第24話 アスの策略(三人称視点あり)
ギブロン街。
入口を守っていた衛兵がとある冒険者集団を見つけて驚く。
「貴方達は! 蒼石ノ牙のみなさん!」
4人の冒険者達は軽く手を上げる。
「悪いな。ダンジョン帰りで疲れているんだ」
「は、はい! 冒険者ギルドには私から連絡しておきます!」
「ああ、助かる」
衛兵は蒼石ノ牙が生きている事を冒険者ギルドに伝えるために足早にその場を後にする。
既に長い期間姿を見せてない事もあり、冒険者ギルドでは捜索に出るか迷っていたほどで、衛兵達にまで伝わっていたのだ。
蒼石ノ牙の面々は自らのアジトに真っすぐ向かう。
その表情は先程の疲れた笑みとは真逆の無表情である。
蒼石ノ牙のアジト。
「うふふ。お前達にはこれから冒険者ギルドに虚偽の申告をして貰うよ。この街に滞在している騎士というやつらをいぶりださないといけないからね」
「「「「カシコマリマシタ」」」」
4人は無機質な声で返事する。
そのまま彼らはそれぞれの部屋に戻り、一晩眠った。
次の日。
アジトにノックの音が聞こえてると、既に起きている4人が出迎える。
「ヴァイオ!」
慌てた表情で入って来た中年男性こそが、ギブロン街の冒険者ギルドマスターのシメオである。
「シメオ。朝から騒がしいぞ」
いつものテンションとは少し違うヴァイオに一瞬違和感を感じるが、彼らの無事がより先に嬉しくなった。
「ダンジョンから帰還したと聞いてな! 本当は昨日来たかったが、随分と疲れた様子と聞いたからな。どうだ? ダンジョンの話は話せるか?」
「ああ。座ってくれ」
ヴァイオの案内でソファーに座るシメオは、いつも明るい他のメンバーが疲れた表情をしている事にダンジョンでの出来事は余程大変だったのだと納得する。
「シメオさん、お疲れ様です」
「ああ、ランス達も無事で何よりだ。随分と疲れているな」
「ははは…………ですね。あのダンジョンは思っていた以上に大変でした」
全員が席に着いた後、ヴァイオが神妙な面持ちで話し始める。
「あのダンジョンには3層があった。おそらく兵士団は3層でやられたと思われる」
「3層? たった3層でか?」
「そうだ。2層にはオークが1体しかいなかった。だから俺達はそのまま3層まで進んだ。3層で俺達を待ち受けていたのは――――――『パニック罠』だった」
「『パニック罠』!? あんな初心者ダンジョンでか!?」
「ああ。扉が閉まり、大量の魔物が降ってきた。ただ場所が狭かったのが幸いして俺達は何とか引き籠る事が出来たんだ」
「それは不幸中の幸いだな」
「それに不思議とあのダンジョンの魔物は食べ物を落としてくれて、長期戦にも耐えられた。あの食べ物がなければ俺達は既に力尽きていただろう」
「そうだな。もう十日も帰って来なかったからな」
「十日か…………やはり、それほどの期間、ダンジョンの中だったか」
シメオは彼らの疲れた顔にようやく納得する。
「それと、一つ朗報がある」
「朗報?」
「ああ。俺達は3層の『パニック罠』を突破し、3層の魔物を全て倒した。つまり――――」
「!? 3層の宝が取れるという事か!」
「兵士達の物と思われる装備が転がっていた。これはその一つだ」
ヴァイオが取り出したのは、ギブロン子爵の紋章が描かれている小さな布切れだった。
それがあるだけで兵士達が間違いなく3層に足を踏み入れた証拠となる。
「分かった。『パニック罠』ならば再復活はないはずだし、このままうちの連中を投入しよう」
「助かる。そうしてくれ。兵士達の無念も晴らしてやりたいしな」
「感謝する! では俺は急いでこの件を進めよう」
「頼んだ」
シメオはヴァイオの話を全て信じ、蒼石ノ牙のアジトを後にした。
「うふふ。これで大量の冒険者達がダンジョンに向かうわね。さて、どうするのかしら? 騎士団団長さん?」
既に無表情になっている蒼石ノ牙メンバーの奥から邪悪な笑みを浮かべたアスだった。
◇ ◆ ◇ ◆
ギブロン街の宿屋。
「団長! 大変です!」
慌てて宿屋に帰って来たガネイに、団長は悪い予感がする。
「ガネイ。どうした」
「ぼ、冒険者達があのダンジョンに大量に流れました!」
「なっ! どうしてだ!」
「どうやら先日
「くっ。これはまずい! そいつらは既に魔人の手に掛かっている可能性がある! 急いで冒険者達を止めに行くぞ! ゲイルは2人を連れて帰って来たという冒険者達に当たれ! ガネイは冒険者ギルドマスターに我々が持っている情報を全て伝えろ! これがS級指令だ! 直ちに掛かれ!」
「「「「はっ!」」」」
騎士4人が宿屋から走り去る。
団長も残り4人の騎士を連れ、ダンジョンに急行した。
「魔人のマインドコントロールかも知れない。となるとあれは間違いなく罠だ。何としても冒険者達を止めるぞ!」
「「「「はいっ!」」」」
ギブロン街の二回目の大被害が訪れようとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆
「ご主人様~」
アメリアが扉から顔だけ出して、俺を呼んでくる。めちゃくちゃ可愛い。
「アメリア。食事か?」
「は~い! 今日はデザートもありますよ~」
「おお! それはいいな!」
「えへへ~」
俺は玉座を後にして、ゆっくり食堂に向かう。
入口で尻尾を振って待っている犬のようなアメリアの頭をひと撫でして、共に食堂に向かう。
――――まさか、その時、大量の冒険者達が1層に入って来たなどと、俺は知る由もなかった。
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