第23話 迫る悪夢(三人称視点あり)

 ダンジョンに入って来たレベルが3桁にも及ぶ女は、どうやら騎士団の団長のようだ。

 モニターはどの距離でも見れるので、彼女をズームアップして観察している。

 小さな声で会話を交わしている彼女達から、「団長」という言葉と、彼女の指揮能力の高さで騎士団団長という事を知る事が出来た。

 それにしても、彼女の戦闘能力の高さに驚いた。

 Fランク魔物なんて、一撃というより、剣を抜くまでもなく瞬殺している。

 彼女は部下達を連れて最奥の広場にやって来た。


「フロアボスがEランクで、他は全部Fランクか…………ゲイル」


「はっ」


「周囲の魔物の配置はどうだ?」


「意外にも等間隔で配置されていて、全部がFランクなのもあり、人為・・的な雰囲気を感じます」


「人為…………という事は、ダンジョンに魔人がいる可能性が高いか」


「可能性は高いかと」


 魔人? ダンジョンマスターの事か!?

 というか、やはり他のダンジョンにもダンジョンマスターがいるのか?


「2層に降りてみるか」


「はっ」


 1層の広場から2層へ9人が一緒に降りる。

 ゲイルと呼ばれた騎士から周囲に見えない気配が放たれる。


「退避!」


 彼の口からその言葉が放たれた瞬間に、彼女達は迷う事なく1層に戻って行く。

 1層に戻っても彼女達は足を止める事なく、出口までものすごい速度で走りぬけ、ダンジョンを後にするのだった。


 逃げた――――ように見える。


 つまり、先程男騎士が放った気配にその答えがあるはずだ。


「レヴィ!」


「はっ!」


 瞬時の俺の隣に現れる。

 これはガーディアンだけが持つダンジョン内瞬間移動だ。

 但し、最下層には俺の許可がなければ使えない――――いや、使わない。

 普段は3層の最下層への階段前に移動して、そこから歩いて入ってくるのだ。


「あのパーティーがダンジョンを後にした。あの男が使ったモノはなんだ?」


「はっ。あれは才能『斥候』のスキルでございます。自身の周囲の生き物を感じ取る事が出来るスキルでございます」


 そういう事か。

 2層には広場にオークが1体のみ配置されている。――――ように見せているのだ。

 見せない場所には以前罠で使っていたオークやコボルト達が大量に残されている。

 まさかああいうスキルがあるとは思わず、罠に掛けられなかった。


「レヴィ」


「はっ」


「率直に聞きたい。あの連中9人が3層に着いた時、アス一人かレヴィと二人であいつらに勝てるか?」


「はっ。自惚れなどではなく、アス一人で事足ります」


「分かった。引き続き彼女達の件はアスに全て任せる。レヴィもアスに協力を惜しまないように」


「かしこまりました」


 レヴィが消えた後は全てのモニターを1層に向けて、あちらこちらを眺める。

 レベルが20を越えてる人はいない。

 10を越えているパーティーもレベルを上げるというよりは、食材を求めて来ているのだろう。

 今はアスに任せて彼女達がどう出るかを楽しみに待つ事にする。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 ギブロン街の宿屋。

 騎士団団長含む9人が集まっている。


「ゲイル。退避の理由を」


「はい。2層で『索敵』を使用したところ、広場にオーク1体のみでしたが、その裏、壁の奥にはDランク魔物とEランク魔物が大量に隠されておりました。罠は確認出来ませんでしたが、もしかするとあの壁を壊して入って来ることも考えられます」


「…………やはり人為的なモノか。となると対魔人戦を覚悟しなければならないか」


「団長。一度王都に帰還した方がよろしいのでは?」


「いや、魔人がいるとなるとまもなくあれ・・が起きるだろう。そうなるとギブロン街は全滅だ。さらに周囲の街にも多大なる被害が起きるだろう」


「ですが! 魔人となると騎士団でも相手するのが難しいのに我々だけで…………」


「ゲイル。お前の言いたい事は分かっている。だが、我々は王国民を守る使命がある。今から王都には援軍を頼もう。だが我々はもしもの為にあのダンジョンを見張っておく必要がある」


「…………かしこまりました。援軍要請は早鳥を送ります」


「ああ。ガネイは冒険者ギルドに向かい、1層の警戒させれそうな冒険者を雇って来てくれ」


「はっ」


 ガネイが部屋を後にして、ゲイルは急いで王都に飛ばすための早鳥に援軍要請の書状を持たせ空に飛ばす。

 5匹の鳥が元気よく空を舞うと、周囲の風を纏い始め、姿を消した。

 書状を運ばせるのによく使われる『ウィンドバード』よ呼ばれている小型鳥魔物であり、風魔法を使い姿を消して長時間飛ぶことが出来るのだ。


「魔人となれば、第一騎士団も無視は出来ないでしょう…………急いでくださいよ」


 ゲイルは消えた鳥がいた空に向かいそう呟いた。




 ◇ ◆ ◇ ◆




「うふふふふ、人間って面白い~☆」


 アスは地に落ちたの亡骸を5つ踏みながら、遠くに見えるギブロン街を見つめる。


「ふ~ん、マスタ~を魔人如きと比較するなんて……………………





 許せないな」


 普段の温厚なアスの顔が豹変する。


「今すぐに潰しても構わないが、マスターが随分と気に入ってるみたいだからね…………さて、ここは一つ、眷属を動かしてみようか」


 アスが右手をギブロン街に掲げる。

 この場にはいないが、自分の眷属達4人に指示を送る。

 『グランドダンジョン』の最下層での仕事を既に終えたアスの眷属達は3層で待機しており、その場から立ち上がる。

 遠くから聞えた自分達のの声に反応し、ダンジョンからギブロン街を目指して。

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