第95話 オメガの検証

 玉座の間に連れてこられたのは、サンが捕まえて来たオメガという魔人だ。

 彼女は既に両翼と三本の角を抜かれて、全身はボロボロで魔人としての力はほぼほぼ感じない。

 レヴィの尋問には素直に応じてくれて魔人や彼女の過去について知る事ができた。


「主様。連れてまいりました」


「!?」


 俺と周囲の守護眷属を見つめたオメガはその目を大きく開いて、現状に驚きをみせた。


「オメガと言ったな?」


「は、はいっ……」


「これから実験をさせて貰おう。代わりにそれなりの待遇を約束する。どうだ?」


「…………一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


 思いのほか、丁寧な言葉使いに、彼女が長年人族の世界に潜んでいられた理由が分かる。

 少なくとも三本角で力を持った時や、それまでの計画から自分に相当自信があったのは間違いないだろう。

 サンとの戦いでやぶれ、現状をいち早く理解した彼女だからこそ、魔人喰いからも逃げおおせられたのだろうな。


「よかろう。何でも聞くといい」


「私は捕虜です。好きにすればよいと思ってしまうのですが……さらに言うなら、これだけの力を持つ貴方様の配下に、操る能力を持つ配下もいるでしょう。どうして私に承諾を得ようとなさるのですか?」


 彼女の質問は、確かに的を得ている。

 そもそも彼女の言う通り、アスに言えば彼女を魅了して言う事をただ聞かせる事もできる。

 魅了と言わず、拷問を続けてもよい。


「俺は最近この世界について色々考える事があってね。その一番の疑問が、君にあるのだよ」


「私……ですか?」


「ああ。どうして君は生き延びられたのか。どうして魔人となったのか。そもそも魔人とはなんなのか。それをこれから調べたい。ひいてはそれが俺の眷属のためになると思っているからだ。それには操っては調べられない事も多い。お前が心から感じた情報が最も大きいからな」


「…………分かりました。そもそも私に選択肢がない事くらい存じております。このまま穏便に殺してくださると信じて色々話しましたが、待遇良く生かせて頂けるなら協力しない手はありません。この身体。貴方様に捧げましょう」


 深々とその場で土下座をして頭を地面につける。

 彼女もまた生き延びるために並々ならぬ覚悟を大昔から持っていた事だ。これくらい予想通りという事だな。


「食事の後にその身体の研究を始める」


「「「「はっ!」」」」


 すぐにメイド隊が現れ、彼女を連れて行った。


 食堂に移動すると、アメリアが夕飯を準備してくれていて、それらを食べ進める。

 久しぶりというか、守護眷属全員が集まってゆっくり食事を取るのも久しぶり感じる。

 そして、いつもなら別に食事を取るはずのアメリアとシャーロットも同席する。

 彼女達も立派な眷属として迎え入れたのだ。

 アメリアの隣のアスとシャーロットの隣のレヴィがそれぞれ談笑をする姿がまた微笑ましかった。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 オメガを待たせていたのは、最下層に作った貴賓室で、部屋に入るとすぐにオメガが跪いて迎え入れてくれた。

 テーブルの上を見る感じ、眷属達から食事がふるまわれたようだ。


「食事ありがとうございました」


「うむ。うちの食事はどうだった?」


「…………申し訳ございません。魔人は味を感じる事ができないため、食事を殆ど取らないので」


 意外な答えが返ってきた。

 という事は、無理して食べてくれたという事か。


「では普段から何を食べているんだ?」


「普段は生き物を食しております」


「生き物か…………それはダンジョンから生まれる魔物とかでも食べられるのか?」


「はい。寧ろダンジョンの魔物の方が食事としては美味でございます」


 ダンジョンの魔物の方が良いというのも何だか不思議に感じる。

 それならば、彼女の検証を進めるにあたって、確認したいモノが増えたという事だ。


「普段の食の仕方を見たい」


「かしこまりました」


 目の前にFランク魔物を一体生成する。


「…………」


 魔物を見つめるオメガから全く反応が見られない。


「どうした?」


「申し訳ございません。どうしてか、この魔物からは旨さ・・が感じられないのです」


「ほぉ……? では、そのまま食べてみるといい」


「かしこまりました」


 次の瞬間、彼女の身体が黒い波を打ち始め、その中から黒い触手が現れ、Fランク魔物を包み引き寄せた。

 魔物はそのまま彼女の身体の中に吸収されていった。


「なるほど。直接口から摂取するわけではないんだな」


「はい。魔人の食事はこうして取り込みます。ただ、食事という概念も少し違うような気がします」


「概念が違う?」


「人族はお腹が空いて、その空腹を満たすために食事を取り満たすと思いますが、魔人の食事はそもそも根本から違います。我々はお腹が空くといった感情はありませんし、食事を何年も取らなくても全く問題ありません」


 それはまた面白い事実を教えてくれた。


「では食事を取る理由はどこにある?」


「食事というより、栄養を摂る感覚が近いと思います。こうして食事を取る事で我々の能力が高まります。人族でいう祝福も我々には存在せず、強くなるためには食事を取り続ける必要があります。さらに、満たされる事はないので、食べる事だけでいえば、ずっと食べ続ける事もできます」


 オメガは人族での生活も長かったという。それもあり、自身の説明を非常に分かりやすく使ってくれる。

 それだけで彼女が思慮深いというのが分かる。


「ふむ。では先程の魔物を食した感触はどうだ?」


「それが…………私も初めての感覚なのですが、まるで何もなかったかのような……空白・・を感じました」


 彼女の空白という言葉に、一つ大きく納得した事があった。

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