第21話 無痛の短剣(アメリア視点)

 ◆アメリア◆


 その日は、ご主人様とレヴィ様の夜の営み・・・・の音が聞こえて来ました。

 レヴィ様の声が聞こえる度に、自分の中に熱いモノを感じてしまい、その日は全く眠れませんでした………………。


 10歳の誕生日を迎えると頂ける『才能』。

 私の才能は『器用』でした。

 『才能』には大きく分けて2種類があり、『アクション系』か『ジョブ系』に分かれています。

 私が授かった才能は『アクション系才能』で、何をやっても器用にこなせるという内容で、覚えられるスキルもそのようになっています。

 ただ、『アクション系才能』は『ジョブ系才能』の下位互換と言われており、覚えられるスキルが曖昧なモノが多く、ジョブ系才能の方がより鮮明で強いスキルが多いから格差があるそうです。


 何故私がここまで詳しいかというと、10歳の才能開花と共に必ず・・授かるとあるスキルによって、私達は誰もがその常識を叩き込まれるからです。


 それが――――『インセイン非常識』というスキル。


 これは全ての者に与えられるスキルで、このスキルの獲得から思考が大きく変わります。

 何故なら、そのスキルは私達に色んな常識・・を教えてくれます。

 そして、歳を重ねて15歳の誕生日を迎えると最後・・の常識を覚えられます。




 ――――――それは男女の違いなどの、つまり『性』についての全てを教わります。




 私はまだ未経験なのですが、既に知っている・・・・・ので、昨晩のご主人様とレヴィ様のに身体が反応してしまいました。


 私も――――――ご主人様の寵愛が欲しい。


 そう思うだけで身体の内側から熱いモノを感じてしまいます。

 今日顔を合わせたご主人様と目を合わせるだけで熱くなり…………理性を保つのもやっとでした。

 ですが、たかだか奴隷の分際でご主人様の寵愛が頂けるとは思っておりません。

 ですから、これからもご主人様のお気に入られるように、与えられた仕事を全うします。

 幸い、私が作る料理は才能『器用』によって、効果が上乗せしてご主人様も気に入ってくださっており、いつか…………頂けるのかも知れません。




「おい! アメリア!」


 またクズ父が私を呼びます。

 本当に嫌になりますね…………。


「なんでしょう」


「親にそんな口の利き方をするな!」


「私は既にご主人様の奴隷。貴方の娘はもういません」


「ちっ! どいつもこいつも…………それはそうと、お前。えたな?」


「…………」


「おいおい、そんな怖い顔すんだよ! お前も既に女になっているんだからさ」


 この父は昔からデリカシーというモノがなくて、お金をたかっては出て行く生活。

 お母さんも家にいない父に見切りを付けて、外に出てしまいましたね。

 今の私の気持ちなど、知るはずもないのにこうもずけずけと…………。


「それで? 私に何の用です?」


「くっくっ、あいつに抱かれる方法を教えてやるよ」


「っ!」


 あいつとはご主人様の事でしょう。

 ご主人様をあいつ呼ばわりするとは…………。


 パチンッ


 私の右手が父の左頬を強打ビンタしました。


「くっ! このアマが!」


 手を振り上げる父。

 ですが、不思議と怒りに支配されながらも、振り上げた拳は止まりました。


「ちっ! 覚えてろ! 俺の提案を断った事を一生後悔させてやる!」


 あの父が我慢なんて出来たのですね…………意外です。

 そんな父に少し不安を覚えてしまいます。

 少し気になるので、父の跡をコッソリ付けます。

 意外にもこういう時も才能『器用』の効果が出てきます。

 本職ほどではありませんけれど…………。


 悪態をつきながら周りを気にしつつ、父が向かったのは――――――落とし物倉庫でした。

 そこにはレヴィ様の眷属達が一所懸命に装備を分解しております。

 彼らは一切反応せず、ただ黙々と作業を続けているのです。


 父はそんな彼らの目を盗み、中から一本の短剣を持ち出しました。

 本当にロクでもない父ですね。

 そのまま父の跡を追います。


 数分後。


 ご主人様の屋敷を覗く父でした。


 …………許されるはずもない。


 私の大切な方に傷をつけるつもり!?


 気が付けば、私は静かに、父の後ろに近づいていました。


「ちくしょ、見てろよ。あいつさえ殺せば、ここは俺のもんだ。それであの女を抱いてやる!」


 ああ、そういう事ですか。

 私をご主人様に押し付ける事で、レヴィ様をたぶらかしたかった。そういう事ですね。

 どこまでもクズはクズ。

 自分の親ながら、これほどのクズさに苛立ちを通り越してしまいそうです。


 ゆっくり近づいた私は――――父の背中にてに持っていた短剣を深く刺しました。


「がはっ! は、はあ? な、なんだこれ…………は?」


 自分の腹から出た鋭利な刃物を信じられないように見つめる父。

 これはアス様から預かった『無痛の短剣』というモノです。

 もし父が襲ってきたら使っていいと預けてくださった短剣で、刺された本人は無痛のまま身体が痛んでいくものを見るしか出来ない短剣だそうで、痛みという現実がないまま死んでいく恐怖に打ちひしがれる代物だそうです。


「あ、アメリア!? ま、まさか、これをお前が!?」


「お父さん。まさか私の大事なご主人様を暗殺・・しようとするなんて…………ふふふっ、許されると思っているの?」


「は、は、はあ!? お、お前、どうし…………」


 膝から崩れる父。


「身体が…………?」


「それは無痛の短剣で、痛みを感じないのよ? お父さん。貴方は――――――これから死ぬの」


「ッ!? ふ、ふざ、がはっ」


 口から大量の吐血が吐き出されます。

 未だ信じられない表情で地面に這いつくばっている父が、私を見上げました。


「お父さんにはずっと苦い思いをさせられたけど、一つだけ感謝しているよ。私を生んでくれてご主人様と会わせてくれてありがとう――――――――そして、さようなら」


「あ、あめ…………り………………」


 絶望の色に染まった瞳のまま、お父さんは地面に倒れ込みました。

 私のご主人様に手を上げるなど、許させるはずもありません。


 パチパチパチパチ


 後ろから拍手の音が聞こえました。


「アメリアちゃん~おつかれ~☆」


「アス様。貴重な短剣を汚してしまい申し訳ございませんでした」


「ううん~このために渡しているし、使ってくれてありがとう~☆」


 私の頭を優しく撫でてくださったアス様は、既に事切れている父親を見下ろします。


「本来ならマスタ~を狙った時点で、私が処理したかったけどね~ここはアメリアちゃんに譲って・・・あげたんだからね~」


「あ、ありがとうございます」


 譲ってあげたとはどういう事なのでしょうか。


「ねえ、アメリアちゃん」


「はい」


「レヴィちゃんが~ご主人様がら寵愛を頂けたのは~知っているよね?」


「はい」


 たった昨日の事ですから、今でも忘れられません。


「あれはね~レヴィちゃんがご褒美をお願いしたんだよ~つまり」


 こちらを振り向いて、目を輝かせるアス様の表情に私の心臓は高鳴り始めました。




「アメリアちゃんも~寵愛をおねだり・・・・出来るようになったんだよ~後は自分で考えてね~☆」




 アス様の言葉に、私の心臓はますます高鳴るのでした。

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