第54話 やってきた大雨
「マスター」
その日の外は珍しく大雨で、普段降らない雨をモニター越しに見ていると、アスがやってきた。
普段なら入口から入ってくるのだが、こうして転移を用いて現れる時はそれなりの理由があるのだ。
「アスか」
「はい。以前から警戒していた『魔人』と思われる集団が現れました」
「遂に来たか」
遅かれ早かれ来るとは思っていたのだが、意外と早かったな。
ただ『魔人』は基本的に群れないと聞いていたのだが……?
「相手は全員で3体。全員
「ふむ。それにしても魔人が3体も一緒に現れるとはな。何かあるとみて良いだろう」
「はい。私もそう考えております」
「アス。このまま警戒を続けろ。ギブロン街にも手を出させたくはない」
「かしこまりました。レヴィにも既に連絡は終わっております。最下層にはベルを待機させておきます」
「分かった。引き続き何かある度に連絡をしてくれ」
「はいっ」
いつもなら明るい雰囲気のアスだが、非常に重苦しい雰囲気に変わっている。
守護眷属達にはそれぞれ性格があって、アスは感情がそのまま言葉に出るタイプのようだ。
普段は可愛らしいのだが怒ると怖いし、こういう真剣な時は重苦しい雰囲気になる。
アスが消えた後、玉座から降りてアメリア達のところに向かう。
「ご主人様……!」
「アメリア。話は聞いているな?」
「はい。ベル様から教えて頂きました」
「ベル」
「はいっ。あるじしゃま」
「すまんがもしもの時はみんなを守ってくれ」
「はいっ。必ず全員守ります」
いつもなら眠そうにしているのに、緊急事態にすっかり目が覚めてるようだな。
ベルとアメリアの頭を撫でてあげ、一度玉座に戻る。
モニターを各階層とギブロン街に巡らせ、異変がないか確認を進める。
何もなければと思っていると、モニターに3人の人族が映った。
住民達や冒険者達が持つ『強さを表す数値』は大半が高くても3桁止まりが多い。
中でも1,000に到達出来る人はほぼ見た事がない。眷属になる前の団長くらいか。
だが目の前の3人の人間の上には全員が3,500という数値を示していた。
それだけで間違いなくこの3人が『魔人』である事は明白だ。
「マスター。魔人共がギブロン街に侵入しました」
アスに預けていたモニターが現れるとアスを映す。
こうすれば会話が成り立つという事だ。こちらの声は向こうに届いているから。
「モニターで確認している。聞いた姿とは違うな?」
「様子見のために人に変装しているようです」
変装だったのか。
…………それならもっと厄介だな。
「変装までするという事は、そもそも狙いがあって来たという事だ。こちらを警戒しているな」
「はい。レヴィは一度ダンジョンに移動して貰いました。鉢合わせになると即戦闘になる可能性がありますから」
「そうだな。その方がいいだろう」
モニターで3人の動向を追い続ける。
それにしても、周りをキョロキョロ見てるだけで口も動かさなければ、何かを試すわけでもない。
一通り歩き回ると、宿屋を取って人と変わらない感じで部屋に上がって行った。
「結界展開」
部屋が不思議な膜に覆われる。
「これから外から盗み聞きは出来ないだろう」
「アルファ。この街をどうみる?」
「…………何もかにもおかしい。俺が今まで見たどんな街よりも賑わっている」
「例の件と何か接点があるのか?」
「あるだろうな。少なくとも周囲のダンジョンが3つ滅ぼされた。それは人族にとって大きな
「それはいけないな」
「そうだな。このままでは『不条理』が進んでしまいかねない」
不条理? 気になる言葉が多い。
「どうする? 今すぐ制圧するか?」
「いや、それは待った方がいい。少なくともこの街にスタンピードに勝てる存在はいないはずだ。その存在を見つけ出す方を優先すべきだろう」
「ふむ……俺はお前達がどうしてそこまで不安視しているのかが理解出来んな」
「ガンマはまだ魔人になって日が浅いんだったな」
「そうだ。魔人の中では俺が一番の新参者だな」
「我々魔人が地上を支配していた頃。一人の人間に滅ぼされかけたのは知っているな?」
「聞いた事はある。だがその時代は我々魔人も今の強さはなかったとされているんだろう?」
「…………いや、そんな事はない」
「!?」
「あの時代には最強魔人が君臨していた」
「それは本当か!?」
「ああ。だがあいつも人族には勝てなかった。それが
「くっ…………だから今回ダンジョンが消えた事にお前もデルタも焦っているのか」
「そうだとも。お前もベータもまだ魔人としての日は浅いだろうが、今までよく隠れて力を付けてくれた。だが決して油断してはならない。我々を滅ぼせる存在がある事を頭に入れておくことだ」
「…………あの勇者とやらなら、勝てそうにないと思ったのだが、勇者以外にも存在していると?」
「それは分からない。寧ろ――――それを調べる為に我々がここに集められたのだ。デルタ程の魔人が不安視しているなら、俺達では手も足も出ない。だからこの街を詳細に調べ上げなければならにのだ」
「街には俺達に敵いそうな存在は一人もいなかったのだがな」
「それが不気味という事だ。少なくとも弱い人族しかいないこの街が3つのダンジョンを滅ぼしている。その原因を探さなければな」
「…………」
「…………」
アルファと呼ばれた魔人が一番歴の長い存在で、会話をしていたガンマは一番新参者か。
ここに来て一言も喋ってない魔人がベータというらしい。
そして、彼ら3人をこの街に仕向けた裏にデルタという存在か。
彼らにそれぞれモニターを自動追尾モードに切り替え、これから動向を観察する事にした。
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