第96話 オメガの正体
彼女が普段から食してきた魔物にあって、俺が生成する魔物にないもの。
それは間違いなく――――瘴気である。
俺が生成する魔物に必要なのは、瘴気ではなくダンジョンポイントというダンジョンマスターの力だ。
それは瘴気ではなく、ただのポイントであり、ただの力だ。
それに比べて普通のダンジョンの魔物は瘴気から生まれる。
それなら魔物が瘴気を含んでいてもおかしくないはずだ。
「レヴィ。例の物を」
「はっ。こちらに」
レヴィが持っていた小さな箱を前に出した。
俺はゆっくりと小さな箱をテーブルの上に乗せて開いた。
「っ!?」
中の物を見るや否や、オメガが大きな反応を見せる。
その姿を見て、魔人が本当の意味で欲しているモノは何なのかが理解できた。
「どうだ。オメガ」
「は、はいっ…………とても美味しそうに見えます。…………今すぐにでも食べたいという欲望が溢れます」
「ふむ。では一度食べてみるといい」
「! かしこまりました!」
Fランク魔物で見せた反応とは全く違う顔を見せながら、宝箱の中に入っている石を吸収したオメガは、満面の笑みを浮かべて満足した表情を見せた。
さらに、彼女の頭には既に一本もない角が一本生えてきた。
「ほぉ。やはり角は力の象徴でもあるのだな」
「その通りでございます。我々は強くなればなるほどに角が増えていきます。それと、私の経験上、ここまで疲弊した状態から一つ摂取しただけでここまで力を取り戻したのは初めて見ます。今まで何人もの魔人達を見て来ましたが、ここまで回復は初めてでございます」
「ふむ。その情報を得られれば十分だ。次はその
「性質……でございますか?」
「まぁ、君に取っても悪い話ではないと思うが、まず試してみる事にしよう。サン!」
「はっ!」
後ろに控えていたサンが前に出てきて、オメガに近づいていく。
「彼女の性質の中から瘴気を探せ」
「かしこまりました」
サンが彼女の角の部分に手を当てて、彼女の中を探っていく。
「間違いなく角に瘴気が集中しております」
「ではそれを魔素に変えてみろ」
「かしこまりました」
オメガからどす黒い光が漏れ出して、段々と紫の色に変わっていく。
彼女の外見も魔人のそれから段々形状を変えていき、頭の左右に
「こ、これは!?」
オメガは自身の身体の変化に驚いているが、これは俺の予想通りという事だ。
「瘴気を全て魔素に変えました」
「ご苦労」
サンの言葉が終わると共に、オメガの姿は魔人だった頃の姿はまるで見当たらず、魔族そのものとなっている。
「レヴィ」
「はっ」
レヴィが二つ目の箱をテーブルに置き、開いて中を見せる。
その中には先程オメガが食した物と同じ石が入っている。
それを見たオメガだが、今度見せる表情は少し忌む表情である。
「オメガ。今回はどうだ?」
「はい。近づきたいとすら思えません。それに身体の感覚が変わり、以前のような食べ方は出来なさそうです」
「分かった。サン。例の件を試してくれ」
サンが二度目のオメガの頭に手を当てると、集中し始める。
「主。可能かと思います」
「ではそのまま変化させろ」
「はっ」
サンの能力が発動すると、オメガから紫の光が漏れ出して、それはやがて――――澄んだ青色に変わっていった。
そして、俺達の前に映っているオメガの姿は――――
「こ、これは…………」
オメガは自分の顔に触れながら、アスが持って来た大きな鏡を覗き込んだ。
そして、自分の姿を見たオメガは大きな涙を流しながら、その場で泣き崩れた。
それもそうであろう。
彼女は…………数百年ぶりの
◇ ◆ ◇ ◆
数日後。
最下層でアメリアを手伝い料理をしたり、他の眷属達の仕事を率先して手伝っている女性の姿が見える。
彼女の名前は、エラ。
大昔に存在していた聖なる王国と名乗っていた国の王女だそうだ。
彼女にはもう一つ特別な力が存在する。その名を『聖女』という。
エラは大昔に魔族との大戦中にとあるダンジョンに落ちてしまったそうだ。
それも魔族の仕業だと思われたのだが、その理由は知らないそうだ。
それがたまたまの偶然だったのか、はたまた神のいたずらだったのか定かではないが、彼女達が落ちたダンジョンこそ、瘴気の溜まり場となった『
それから彼女達は瘴気に蝕まれ、気が付けば自分の
そこで生まれた魔人達は、すぐに共食いを始め、最後に生き残ったのは奇しくもかつて聖女であったエラと、かつて勇者であった者の二人だけだったそうだ。
だが、すでに自我を失ったせいで、自分達の事を敵だと勘違いし、何年にも渡って戦い続けたそうだ。
それがいつしかお互いを認めるようになり、二人の角二本魔人として、地上に出る事となる。
そこからは二人の魔人によって、大陸は大きな戦いに巻き込まれる事になるが、やがて魔人喰いの登場により、勇者だった魔人と共にオメガも討伐される事となるのだ。
奇しくも、お互いに愛を誓い合った勇者は魔人になっても、オメガのために自分の命を懸けて守ったという事だ。
瘴気を聖気に戻して人族に戻ったオメガは、瘴気に冒されて最後の最後に魔人となるその瞬間まで全ての記憶を思い出して、大きな涙を流しながら淡々と語った。
自身が愛した男も既にこの世にいない事も知っていた彼女は、色んな感情から数日間泣き崩れていたのだが、そのうち自らの意志で部屋を後にして最下層で生活を送るようになったのだ。
そんな悲運の聖女エラは、たった数日ですでに多くの眷属達から慕われていたりと、聖女として昔から慕われていた事が伺える。
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