事だ!」
「ヴァイオさん! シメオさんがおかしいです!」
「っ!? これはまずい! シメオを止めるぞ!」
ヴァイオ達『蒼石ノ牙』がシメオに掛る。
他の冒険者達も加勢するが、暴走したシメオが強く手加減など出来るはずもない。
戦いは激しさを増し続け、止まらないシメオにヴァイオの一撃が引導を渡した。
◇
グランドダンジョン1層。
「うふふ♪ シメオか~中々やるじゃん~♪」
「アス? 殺してはいないでしょうね?」
「もちろん★ きっちりダンポになって貰わないと、私が自分を許せないわ★」
「…………それは私も同感よ」
「マスタ~は優しいから許してくださるけど、それに甘える訳にはいけないから」
「ええ。私達は主様の――――――」
「「しもべなのだから」」
ヴァイオが運んできたシメオの
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