第97話 魔族の姫と忠誠の覚悟
玉座の間に座っていると、レヴィが一人の女魔族を連れて来た。
彼女は俺を一目見ると、俺の前にやってきて跪いた。
「初めまして。アスタリアと申します」
深々と頭を下げた女魔族からは、どこか品の高いモノを感じられる。
サンの話から彼女は魔族の王である魔王の娘で、姫と呼ばれているとの事。
守護眷属達から、死神教国の領に入った時点で俺の所有物になったという強引な考えを言われたのだが、三本角魔人となったオメガに彼女達はあと数秒で命を落としたのだから、それを救った俺に所有権があるのは当然だという。
少し理不尽さも感じなくはないが、この世界は理不尽だらけなので、目の前の彼女もそれを納得している素振りを見せている。
「此度は私達のような下々にその寛大な心で迎え入れてくださり感謝申し上げます。私達にできる事なら全て尽くして参りますので、忠誠を受け取ってくださいませ」
「ふむ。アスタリアよ」
「はっ」
「お前は魔族の姫と聞いているが、それでいいのか?」
「…………命は生き残っているからこそ、意味があるんだと思っております」
「ふむ?」
「我が父である魔王は、既にこの世界にはいないでしょう。恐らくですが、お父様の国に生きる全ての魔族は今頃勇者の手によって滅ぼされていると思います。となれば、私が姫である事に意味はありません。今はただ貴方様に助けられた一人の魔族であります」
意外にも現実主義というか、現状を理解した上で一番
「俺の配下となるのなら、受け入れるつもりはある。だが、俺は働かない者に慈悲を与えるような人ではない。お前達が俺の配下になるのなら、それ相応の働きはして貰うぞ?」
「かしこまりました。それについては、こちらにいるアス様に聞いております」
彼女がここまで
まぁ、その方が話を進めやすくて良かったと思う。あとで、アスを褒めておこう。
「ではお前達はやがて支配地となる元魔王領を治めて貰うぞ」
「!? か、かしこまりました」
「マスタ~☆」
アスが一歩前に出て来る。
「どうした? アス」
「アスタリアちゃんの
「忠誠か。ふむ。それもそうだな」
「それに最近配下となったエラちゃんの忠誠も確認しませんと」
そういや、最近最下層でせっせと働いているエラも気づけば眷属となっていたな。
「いいだろう。忠誠の試し方は全てアスに任せるとする」
「かしこまりました☆」
「…………」
「マスタ~☆ それとヴァイオレットちゃんも☆」
ん? ヴァイオレットちゃん?
「?」
「あは☆ エルフ族のあの子ですわ」
「ああ。あの子か。良かろう」
エルフの里を占領した時に連れて来られたエルフ族が多数いた。
その中でも一人だけ最後まで抵抗を続けていた美しいエルフが一人いた。
今では最下層で働かせているエルフ族の唯一の者だ。
気づけば、彼女もまたいつの間にか眷属となっていたのを覚えている。
◇ ◆ ◇ ◆
その日の夜。
今日は誰が相手だったかな。
と思っていると、アメリアが顔を出した。
確か、昨日もアメリアだったような?
「ご主人様。今日は指南役としてお供します」
ん? 指南役…………?
守護眷属のルゼもだが、その後から生まれたマモとサンも全員アメリアが色々教えてくれた。
しかし、残っている守護眷属達はいないはずだが…………?
と、次の瞬間。
アメリアに続いて、美しい明るい金髪をなびかせた絶世の美女、少し茶色に近い濃い色の金髪の美人エルフ、そして、紫の長髪から覗かせるグラマーな体形を見せる魔族が入って来た。
「今日の相手をするエラちゃん、ヴァイオレットちゃん、アスタリアちゃんでございます」
「!?」
驚いていると、三人がベッドの上に上がり土下座をする。
「「「よろしくお願いいたします」」」
そもそもだ。
どうしてこの三人がここに来ているのか全く理解できないでいると、それを見抜いたかのようにアメリアが続ける。
「こちらの三人は眷属奴隷として、これからもご主人様に仕えると誓いました。その理由が生きるためだったとしても、忠誠を誓った事に変わりはありません。そして、ご主人様のモノになったのなら、ご主人様のためにその身を持って仕えるのが絶対忠誠の証となります」
絶対忠誠の証……か。
アメリアの口から出ると、その重みを感じずにはいられないな。
他の三人もアメリアの現状を知っているようで、彼女の言葉には納得する部分があるようだな。
「一つだけ。俺はお前達にそういう事を強要したりはしないし、眷属達に何を言われたかは知らないが、もし拒んだとしても問題にするつもりはない。アメリアにはアメリアなりの信念が、守護眷属達には彼女達の信念がある。そして、お前達も俺の下で働くのならその信念を尊重しようと思っている。嫌なら無理をする事はない」
これは本心で、正直に言えば、今の俺には守護眷属達やシャーロット、アメリア、リース達でも十二分に満足した生活を送っている。
満足を通り越して、これ以上求められない程だ。
目の前の三人は彼女達とも引けを取らないほどに美しいが、どうしても欲しいとは思っていない。
そのような強引なマスターになるつもりもないからな。
「魔人となった私を救ってくださった主様に、私ができる事なら何でもします。私ごときの身体で満足できるとは思っておりませんが精一杯務めさせてくださいませ」
「エルフ族の中に、私の一生を捧げられる人がいない事は生まれながら理解しておりました。主様を一目見た時から、私はこの先も一生主様のために生きていくと覚悟を決めました。どうかこの先も隣にいさせてくださいませ」
「人族とエルフ族の現状を見て、私は主様に魔族を束ねてくださる意志を感じました。魔王の娘として生まれ、魔族を束ねてくださる主様にこの身を委ねる事ができるなら本望でございます。どうか、私めの身体で少しでも喜びを感じてくだされば嬉しいです」
それぞれが想いを口にする。
調教ではなく、自分の意志でこの場にいるのは手に取るように分かる。
少なくとも彼女達を眷属として受け入れると決めた以上、彼女達の覚悟にも応えるのがマスターとなった俺の答えだ。
だからこそ、彼女達の覚悟を受け入れてあげたいと思う。
「分かった。その心意気。受け入れよう」
彼女達は全員が初めての経験のようで、アメリアに一つ一つ教わりながら、夜が明けるまで俺のために尽くしてくれた。
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