第22話 目覚めた欲望

「ご主人様」


 アメリアが申し訳なさそうな顔で、屋敷に入って来る。

 朝と比べてやつれているのが心配になるほどに、顔色が悪い。


「アメリア。何かあったのか」


「はい…………大変申し訳ございません!」


 アメリアが俺の前で頭を地面にこすりつけ土下座をする。


「アメリア!?」


「わたくしめの父が、あろうことかご主人様の命を狙っておりました。本来なら死んでお詫びしないといけないのですが…………最後にご主人様にお会いしたく、こうして顔を出してしまい申し訳ありません」


 父親が俺の狙っていたか。

 いや、恐らく最初から狙ってはいまい。

 ここで働いているうちに、ここの生活の楽さを見て、そうなったのだろう。


「顔をあげろ。アメリア」


「はいっ」


 その顔は、既に涙で崩れており、可愛らしい顔が台無しになっている。

 俺はゆっくり玉座から降り、手元にあったハンカチでアメリアの涙を拭いてあげる。


「ご主人様!?」


「よい。お前はよくやってくれている。俺はお前が作ってくれる料理を何よりも楽しみだ。そんなお前の頑張りを誰よりも俺自身が知っているのだ。だから泣く必要はない。父親は処分・・したのか?」


「はい…………」


 力弱くそう答えるアメリア。

 特に深い意味はないが、そっと彼女を抱きしめた。


「ご主人様!?」


「俺のために自分の父を手に掛けてくれてありがとう。俺が早めに気がつかず悪かったな」


「い、いいえ! ご主人様が謝るなど!」


「よい。アメリア。今日はゆっくり休め」


「いえ! 私はご主人様の料理を作るのが最大の喜びでございます!」


「…………そうか。確かに俺もお前の料理が一番の楽しみでもある。だが無理はするな。いいな?」


「はいっ!」


 ゆっくり離したアメリアは、少し顔を赤らませて瞳を潤わせて笑みを浮かべていた。

 そんな彼女の頭をゆっくり撫でてあげると、綺麗な髪が揺れ可愛さをより際立たせる。


 ドキッ


 自分の心臓が一瞬ドキッとするのを感じる。

 昨晩のレヴィの事もあり、アメリアをそういう・・・・目で見てしまった。

 柔らかそうな肌――――


「ご主人様?」


 小さく首を傾げるアメリアの可愛さの破壊力に、我に戻る。


「はっ! こほん。アメリア。今日の昼も楽しみにしているぞ」


「はいっ! ありがとうございます!」


 アメリアが屋敷が出て、ようやく視界が自由になり、心も落ち着き始める。

 何というか、初めて経験してしまって楽しさを知ってしまい、気になってしまうのかも知れない。


「マスタ~☆」


 今度はアスがやってくる。

 アスは可愛らしいアイドルを彷彿とさせる可愛さの持ち主で、ゆるっとした口調も相まってとても可愛い。


「アスか」


「アメリアちゃんから聞いていると思いますが~男の死体は私が好きにしていいですか~?」


「ん? ああ、構わない」


「うふふ~ありがとうございます~それはそうと、マスタ~」


「うむ?」


「アメリアちゃんからおねだりは来ましたか~?」


「おねだり? 何も言われてはいないが?」


「うふふふ~残念ですね~☆ あの子にはもう少し調教が必要かしら~」


 ちょ、調教?


「ではマスタ~失礼します~☆」


「あ、ああ」


 小さくスキップしながら外に出るアス。

 ふわふわしたミニスカートから伸びる美しい脚に魅入られそうになる。

 それにしても今日はダメダメだな…………変な事ばかり考えてしまう。


 前世では女性と付き合いたい願望はもちろんあったけど、それよりも両親に押し付けられた借金の肩代わりのために仕事を優先した。

 その所為もあり、人生初めて告白された前職場の同僚を拒み、職場を変えて過労死するまで働き続けた。

 それもあるからか、昨晩の件からアメリアやマリ達の脚に目が行ってしまう。


 ――――――まさか、自分が脚フェチだったなんて、思ってもみなかった。


 1層を眺めて数時間後、昼飯の時間となり、食堂に向かうとアメリアがよりをかけて料理を準備してくれている。

 思ったよりも豪勢になっている?


「ご主人様。これからはう~んと食べて力を付けてくださいませ」


「お、おう」


 何だかやる気に満ちているアメリアは、作った料理を一通り説明する。

 前世で見慣れた料理がずらりと並び、一つ一つ食べて行く。

 ダンジョンマスターになった時には、まだ欲望というのは全く感じなかった。

 ただただダンジョンでのんびりと暮らしたいけど、侵入者に殺されないようにしながら、楽して生きれればいいなと思っただけなのに、気付けば食欲に――――性欲まで増えてしまった。


 一緒に食事を取りながら楽しそうに話すアメリア、静かに食べ進めるレヴィ、アメリアの会話に同調して笑うアス。

 食事よりも、三人娘の唇や身体に目がいってしまう。

 くっ…………マサムネ、お前は獣ではない! ここは我慢だ!




 その日を境に、俺は毎日自分の欲望と戦う日々を送ることに。

 出来ればレヴィがまた来てくれないかなという淡い期待もあったが、彼女が訪れてくる事はなく、モヤモヤした日々が続いた。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 あ~干からびそう~。

 何がとは言わないが、一週間耐えるのがこんなに辛いとは。

 だからといって、一人でというのも何だか寂しい。

 それにしても、最近アメリアが何だか色っぽく見える。

 アメリアだけじゃない。

 レヴィもアスもどんどん可愛くなってる。


 どうやら、アメリアの提案で果物を使った化粧品を作ったそうだ。

 化粧品なんてどうやって作ってるのか知らないけど、意外にも効果テキメンで、俺の心に刺さりまくってる。

 このまま何もないと、そろそろ我慢の限界な気がしてきた。




 その時。


 モニターに一際目立つ人達が入って来た。

 まず注目するべき点は、今まで見たこともないレベルの高さだ。

 レヴィの眷属となった冒険者達でさえ、レベルが30だったり、兵士長が40と最高だったのが、一気に更新。

 彼女・・の表記されたレベルは何と130にも及んでいた。


 そもそもレベルが3桁って、自分とガーディアンの二人以外では初めて見たので、自分の中のワクワク感で目が覚めた。


 それに彼女が連れている仲間のレベルも非常に高い。

 8人連れており、全員が90~100となっている。

 これほどの高レベルのパーティーがやってくるとはな。


「レヴィ! アス!」


 少しして、扉が開いて二人が入って来る。


「マスタ~呼びました~?」


「二人とも、こちらを見てくれ」


 二人にモニターを向けて彼女を見せる。


「ほぉ、人間にしては中々…………」


 レヴィも彼女のレベルを見て唸る。

 3桁のレベルは普通の人間にはとてもじゃないが辿り着けない所だろう。

 それに、更なる追い打ちとして、彼女の才能だ。




「うふふ、『剣聖』とは随分と大層な才能ですわね。これは狩りがいがあるかしら」


「レヴィ~今回は私の番~☆」


「あら、そうだったわね」


「うん~☆ 私もマスタ~の寵愛が欲しいから~☆」






 アス様、頑張ってください! お願いします!

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