第66話 一夜の関係と妹と姉。
シャーロットとその妹がぶつかっている間に、他の画面では騎士団員達とヘルサイズ達がそれぞれ戦い始めた。
最初こそ威勢の強い騎士達だったが、数回剣を交えて相手の強さを肌で理解したのか、その表情が少しずつ曇っていった。
「まさかこんなダンジョンの奥にこれほどの戦力が隠れているとは…………」
「ふふっ。王国騎士団にしては甘いですね」
「そうかもな。はぁ…………これならシャーリーちゃんともう少し楽しんだらよかった」
勝てないと知ると深いため息を吐く男。
「シャーリーちゃん?」
「ああ。昨晩出会った最高の女だった」
「ふふっ――――――――ありがとう」
そう話したヘルサイズの女は仮面を外す。
いつ見ても違和感があるのだが、この世界の人々は美形ばかりで、彼女もまた美人と呼べるには十分すぎた。
「なっ!? シャーリーちゃん!?」
「ふふっ。昨晩ぶりね」
「ど、どういう事だ!?」
「どういう事も何も、私達は貴方達にヒントをあげただけよ」
「っ!? ど、どうして…………じゃあ、昨日の晩のあれはなんだ!」
「ん~――――――遊び?」
「くっ!」
彼の剣を握っている手にぐっと力が入る。
怒りに震える彼の目には少しずつ涙が溢れた。
「あんなに親身になって俺の話を聞いてくれた女は…………初めてだったんだ」
「そうだったの?」
「たった一晩だったかも知れないけれど……本気で好きになったから、この任務が終わったら絶対に告白に行くつもりだったのに…………」
「残念。私はご主人様の物よ」
「ご主人様…………そいつがどこの誰か分からないが、君に勝って、そいつをぶっ殺して奪いとってやる!」
大声で叫びながら剣に魔力を覆わせる。
「スキル、ターボクラッシュ!」
一気に加速した男の剣がシャーリーを斬りつける。
だが、その剣が届く事はなかった。
「…………私も貴方が嫌いではなかったわ。ハンス」
「…………」
「けど、我がご主人様を侮辱するのは許さない。その罪を永遠に償いなさい」
シャーリーの言葉が終わると同時に男の全身から血しぶきが周囲に溢れる。
返り血を浴びたシャーリーはまるでゴミを見るかのようにゆっくりと倒れる男を眺めた。
男は虚ろな目で最後までシャーリーから視線を離さなかった。
「ジェイラー!」
彼女が声を出すと、目の前の空間が歪み、中から死神が3体出てくる。
「罪人を連れていきなさい」
死神達は彼女に会釈して倒れた男に鎖を繋いで空間の中に引きずり込んだ。
他の画面でも、彼同様に全ての騎士団員が『監獄』に連行されていった。
◇
「ねえねえねえねえ! 姉様!」
「相変わらず口が減らないわね」
「姉様がいなくなるから! あひゃひゃひゃ! 探していたんだよ!?」
「そう。でも元気そうね」
「いひひっひひ!」
ちょっと笑い声が特殊だが、仲睦まじい仲にも見える。
ただ会話に比べて行動が全くかみ合ってない。
シャーロットの鎌とシャルルの大剣がぶつかる度に、周囲に火花を散らせ爆音が響かせている。
とても久々に出会った姉妹の会話ではないな。
「ねえねえねえ。姉様!」
「ん?」
「どうしてこんなところにいるのよ~!」
「私はご主人様の物だから」
「ひっ!?」
シャーロットの答えに、停止魔法でも喰らったかのようにその場で固まった。
「う、嘘?」
「本当よ」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
全身から怒りの闘気が漏れ出して、激しい攻撃を繰り出す。
シャーロットは落ち着いた表情で黙々と妹の攻撃をいなし続けた。
「姉様が男なんかに平伏すなんて! ありえない! ありえない! ありえない! ありえない!」
「貴方がどう思おうとも、私の全てはご主人様のためだけに存在するわ」
「嫌だあああああああああああああああ!」
大剣にどす黒い闘気がまとわりつく。
画面越しからでも、その威圧感に肌がピリピリとざわつく。
「ブラックブレイカーぁああああああああ!」
叩きつけた地面から先を大爆発が飲み込んでいく。
彼女の小さな体からは想像もできないような爆発の大きさに画面越しの俺ですら少し身構えてしまうほど。
それにしてもあの爆発の中でシャーロットは大丈夫なのだろうか?
と少し心配していたが、どうやらその心配は意味がないようだ。
「シャルル。強くなったわね。もはや人族とは思えないくらいの強さよ」
「姉……様?」
「昔の私には十分に勝てると思うわ。偉いわシャルル」
「姉様!」
「けれど」
「ひい!?」
「ご主人様に剣を向けた事。許されるはずもないわ」
「姉様あああああああああああああああ」
大剣を振りかぶって飛び掛かるシャルルと同時にその場所から飛びついたシャーロット。
シャーロットのあまりの速さに全く反応できないシャルル。
一瞬目が赤く光ると同時に姿が目で追えない程の速さでシャルルを通りすぎた。
「姉様…………がはっ」
地面に着地したシャルルだったが、立つ事などできなかった。
シャーロットによって、両手両足が斬り落とされ、無情にも地面に叩きつけられた。
虚ろな瞳で空を見つめる妹に近づいた。
「姉……様…………」
シャルルの額を踏みつける。
「シャルル。こんなに強くなって、姉として嬉しいわ」
「え、えへへ…………」
「でももう剣も持てなくなったわね」
「姉様に……認められたら…………それで…………」
「ふふっ。相変わらず可愛い妹ね。でも私の体は――――」
「ひい! い、嫌あああああああああああ!」
小さく口を動かしたシャーロットに、シャルルは悲痛に泣き叫んだ。
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