第25話 レベル差(三人称視点)

 グランドダンジョン1層。


 現在、ギブロン街の殆どの冒険者がその場に足を踏み入れた。

 総勢120名。

 冒険者ギルドマスターのシメオの指示により、3層に眠っている宝を取る為にやってきたのだ。

 冒険者達はFランク魔物を狩りつつ先に進む。


「うわーまじで魔物から食材が落ちたよ」


「だな。果物だからめちゃ美味しいらしいぞ?」


「まじか…………マスターが行くなと言ってたから来れなかったけど、Fランク魔物しかいないし、隠れてくれば良かった」


「今回の指示さえクリアすれば来れるようになるって言ってたぞ?」


「うひょー! 俺毎日籠るわ」


「俺もだ。あのクソ領主がいなくなって平和になってくれて本当に助かった。ダンジョン様様だよ」


「うんうん」


 彼らは落ちた果物や野菜を食べつつ、ゆっくりと道を進める。

 列は長かったが、着実に進め、彼らは2層に降りた。


「オークだ! 気を引き締めろ!」


 先頭を歩いていた副ギルドマスターの指示で、全員が武器を構える。

 一人一人広場に走っていき、オークに攻撃を加えつつ、オークを奥に誘導する。

 魔物との戦いに慣れている冒険者達は一人の被害も出さずにオークを倒した。

 そして、彼らが3層に向かおうとしたその時。




「待て!」




 広場の入口から大きな声が響き渡る。


「私は王国第二騎士団団長『シャーロット』という! 全員これ以上進めるな!」


「ん? 騎士団団長様がどうしてここに?」


「話は後は! 今すぐダンジョンから外に出ろ! 今すぐだ!」


 冒険者達は彼女の指示に不満を覚えるが、騎士団団長の証である王から授けられる剣が本物だという事を見抜き、従わざると得なかった。

 一人、また一人が2層から上層に向かう。


「団長様。今回の件、ちゃんと説明して頂きます」


「ああ。もちろんだ」


 副ギルドマスターが上層に向かい、ようやく安堵の息を吐く彼女。












 しかし。


「うふふふふふふ」


「っ!?」


 頭に直接鳴り響く笑い声。

 彼女は剣を構えて周囲を見渡す。

 他の騎士達も彼女に続き警戒し続ける。


「団長さん~上の冒険者達を助けたいのでしょう? それなら一つ私と勝負しましょう」


「ふん! 魔人如きに遅れはとらん!」


「うふふふ、別に戦おうという訳ではないわ。もし受けるなら1層ではなく3層に来てちょうだい~。もし1層に向かった場合――――――1層の全ての人の命はないわよ?」


「くっ…………」


 その声に一瞬悩むが、命を優先するべきと彼女は騎士達を連れて3層に向かった。




 3層に降りた彼女達の視野に広がっていたのは、広い街並みだった。

 ただ、普通の街並みではなく、どこか色っぽさ・・・・が感じられる。

 建物の中から彼女達を見つめる視線が感じられた。


「団長、誰かいますね」


「だな。全員警戒を緩めるな」


 彼女達は視線を感じながら道を進める。

 道の先に何処にでもありそうな広場があり、その中央には大きな像が立てられ、その前に多くの女性が祈りを捧げていた。


「っ!? あれは失踪届けが出された人ですね」


 失踪届けに似顔絵が描かれており、大半を覚えていた騎士一人がそう呟く。


「洗脳か」


「その類だと思うんですが、『状態詳細』に『洗脳』がございません」


「厄介な…………」


 その時、祈っていた女の一人がその場に立ち上がる。

 周りの女達とは違う衣装で普段見られない衣装が違和感を感じる。




「嫉妬の間にいらっしゃい~☆ 私の層ではないんだけどね~☆」




 全員が武器を構える。


「そんな驚かなくていいよ~君達はもうここから出られない・・・・・んだから」


 一瞬で団長の目の前に現れ長い髪に触れる。


「くっ!」


 団長が剣を振るう。

 しかし、その場所には既にアスの姿はなく、離れた場所からアスがニヤリと笑みを浮かべて見つめていた。


「団長! あれは魔人ですか!?」


「…………いや。魔人ではない。そもそも魔人は肌が黒いし、角や羽根も存在する。それに――――あれほど緩くない」


「魔人如きと比べるなんて~なんて――――――――失礼な人達かな?」


 アスが一瞬揺れる。

 団長は思いっきり剣に魔力を込めて、超高速で自分を横切るアスを叩き斬るが間に合わない。

 後ろに構えていた男騎士3人の首が空を舞う。


「ふ、ふざけるな!」


 団長の剣戟がアスを叩く。

 鈍い音がして、アスの左肩に降りた剣は、アスの肌に傷一つ付けられなかった。

 アスの右腕が団長の顔に伸び、おでこに軽くデコピンをする。

 団長が強烈な攻撃を受けたように、後方に大きく吹き飛び、ボロ雑巾のように転がって行く。


「が、がはっ……」


 たった一撃でボロボロになった団長は、現状が理解出来ず自分の剣を見る。

 王から授かった騎士団団長の証。

 王国最強騎士の一角である自分がたった一撃でやられた事実を。


「シャーロットちゃん~ま~だだよ~」


 恐怖に支配された団長が顔を上げると、アスが怖がっている男騎士達3人の首を持っている。

 何故か血は一切流れておらず、さらに生きているかのように震え上がっていた。


「この子達はまだ死んでいないよ~ただ首と身体を切り離しただけ~☆ ねえねえ、シャーロットちゃん。この子達を掛けてお遊びをしましょう~☆」


 既に満身創痍の団長はアスの赤く光る瞳に恐怖を覚える。

 目の前の化け物と自分とのレベルを肌で感じ、全ての戦意を喪失した。

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