第15話 子爵の最期

 オークからドロップした肉じゃがを持って帰った兵士長。

 数時間後、1層にまた違う多くの兵士が入って来る。

 その中に場違いの高級そうな服装の人が一人、執事が一人、メイドが三人一緒に歩いている。

 子爵だとすぐに理解した。

 彼らはそのまま1層を突き抜けて、最奥の広場に集まる。

 ソワソワしている子爵は、余程あの美味さを気に入ったみたいだな。


「兵士長! 早くしたまえ!」


「はっ。先日15名でも厳しかったので、今回は全ての兵士で対応致します」


「それはどうでもいい! 早く倒してこい!」


「はっ」


 兵士長は前回の15人に加え、75人の兵士を連れて2層に向かう。

 1層の広場にはもしもの時のため、子爵の護衛の兵士が50人残っている。

 総勢150人にも及ぶ人数の兵士がダンジョンを支配しているが…………それもここまでだ。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 2層のオークが目の前の兵士に襲い掛かる。

 兵士長が攻撃を跳ね返した瞬間に、全ての兵士がオークに襲い掛かる。

 100人にも及ぶ兵士達の攻撃がオークに襲い掛かるが、オークの攻撃も兵士達に当たりやすくなっている。

 少し人数が多いのもあり、兵士長の顔に余裕が見える。


 だが――――――その時。


 部屋の入口が仕掛けにより音を鳴らしながら閉まった。


「っ!? 入口が閉まった!?」


 驚く兵士長だったが、他の兵士達はオークにいっぱいいっぱいで全く気付かない。

 一人だけ現状の異常さに気付いた兵士長だったが、今度は入口から真逆の開いた扉を凝視する。

 そして――――――その奥から見える無数の赤い目に兵士長は絶望の表情を浮かべる。


「ま、まずい! 罠だ! 全員鉄壁の陣だ!」


 兵士長が叫ぶと、兵士達も現状が見えないまま、兵士長を囲い盾を前に構える。


「お、奥から魔物の群れが!」


「ひいい! なんなんだあれは!」


 兵士達が、開いた扉の奥から自分達を覗いている赤い目にうろたえ始める。

 開いた二つの扉からとんでもない数の魔物が入って来る。

 その場にいる兵士達が絶望の表情に変わる。


 前回はわざと発動させなかった罠。


 あの肉じゃがの驚異的な美味しさに、食事が大変なこの世界には最高のご褒美だと思った。

 だから、アメリアに肉じゃがを作って貰い、それをオークのドロップ品にする事で、これからオークも乱獲するだろうと予想した。

 俺の予想通り、彼らはまんまとそれに釣られ、罠にかかってくれたのだ。


 2層の広場に流れてくる大量の魔物に、兵士達は悲鳴をあげる。

 オークの強さを一番体感している兵士長は、顔が真っ青になってその場に膝をついて涙を流し始めた。


「ここは……初心者ダンジョンなんかじゃない…………我々を……食いモノにするダンジョンだ…………」


 直後、襲い掛かる凄まじい数の魔物によって、兵士達が絶望に飲まれ、世界から姿を消した。




 ◇ ◆ ◇ ◆




 1層の広場に続いている道は、全部で二つ。

 一つは最短ルートだが、分かれ道が多い。

 もう一つは長いルートだが、分かれ道が少ないように出来ている。


 現在、ダンジョン内には子爵と執事メイド、それを護っている兵士達しか残っていない。

 それが功を奏して1層のどこにでも魔物を設置出来る。

 両道にオークを5体ずつ設置する。

 そして、広場に向かうように命令を送った。




「兵士長は何をしているんだ! 遅いじゃないか!」


 子爵が悪態をつく。


 その時。道の奥から地ならしが聞こえる。

 子爵や兵士達が音に反応し、道を凝視し始める。

 少しずつ大きくなる地鳴り音。

 二つの道から緑色の身体が見え始める。


「お、オークだ!」


「何故1層にオークがいるのだ!」


「オークが2体……む、無理だ! う、うぁあああ!」


 兵士の一人が2層に逃げて行く。


「お、おい! 勝手に逃げるな!」


「オークは無理だ! 兵士長がいないのに勝てる訳がない!」


 一人、また一人2層に逃げて行く。

 執事の機転により子爵も2層に逃げて行く。

 不満を漏らす子爵だったが、オークの風体ふうていを見てすぐに2層に降りていった。


 2層に降りた兵士達は、誰もいない広場に足を進める。

 現在、2層の広場には影一つない。


「兵士長と兵士は何処に行ったのだ! 何故誰もいないんだ!」


 誰もいない広場に悪態をつく子爵や不安の色を浮かべている兵士達に絶望を降り注がせる。

 罠を手動で発動させ、入口を閉じる。

 全員の視線が音を鳴らし閉まった入口に向くが、既に壁と一体化した入口の扉に驚く。

 そこに間髪入れず、今度は反対側から扉が開き、その音に驚く間もなく全員が振り向く。

 開いた二つの扉から自分達を覗く無数の真っ赤な光に全員が後ずさりを始める。


「ふ、ふざけんな! なんでこんな魔物が大量にいるんだよ!」


 1体、また1体が中に入ってくると悲鳴や怒声が広場に響き渡る。

 彼らは逃げ回ろうとするが、逃げ場など既に存在せず入って来たオークとコボルトの群れに次々と襲われて一人ずつダンポに変わっていく。


 最後に震え上がり、失禁している子爵が声にならない声で何かを叫んでいるが、魔物達は全く動じない。


「ま、待ってくれ! 俺は子爵だぞ! 金ならやる! 欲しい女も全部やる! だから、だから助けてくれ! 金ならいくらでもや――――」


 オークに踏まれ奇声をあげるが、すぐに声を上げれなくなった。




 子爵に特別恨みがある訳ではない。

 ただ、アメリア達があの街に住んでいた頃、食べ物一つに苦労していた話しを聞いている。

 それだけで既に子爵がどんな政治を行っているかは分かる。

 俺からしたら悪政にしか見えないその政治によって、多くの住民が苦労しているに違いない。


 まあ、それもただの予想だから実際はどうなっているかは分からない。

 だから今回の戦いはあくまで俺のダンジョンを封鎖して我が物にしようとした罰として、処分したという感覚だ。

 不思議とこれほど大勢の人間が目の前で亡くなっても罪悪感を全く感じない。

 久々の料理で心が解れた気がしたのだが…………それもダンジョンマスターになったせいなのかも知れないな。



 - 侵入者排除により、ダンポ306,000を獲得しました。-



 150人にも及ぶ兵士を殲滅した結果がこのとんでもない数字のダンポだ。

 内訳としては、兵士一人が2,000という多めのダンポで、兵士長が一人で5,000にも及ぶダンポを手に入れた。

 子爵と執事、メイドで1,000ダンポか…………。


 さて、これほどのダンポを何に使えばいいのやらと思った時。


【Fランクガーディアン生成可能なダンポを確保しております。】


【Eランクガーディアン生成可能なダンポを確保しております。】


 迷うと天の声さんが半強制的に言ってくるよな。

 多分反応しないとまた言われると思う。


【Fランクガーディアン生成可能なダンポを確保しております。】


【Eランクガーディアン生成可能なダンポを確保しております。】


 ほらな。

 分かったよ。

 ガーディアン生成とやらをしろというのだろう?

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