第26話 アスのゲーム

 久々にアメリアと二人っきりでお昼を食べる。

 アメリアは楽しそうに料理の話や妹弟達の話を続ける。

 可愛い唇が動く度に、俺の中の欲望が疼く。

 ――――マサムネ! もう少し待てば、アス様が寵愛を求めるはずだ! それまで我慢だ!


 食事が終わって、アメリアと一緒に最下層を散歩しているとマリも混ざり、俺の両腕には可愛らしい二人の女の子が占領している。

 少し恥ずかしいと思ったが、二人の柔らかい肌に触れながら散歩を楽しむ。


 散歩が終わり、二人にはそれぞれの仕事に戻って貰い、俺は玉座に戻った。




 …………。


 …………。


 …………。


 アス様!?


 一体何をしてらっしゃるのですか!?


 目の前のモニターの殆どは1層を映していて、1台は2層を映している。

 そんな中に1台が何故か3層である嫉妬の間を映しており、そこには俺が想像だにしなかった光景が広がっていた。


 まず、画面に俺の銅像が建てられているのが見える。

 そこは広場のようになっていて、俺の銅像に向かって多くの女が祈りを捧げているが、衣服が薄すぎて色々透けてそうじゃない!?


 それに最も注目すべきはアス本人である。


 広場の俺の銅像前に大きな拘束台が建てられており、そこにはいつぞやの騎士団団長が両手両足を吊られていた。

 ち、ちょっとエロいかも…………。


 食い入るようにモニターを見つめると、アスがチラッとカメラ目線を送る。

 アスってカメラの存在を認識出来るのか?


「マスタ~今からゲームを始めるよ~」


 あ、見えてますね。これは。


「シャーロットちゃん~これからゲームに勝てたら一人ずつ解放してあげるからね~☆」


 何を解放してあげ……………………その転がしている人の首3つって…………。

 顔の隣に身体が三つ転がっていて、その持ち主が首達なのが間違いなさそうだ。

 首が離れているのに普通に生きてて不思議だな。


「さあ~1回戦はナイフ投げだよ~☆」


 アスの指示でとある男がゆっくり前に出てくる。

 その風体はまさに――――ゾンビ!


 って!

 あのおっさんってアメリア達の父じゃないか!

 あの男って死んだんじゃないの!?


「さあ、ブロくん~そこの女に目掛けてナイフを投げるんだよ~☆」


「グルァァァ」


 間違いなくゾンビ化してるな……。

 目も真っ白だし、見えているのか? そもそも意識あるのか?


 ゾンビと化したアメリア達の父――――ブロは脚を引きずりながらアスが指差した場所に向かう。

 そこに用意されているナイフ5つのうち一つを握る。


「んーー! んっー!」


 全身を吊るされている団長が何かを叫ぶがか口枷で何を話しているのか全く分からない。

 まあ、内容の予想は付くけどな。


「さあ! ブロくん! 始めて!」


 ゾンビ化したブロがナイフを思いっきり投げる。

 ナイフは鋭い音を立てながら、団長の右太ももの横に刺さる。


「あちゃー! 惜しいね~ブロくん!」


 団長の右太もも…………。


 ブロは次々ナイフを投げ、さらに3本外した。

 残り1本。

 最後のナイフを手にする。


 ああ…………団長の身体に傷が付くかも知れないと思うと何だか心の中に熱いモノを感じる。


 最後のナイフが投げられた。

 今まで全部外れたナイフ――――――しかし、


「んぁああああああ! ああああああ!」


 鋭いナイフが空を斬り、団長の左太ももに直撃した。

 すぐに叫び声をあげる団長に思わずドキッとしてしまう。

 その妖艶な脚に真っ赤な液体がゆっくり流れだす。


 ――――ゴクリ。


 その姿に自分では思いもしなかった興奮を覚える。


「おお~ブロくん、偉い~! 1発当てたから罰はなしね~☆」


 ブロにも罰が課せられていたのだな……。


「は~い、首一つふっか~つ~!」


 並んでいる首無し身体に首一つを軽々くっつけると、男騎士が自分の頭を首を何度も触り泣き出した。

 ただ、声は出ないようで、声一つ出していない。


「くっついたばかりだから声は暫く出ないよ~☆」


「んっんっ! んんー!」


「あらあら、シャーロットちゃん~おめでとう~一人復活したよ~あと二人だね~☆」


「ん! んんん!」


 首を横に振ってるけど、これって多分心折れてるよな……。

 それにしてもあの団長。中々良い体付きだ。

 レヴィも中々素晴らしい体型で、女性の武器も中々大きかった。

 団長は少し控えめだが、大きめではある。

 それよりも鍛えた脚が素晴らしい。

 細すぎず、太すぎず、健康的な脚は見る男を虜にするには十分過ぎる。


「さて、二回目は~復活したきみ~!」


 声を出せないが大いに驚いている。


「こっちに来て~」


 アスの指示通り、震える脚で降りて団長の前に立つ。


「きみの相手は~こちら~!」


 男騎士の前に、銅像に祈りを捧げていた女達が集まり出す。

 全員が目から光を失っており、ちょっとした恐怖を感じる。


「きみには二つの選択肢があります~☆ シャーロットちゃんを守りたいなら、これから襲ってくる彼女達をなぶり倒してください~! 彼女達は普通の女の子なんで強く叩くと死んじゃうからね~☆」


 直後、間髪入れずに襲い掛かる女達に、男騎士が戦慄する。


「あ~ちなみにきみが負けたら団長の負けね~☆ つまり☆ ――――――死ぬよ」


 男騎士は声にならない声を叫び、襲い掛かっている女達を殴り始める。

 その目には大きな涙を浮かべて、声なく叫び続ける。

 きっと団長を救いたいのだろう。

 その姿を見た団長も大粒の涙を流し、響かない声で何かを叫び続ける。


「んんんっ! んぁああああん!」


 団長の叫びも空しく、広場には男騎士によって気絶させられた女達が山のように倒れ重なった。


 パチパチパチパチ――――


「シャーロットちゃん~またきみの勝ちだよ~☆ 2勝目なので、また一人復活させます~☆」


 アスは1人目同様に、2人目の首を身体にくっつけると男騎士が動けるようになった。

 彼はすぐにもう一人の男騎士に駆け寄り、一緒に涙を流した。

 ――――あれは、嬉しい涙ではない。悲しい涙だと思う。


「さて~第3戦☆」


 全員の視線がアスに集まる。

 もちろん、俺もアスの次なる指示が気になる。が、団長の左太ももに刺さっているナイフから流れている赤い血が気になる。

 このままでは死んでしまうのでは?


「今回はサービスして全員で参加して貰うよ~!」


 そう話したアスはもう一人の首をくっつける。

 最後の男騎士が復活して、目の前に並び立つ。


「ほら、この瓶が何かみんななら分かるでしょう?」


 よく理科授業で見かけていた細長い瓶の中に、美しい青い色の液体が入っていた。


「シャーロットちゃんの左太ももに刺さってるナイフが見えるようね~? このままではいつかシャーロットちゃんは死んでしまうの。そこでここに『ポーション』を用意しました! きみたちの次の戦いはこのポーションを探せ~なの☆」


 アスの後ろから十人程の女が近づいて来る。


「このポーションをここの住民に渡すの~そして、これからきみたちには彼女達と――――鬼ごっこをして貰うよ~はい~目隠し~!」


 すぐに男騎士の目に黒い霧が纏い、男騎士達は目に触れるが霧で前が見えなくなったはずだ。


「さて~みんな自分達の家に戻って! ポーションは机の上に置いてね~」


 彼女達はアスの指示通り、広場から遠ざかっていった。

 その間に、アスは『ポーション』を団長のほどよい胸の隙間に入れる。

 意外にも丁度入って隠れるんだが…………ゴクリ。

 数十秒が経過し、アスが男騎士達の目隠し霧をはらう。


「この層のどこかにある『ポーション』を探してシャーロットちゃんに飲ませたらきみたちの勝ち☆ 期間は――――シャーロットちゃんが死ぬまで!」


 アスの言葉が終わり、すぐに男騎士達はそれぞれ方向に散っていく。

 言葉は交わせないが、普段から一緒に訓練を受けていて連携が取れているだけはある。

 そんな彼らを見ながら、アスの口角が上がる。


「ふふふ☆ あ~シャーロットちゃん。一応嘘は言ってないよ? 実は3本ほど既に彼女達の家に設置しているからね? 私は不公平が嫌だから~まあ、今のシャーロットちゃんに発情して襲い掛かっていたらすぐに分かったはずなんだけどね~」


 アスが団長の身体を指でなぞる。


「ねえ、シャーロットちゃん










 私達のマスターを狙った深い罪を悔いながら反省してね? これで終わりだと思わないでね?」


 アスの殺気めいた瞳に、団長は全身を震わせながら現実を受け入れたように見えた。

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