第53話 嵐の前の静けさ
「なんだこのダンジョンは。何故こんな雑魚共が多いんだ?」
「リーダー。どうやら素人でも倒せるFランク魔物しか出現しないらしいです」
「ちっ。だからこんな雑魚ばっかか。つまらんな」
「ひっひっ。どうします? リーダー」
「何人かヤるか」
「ひっひっひっ。僕はあの女がいいです~」
「お前はあんな貧相な女が好きだったな」
「ええ~」
ダンジョンに入って早々そう話す冒険者達は、迷う事なく近くの
最近になって非常に多くみられる光景だ。
理由は簡単で、『グランドダンジョン』が周囲に有名な狩場となり、噂を聞きつけた冒険者達が集まっているのだ。
もちろん優良な冒険者も多く集まっているが、外から来た冒険者の殆どはとにかくわがままで強い者正義を体現したような存在だ。
モニター越しではあるが、目の前で女が冒険者に襲われるのを見かけると、非常に気分は悪くなる。
「アス」
「はいっ。マスタ~☆」
「また馬鹿共が現れたようだ」
「そのようですね☆」
「すまないが
「かしこまりました☆」
アスがその場から消えると、モニター越しに現れる。
女達の服を無理矢理引きちぎって涎を垂らしている冒険者達に鉄鎖でぐるぐる巻きにする。
あまりに突然の事なのか、冒険者達も女達もポカーンとしている。
まあ、大体いつもこんな感じだな。
彼らを引きずって消えていくアスに女達は土下座をして感謝の言葉を繰り返す。
「ダンジョンマスター様。助けてくださりありがとうございます!」
いつしか助けられた女達があの言葉を口にするようになっていた。
「マスタ~☆ ゴミ共は玩具にしてもいいですか?」
「ん? 玩具?」
「はい★
「お、おう。か、構わないぞ」
「ありがとうございます。マスタ~☆」
女の子って表情が色々変わって時々怖くなるな。
消えたアスが何をするのかが気になる。
モニターを動かして彼女を探すと、どうやら5層の自分のフロアに冒険者達を連れて行った。
「ベル! 今すぐ来て!」
広場で声をあげるとほんの数秒してベルが眠そうな目を擦りながら瞬間移動で現れる。
「お姉ちゃん……? 眠いよぉ…………」
「だらしないわね。さあ、
「うぅ……あるじしゃまのためなら……」
「さあ、吹き飛ばし遊びだからね★」
「あい…………」
全身を鉄鎖でぐるぐる巻きにされて震えている冒険者達が不安そうにアスを見つめる。
そのうち一人の鉄鎖を解く。
「お前達は一体なんなんだ!?」
すぐに声をあげながらアスに殴りかかる冒険者。
「ちっ」
その場から消えたアスが冒険者の頭を鷲掴みしてベルの方に投げ込んだ。
「ひい~!? 人間~!?」
すぐさま反応を見せるベル。
直後、ベルの頭についていた角が一瞬で巨大化する。
「あるじしゃまの敵。滅ぼす」
飛んできた冒険者を巨大角で吹き飛ばす。
飛んでいく時ですら一撃でボロボロになったのだが、そのまま遠くの建物に激突して痛々しい声をあげる冒険者。
あれでよく死なないなと思えるくらいだ。
ベルは吹き飛んだ冒険者に向かって、牛のように角を立てて走る準備をしている。
目が赤く染まっていて相当怒っている事が分かる。
アスの妹なだけあって、ベルも怒ると怖いな…………。
直後、走り抜けたベルは巨大な角で壁に埋もれていた冒険者に激突した。
アスが投げ込む冒険者達は次々ベルの餌食となり、ボロボロになったら回復させられてまた遊ばれ続けるのであった。
「あは~♪ ベルが走っているわ★」
アスも凄く楽しそうだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「主様」
「ご苦労。レヴィ」
「はっ。本日は魔石が多く集まりました」
「また貧困者からか?」
「はい」
ギブロン街が新しくなって少しは過ごしやすくなったと思ったのだが、貧困者は相も変わらず貧困に苦しんでいるようだな。
ただ、ダンジョンでは決して手に入らない『魔石』は誰にでも手に入る。
食料は無限と増えていくので『魔石』と換金は意外と良いのかも知れない。
「新しくなった素材のおかげで、売り上げと評判も爆増しております」
レヴィの言う通り、最下層で取れる植物ランクがEからDランクに上がっているので、食事の旨さが進化した。
今のギブロン街ではうちの店が一番の美味く安い。人気が出るのも頷ける。
冒険者ギルドの後ろ盾もあるので、悪さをするやつらも現れないのは良い事だ。
ただ、時折やってきた馬鹿冒険者達が乱暴を働く事はあるが、大体そういうやつらが『拷問の館』に送られる事になるのだが……。
「主様。冒険者ギルドから良からぬ噂を聞いております」
「良からぬ噂?」
「はい。どうやら人族と魔族の戦いがより激しくなった模様です」
「あの勇者とやらか」
この世界を二分しているのは、人族と魔族。
前世でよく聞いた勇者と魔王の戦いだ。
ただダンジョンとは全く関係がないので、彼らに接触するつもりはない。
どちらかと言えば、『魔人』の方が大問題だ。
魔族とは違い、魔人は非常に強く狡猾という事で角の数でその強さを示す。
少なくともこんなに人が集まっている以上、魔人がやって来るのは時間の問題だろう。
レヴィ達にも『魔人』の存在は常に気にして貰うように通達している。
そして数日後。
俺の不安を駆り立てる知らせが届いた。
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