第10話 増える眷属奴隷
初めて入ったギブロン街は、正面が平民街になっていて、奥が貴族街になっている。
貴族街の奥には大きなお城が見え、この街の多くの贅沢があそこに集中しているのは言うまでもないだろう。
広場に入る事なく、アメリアは横に伸びた道に進む。
段々と周囲の家がボロボロになっていき、入口では感じなかった匂いもしてくる。
「ここは、スラム街か?」
「はい。匂いとか景色とか申し訳ございません…………」
「良い。気にしなくていい。俺が好きで付いて来ただけだ」
ペコリと頭を下げたアメリアはそのまま道を進み、ボロボロになっている家に入っていった。
彼女が住んでいる家なのだろうか。
それにしてもボロボロ過ぎるな。
「ただいま!」
「「「お姉ちゃん!?」」」
中から子供達の声がして、開いた扉の中には、アメリアを囲っている子供達が見えた。
みんな心配していたようで、アメリアを待ちに待っていたようだ。
「お姉ちゃん? あの方は?」
一人の女の子が心配そうに俺を見てアメリアに聞く。
「みんな。これから話す事をしっかり聞いて。実は…………噂のダンジョンで私は…………死んでしまったわ」
淡々と語るアメリアにみんなも泣きそうな表情で静かに聞いている。
「こちらの方に助けられて、ご主人様のダンジョンで住まわせて貰う事になったわ。だからこれからはみんなと一緒には暮らせられない。でも一つだけ一緒に暮らす方法があるの。聞いてくれる?」
「「「うんうん!」」」
「私はご主人様の眷属奴隷というモノになったの。これでお仕事を頑張って美味しい食材も頂けているの。みんなも眷属奴隷になれるチャンスをくださるそうだから、一緒にご主人様の眷属奴隷になってくれない?」
「「「い、行きたい! お願いします!」」」
彼らは俺にも向き直り、土下座をする。
「「「一所懸命に働きます! お願いします!」」」
まだアメリアの仕事っぶりを見た訳ではないが、みんなも一所懸命に働いてくれそうだ。
これはある意味、良い
さて、あとはダンジョンに戻り、植物も増やして食べ物を確保したいかな。
その時。
「おいおい、男連れか!?」
先程入って来た入口が開いて、そこから小汚い男が一人入って来る。
「お父さん!? 帰ってきたの!?」
「おうよ。金が尽きてな」
…………金が尽きたから帰ってくるって、ただのクズじゃねぇか。
「アメリア。わりぃがまた金くれよ~」
「な、ないよ! もう私達はここから出るから!」
「はあ!? ――――――ほぉ、こちらのお方なんだな? ふぅん~金持ちには見えないが…………あんた」
アメリアの父親が俺を下から上に舐めるように見回すと声を掛けてくる。
「何でしょう?」
「アメリアは俺の娘だし、その子達も俺の子だ。つまり、俺の子を連れて行くんなら、それなりに手付金を払うべきだろう」
「お父さん!? そんな訳ないでしょう!」
「お前は黙れ! 大人の話に首を突っ込むんじゃねぇ!」
どこをどう見ても本当にクズだな。
「いいですよ。ただ俺に金はありません。ですが
「っ!? それでいい! 付いていくぞ!?」
「どうぞ」
「ご主人様…………」
「アメリア。お前はもう俺の所有物だ。手付金くらい大したものではない」
心配そうな表情を見せるアメリアのその妹弟達。
俺はアメリアを急かせ、ダンジョンへと帰っていく。
アメリアと妹弟達が並び、父親と俺が並んで走る光景は不思議な光景に見えるようで、通り過ぎる人々は俺達をじろじろ見てくる。
暫く歩き、ようやく我がダンジョンに帰って来た。
「あん? ここダンジョンじゃねぇかよ」
「お父さん。少し静かにしてよ」
「ちっ」
父親の事など気にせず、子供達を連れてダンジョンに入る。父親も渋々俺達に付いて入ってくる。
1層の最短道で2層に進む。
「すげぇな~ダンジョンの魔物が全く攻撃してこねぇよ」
「俺の眷属ですから。2層も気にしなくていいですよ」
「あいよ~俺は貰うモノだけ貰えれば良いさ」
2層もそのまま通り過ぎる。
既に数が増えたEランク魔物、Dランク魔物を見た子供達は珍しい光景に感動したような声をあげる。
冒険者だと震え上がるはずなのに、子供達の方が変な知識がなくて良いかも知れない。
2層を通り抜け、3層にやって来た。
「木に食べ物がなってるよ!」
弟の一人がそう叫ぶと、全員の視線が木に釘付けになる。
「アメリア。そこの木になっている植物を全部取ってこい」
「かしこまりました」
「あっ、ご主人しゃま? 私達も手伝っていいですか!?」
「ああ、構わない」
どうやら姉を手伝うらしく、みんな一斉に木々に向かう。
あんな小さな体でどうやって取るのかと思ったら、弟2人が木を登り、植物を丁寧に取り、下にいる妹に優しく落とした。
妹達は落とされた植物を一つ一つ丁寧に集める。
「すげぇな、木に食べ物がなるなんて初めて知ったよ」
「でしょうね。彼らは全員俺が引き取ります。あの植物の中から好きなだけ持って行っていいですよ」
「本当か!? ちなみにどれが一番美味しいんだ!?」
美味しいと聞くって事は、それが高く売れると思っての事なのだろう。
手に持って行ける量は決まっている。
全部持って帰ると言っても構わないのだが、あまりに目立つと大変な目に遭うからな。
「あのピンク色の果物は『桃』というモノで、この中では一番甘くて美味しい。何なら一つ食べても構わない」
「まじかい!? 旦那、太っ腹だな! ありがてぇ!」
「アメリア。ピンクの果物は『桃』という。それを一つ、こちらに」
「はい!」
アメリアは桃を一つ大事そうに持って来て惜しそうに父親に渡した。
桃を貰った父親は、迷う事なく桃を口にする。
それに毒でも入ってたらどうするつもりだったんだろうか。
「う、うめぇえええええ! こんなに美味いモノは初めて食べる! 旦那! これを5個――――いや、8個貰ってもいいかい!?」
全部と言わないのは、小さな良心か?
「構いません。これでアメリア達は俺の所有物になりましたので、金輪際、俺達とは関わらないでください」
「ああ! 分かった!」
父親は持っていた袋を取り出し、桃を8個中に入れる。
なるほど……丁度その大きさに入る量を見計らったって事か。
「外に出るまでの間、魔物達からは一切攻撃されないので、心配せずに入口に出て行くといいです」
「ありがてぇ! 帰り道は覚えたからよ!」
そういうところはちゃっかりしているんだな。
父親は逃げるように、その場から逃げ去る。
「ご主人様…………」
「謝る事はない。お前達はこれからここで働いて貰う大切な人材だ。俺はまだお腹が空いていない。取って来た植物は全て食べていい」
「えっ!? 全てでございますか!?」
驚く彼女達は、既に口から涎が垂れてきそうな感じがする。
「ああ。あの木々から一時間ごとに同じ量が生えてくる。お前達の仕事はそれを毎時間取る事だ。いいな?」
「「「「はいっ!」」」」
「腹が減って動けない者は必要ない。しっかり食べて働いてくれ」
「「「「はいっ! ありがとうございます!」」」」
さすがは姉弟。息もピッタリだ。
アメリアが恐る恐る桃を口にすると、声より先に大きな瞳から大粒の涙があふれる。
「美味し過ぎる………………こんな美味しいモノが食べれる日がくるなんて…………」
魂が飛びかかっているアメリアを見ていた妹弟達も、それぞれ桃を口に運んだ。
前世では安くて美味しい食事が当たり前だった。
異世界に来て、クソ不味い果物や野菜しか食べてないが、楽に生きるためにと思っていた。
でも彼女達を見て、今の俺でさえ、とんでもなく良い環境という事が理解出来る。
泣きながら美味しくもない果物や野菜を食べる子供達を眺めながら、このままレベルを上げてDランク植物も食わせてみたいと思ってしまった。
食事を終えた子供達には、一度は痛い目に会わないといけないので、2層に行き、オークに殴り飛ばして貰い、全員『眷属奴隷』になった。
恐怖のオークを前に殴り飛ばされる直前の彼らは、誰一人怖がる表情はせず、全員が嬉しそうに笑顔で受けていた。
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