第14話 肉じゃがの誘惑

 何かがおかしい。

 その理由として、ダンジョンの1層で狩りをしている冒険者が激減した。

 全員が魔物にやられているなら、俺のダンポが激増しているはずなのに、あまり増えていない。


 最後の数人の冒険者がダンジョンを後にする時。

 一つ違和感を感じた。

 それは、冒険者達と一緒にいる鎧の兵士達。

 この鎧って、ギブロン街を守っていた衛兵達が着用していた鎧に見える。


「アメリア!」


 俺の眷属となった存在は、意識して呼べば声が届くという仕様があるようで、玉座からアメリアを呼ぶ。

 少しして、扉のノックの音がしてアメリアが小走りで入って来た。


「お呼びでしょうか、ご主人様」


「ああ、こちらの映像を見てくれ」


「えいぞう?」


 俺は宙に浮かせているモニターをアメリアに見せると、驚いた表情を見せつつも冷静に映像を見つめる。


「この鎧に見覚えはあるか?」


「はい。ギブロン街の兵士様です」


 …………冒険者達が激減していて、そこに街の兵士。

 予想にはなるが、間違いなく貴族が絡んでいるのだろう。


「子爵は食べ物を独占していたと言ってたな?」


「はい…………働いて貰えるのは少ない食事です」


 つまり、子爵は何らかの情報を得て、ここで食べ物が取れるのを知った。

 兵士達がここを封鎖するって事は、これから子爵の命令で食べ物を求めて流れてくるのだろう。


「ご主人様…………」


「…………アメリア。今から俺の言う通りにしろ」


「はいっ」


 俺は一つの秘策を考えついたので、アメリアに指示を送った。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 次の日。

 俺の予想通り、大勢の兵士達がダンジョン1層に雪崩れてくる。

 ほぼ全員がレベル20台、中に40の人もいる。

 見た目からして兵士達のリーダーかな? 鎧がより丈夫そうなものを着用しているからな。


 入って来た兵士達は次から次へと俺の眷属たる魔物達を狩り尽くしていく。

 喜んでいた冒険者達と違って、彼らはあまり嬉しそうにはしていないが、果物を拾った兵士は喜んでいる。

 間違いなく食べ物集めに来たんだな。


 兵士達の戦いを眺めていると、リーダーが率いるパーティーが一番早く最奥に辿り着いた。


「最後はポイズンフロッグか。噂通り大した事がないな」


 モニター越しにリーダーの声が聞こえる。

 既にレベルが40になっている彼なら、ポイズンフロッグなど余裕で倒せるんだな。


「スキル、剛撃! 発動!」


 リーダーが持っていた剣が赤い光に灯り、飛び跳ねた彼は、剣戟をポイズンフロッグを叩き込む。

 たった一撃で、ポイズンフロッグは力なくその場から消え去る。


 今までみたどんな人よりも強いのは間違いない。

 ポイズンフロッグを一撃か…………意外と強いな。

 彼らの中から一人が2層に向かい、少しして上がって来た。


「兵士長、奥にオークが一体佇んでいるだけでした」


「ほぉ……オークとは中々厄介な……」


 ん?

 ポイズンフロッグを一撃で倒せるのに、オークは厄介なのか?


「今からオーク討伐を行う。第二隊と合流して進む」


「はっ!」


 後からもう一つの兵士パーティーがやってきて、リーダーと兵士15人の構成になった。

 彼らがそのまま階段を降りたので、2層のモニターに注目して、彼らの動向を見守る。


「オークは凶暴で有名だ! 地上では中々お目にかかれないから気合を入れろ! 一撃喰らうと瀕死になるぞ!」


「「「はっ!」」」


 オークが佇んでいる部屋に兵士達が足を踏み入れる。

 すぐに反応したオークが彼らに襲いかかる。


 最初は兵士達に体当たりをするオーク。

 その速度は思っていたよりも早い。

 二人ほど避けきれず、体当たりで大きく吹き飛んだ。


「手と足を狙え!」


 散った兵士達がオークを攻撃し始める。

 しかし、思ってたよりもタフなオークは、攻撃をもろともせずに反撃を続ける。


 思いのほか、オークが善戦しているな?

 それに兵士長と呼ばれていた人が言っていた通り、オークに殴られた兵士は吹き飛んでから起き上がれていない。

 ポイズンフロッグよりも、たった5倍強くなっただけでこれほど強くなるのか?


 次々オークの身体にも傷は増えて行く。

 その時――――オークの身体から真っ赤なオーラが立ち上る。


「オークの特性『底力』が発動した! 気を付けろ!」


 ほぉ…………兵士長なだけあって、詳しいな。


【スキル『底力』は、残り体力が1割を下回った場合、力及び素早さのステータスが2倍になります】


 ほぉ…………うちの天の声さんの方が凄いな。


 素早さが2倍になったというだけあって、さっきまでのオークの動きとは比べものにならない。

 兵士長が打ち合う中、他の兵士達も攻撃を試みるが、巻き込まれて飛ばされる。

 しかし、あと残り体力が少ないオークの動きが一瞬動かなくなる。

 その隙を突いて、兵士長の剣戟がオークの首を跳ねた。


「はあはあ…………さすがにオークだな………………」


 オークが光に包まれ、その場から消えていく。

 その跡地には、一つのお椀が残った。


「…………? お椀? 中に料理が!?」


 驚く兵士長は、中に入っている料理に驚く。

 そのお椀の中には肉じゃががたっぷりと入っていたのである。


 実は兵士達が来るかも知れないと思った時、真っ先にアメリアに頼んだのは、ドロップ品美味しい料理の制作である。

 果物のような食材をドロップ品に設定出来るんだから、料理を登録してみたところ、問題なく登録出来た。

 ただし、一点物として登録出来たので、今回オーク戦専用のドロップ品に設定。

 さらに2層の罠を一旦停止させている。


 兵士長は驚いたまま、お椀を手に持ちダンジョンを足早にあとにする。

 まだ1層には多くの兵士達居残り、魔物を狩り尽く続けた。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 ギブロン街のお城。


「子爵様。こちらが奥にいたフロアボス『オーク』から落ちた品でございます」


「…………」


 目の前に出されたお椀を食い入るように見つめるベグラン子爵。

 隣にたっている執事に合図を送ると、慣れたように肉じゃがの味見をする執事。


「!? 子爵様、こちらの料理は、最上品な味がしております」


「ほお!」


 唸り声をあげた子爵が、奪うかのように肉じゃがを自分の前に寄せる。

 スプーンとフォークで中に入っている野菜を食べ始める。


「ッ!? な、何だこの食べた事のない珍味は! 美味いぞ!」


 目の前の肉じゃがの醤油の香りと味に、子爵が夢中に食べる。

 その匂いから、部屋に待機している執事や兵士長も唾を飲み込む。

 子爵は周りの目など全く気にせず、ただただ目の前の肉じゃがにかぶりつく。

 だが、料理は有限である。

 気付けば子爵の前に置かれているお椀の中身は、一滴残らず綺麗になった。


「くっ! 兵士長!」


「はっ」


「この料理がもっと食べたい! 優先的に取って来てくれたまえ!」


「かしこまりました」


「…………ダンジョン2層だったな?」


「はい」


「…………倒してすぐに食べられるなら、そっちの方がいいか」


「子爵様!?」


「俺も2層に向かう」


「ですが2層にはオークがおります! とても危険です!」


「…………よい! 全兵士を投入する!」


「かしこまりました…………」


 子爵は全兵力を連れ、初心者ダンジョンに向かう。

 それが待ち受けている罠とも知らずに――――。

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