第11話 ダンジョン生活の始まり

 ギブロン街のお城。


「そいつか?」


「はっ」


 煌びやかな部屋に、兵士達が薄汚い男性を一人連れてくる。


「貴様がこの果物を持って来たのだな?」


「は、はいっ!」


 豪華な服で身を包んでいる男が、その手に美しいピンク色の桃を持って、目の前の男を見下ろす。


「これをどこで手に入れた?」


「はい! 最近食材が落ちると有名なダンジョンでございます! あのダンジョンの3層にはその実がなる木がございました!」


「…………木?」


「はいっ! あのダンジョンの主は簡単に渡してくれました」


「ふぅん? どうしてこんな美品・・をお前如きに渡したのだ?」


「理由は分かりませんが、俺の子供達を引き取りたいと家にやって来たところに、ちょうど鉢合わせになったんです! ダンジョンの魔物達が全く動かなくて、3層にはすんなり入れました!」


「…………良いだろう。その主というやつにも会ってみたい。お前に褒美をつかわす」


「まじっすか!? ありがとうございます!」


「構わん。こんな美品を手に入れる事が出来たのだ。安いモノだ。エンゲル! 払ってやれ!」


「はっ」


 執事はお金がたんまり入った袋をアメリアの父親に渡すと、父親はそれを持って逃げるかのように、お城を後にした。


「ベグラン様、素直に渡して良かったので?」


「構わん、あの情報だけで俺はとても機嫌がよい。こんな美味しいモノが近くに存在しているなんて、それだけでも十分だ。それにあんなクズ、そのうち落ちて行くだろう」


「はい。自分の子供を売り飛ばして、それを更に売り飛ばすとは…………」


「くっくっくっ、スラム育ちだ。多少のクズさは仕方あるまい。おい! ここの掃除をしっかりしておけ!」


 ギブロン街の領主であるベグランは、新しく現れた初心者用ダンジョンに深い興味を示した。




 ◇ ◆ ◇ ◆




「ご主人しゃま! 持ってきました!」


 アメリアの妹達が籠いっぱいの植物を持って来た。

 うん? 籠? うちに籠なんてあったっけ?


「その籠は?」


「はい! 木のツタで作りました!」


 ほぉ、ツタを使って籠が作れるのか。

 何かコソコソやっているなと思っていたらそれだったのか。

 俺が命令したのは一時間ごとになる植物を回収する事。

 もちろん寝ている時間は、取らなくていいと伝えてある。

 俺自身が働きすぎて命を失った。それを考えれば彼らにはのびのびと働いて貰いたいからな。


「よくやった。これからも何か気になる事があったら自由にしてくれて構わない。それといくつか必要なモノがあれば言ってくれ。俺の力で作れそうなモノは作ろう」


「ありがとうございます!」


 妹達の満面の笑みが、前世で疲れ切った俺の心に染みる。


 ――――人の笑う顔を見たのはいつぶりか。


 そんな事を思っていると、ねむる時間となった。

 俺はいつもの玉座に座り眠る。

 これは社畜時代に身に着けた『時間がもったいないので、机に座ったまま寝る』である。

 その日は、久しぶりに良い夢を見た気がした。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 周りの静けさが広がっているが、小さな寝息が聞こえて目が覚める。

 すると、俺の足元にアメリア達が丸くなって床で眠っている。

 誰かが近くで眠っているのは久しぶりな気がする。

 一人、二人…………五人。

 五人しかいないなと思ったら、アメリアの姿が見えない。

 周囲に目をやると、アメリアは一人で静かに木から実を収穫していた。

 俺は眠っている妹達を置いて、アメリアに近づく。


「ご主人様!? お、おはようございます」


「アメリア。眠らないのか?」


「実の収穫を終えて眠ります」


「…………働き過ぎて、体調を崩されても困る。眠れるときに眠っておけ」


「!? …………か、かしこまりました」


「…………アメリア」


「は、はい」


「お前達はずっと床で眠っていたのか?」


 アメリア達が住んでいた家には布団らしきものは見当たらなかった。

 あの冷たい床でずっと眠っていたと思われた。


「は、はい…………」


「…………分かった。部下の体調を考えるのも上司の仕事だ。お前は妹達だけではなく、自分の体調にも気を使え。その身体はもうお前のモノではない」


「は、はいっ!」


 少し顔を赤らめて、何故か嬉しそうに答えるアメリアは妹達の所に戻り、おしくらまんじゅう状態で眠りについた。

 …………明日には貯まったダンポを使い、彼らの寝具を調達した方が良さげだな。




 次の日。

 どうも周りの明るさが良くわからなくて時間感覚が分からない。

 ただ、ステータスを見るとなぜか時間が表記されるので、時間を常に確認することが出来る。

 さらに全てのモニターにも時間を表示させているので、秒単位で細かい時間を知ることが出来ている。


 アメリア達が眠った時間はたったの4時間。

 彼らは起き上がると、真っ先に木の実の収穫に向かう。

 まあ、働かせるために拾ってきたのだが、働かせすぎなのだろうか?

 木の実を取ったら、あとは一時間のインターバルがあるので、その時にでも眠ってくれたらいいと思う。


 天の声さん、現在のダンポは?


【個体名マサムネのダンポは、現在4,300です】


 随分と貯まってるな?

 アメリアが来てからそれほど時間が経っていないんだが……。


 その時。


「ご主人様! こういうの拾ったんですけど…………」


 アメリアが大きな斧を弟達と一緒に持って来た。


「ん? それをどこで?」


「あそこに沢山置いてありましたよ?」


 アメリアが指差したのは、植物の木々のさらに奥のスペースに沢山の武具が見える。

 しかも、武器だけでなく、防具やアクセサリーも沢山落ちている。


「何だあれは?」


「ご主人様も初めて見るのですか?」


「そうだな。最初はあんなもの落ちてなかったけどな……」


【ダンジョン内で倒された冒険者の装備品は状態によって回収されます】


 なる……ほど。

 うちのダンジョンで亡くなった冒険者達の装備品か…………。

 あれ?

 これも魔物にドロップ品として登録出来る?


【ドロップ品に出来るのはダンジョン産まれの素材のみです。それ以外のモノは1点物として登録して一度だけドロップ出来ますが、ドロップ確率は変更出来ず、100%ドロップになり、通常素材ドロップやドロップ品設定品とは別枠となります】


 持ち込まれた装備品はいつものドロップ品にはならないと…………これは良い情報が聞けた。


「どうやらうちのダンジョンで亡くなった冒険者達の装備らしい。集めて置く場所を作っておこう」


 ダンポ600を使い、20坪くらいの建物を建てる。

 現在3層エリアは、東中央に2層との入口、そこから真っすぐ進んだ壁に玉座がある。

 玉座から見て、右手、つまり3層の南側にEランク植物エリアにしていて、そこから更に南に装備品が落ちる。

 なので、すぐその傍に建物を作り、運びやすくする。


 地面から土がぼこぼこっと盛り上がり、すぐに大きな塊になりどんどん建物の形になっていく。

 それを眺めていたアメリア達からも歓声があがる。

 実は意外にも俺も唸り声を出してしまった。

 何と言うか、こんな簡単に建物が建つなんて、異世界って凄いな!


「ご主人様、これからここに集めておけばいいですか?」


「え? あ、ああ。そうしてくれ」


「かしこまりました」


 残りは3,700ダンポ。

 それを使ってそれぞれの家でも作ろうか。


「アメリア」


「はいっ」


「これからみんなが眠る家を作るつもりだが、どんな感じがいい?」


「えっ? い、家…………ですか?」


「ああ。休息の質で働きの質が変わるというものだ。お前達にはこれから質の高い休息を取って貰う」


「え、えっと…………ご主人様が仰ることが全く理解出来ません…………」


 うぐっ。

 理解出来なかったか……。


「えっと……ご主人様? 奴隷は基本的に部屋もありませんし、眠る時間も殆ど与えられないのです」


 そういう意味で理解出来ないということか!


「う、うむ。それは普通の奴隷だからな。お前達はただの奴隷ではない」


「ただの奴隷ではない……?」


「そうだ。お前達は俺の眷属奴隷だ! 普通の奴隷と勘違いせず、より高い効率を出すため、休息もしっかり取れ」


 それでも理解出来ないようで、アメリア達は一斉に首を傾げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る