第16話 ガーディアン

 現在のダンポは310,000。

 天の声さんはFランクとEランクのガーディアンを作って欲しいそうだ。

 Fランクでも20,000、Eランクはなんと100,000と、とんでもなく高いダンポを要求されている。



【ダンポ20,000を使用し、Fランクガーディアンを生成します。】



 天の声さんの声が聞こえた直後、俺の前に黒い闇の霧が広がる。


「ご主人様!?」


 アメリアがその光景に驚いて声をあげる。


「気にしなくていい。俺が召喚した者だ」


「そうなのですね…………よかった……」


 周囲に凄い威圧感を放ちながら、闇の中から強い気配を感じる。

 少しずつ黒い霧が晴れていく。

 その中から現れたのは、メイド服装で片膝をついて、こちらに頭を下げている女性が一人現れた。


「この度、召喚してくださりありがとうございます! レヴィと申します」


 落ち着いた声ですぐに自己紹介をする彼女。

 今までの魔物とは一線を画す雰囲気を感じる。

 力だけでなく、知識も高いようで、その風体ふうていから気品が感じられる。


「俺はマサムネという。ガーディアンは初めてなのだが、お前はどういう存在だ?」


「はい。我々ガーディアンは主様の手と足となる存在になります。どんな命令でも命じてくださいませ。必ずや遂行致します」


「分かった。だが、いま下す命令はない。お前の後ろにいるアメリアの仕事を手伝ってくれ」


「! あ、主様! 我々ガーディアンが眷属奴隷・・風情の命令を聞けと仰るの…………ですか…………」


 ガーディアンはそれなりにプライドがある感じか。

 前世の事を思い返すと、出来る新人は序列だけで上司に従うのを嫌う。

 かくいう俺自身もそうだった。

 このままにしておくと、アメリアとの間でも確執を産むかも知れない。


「そうか。ガーディアンはそういう存在なのだな。すまなかった」


「!? い、いいえ! 私如きが主様に意見をしてしまい申し訳ございませんでした!」


 綺麗な金髪の髪が地面に付くほどに頭を深々と下げる。


「よい。俺もまだマスターになって間もない。足りない事はすぐに教えてくれ。アメリアもそれでいいな?」


「は、はい! 私達はご主人様の奴隷です。レヴィ様の指示を聞きます!」


「うむ。レヴィ。悪いがアメリア達の仕事を見てやってくれ」


「ははっ! メイドとして、必ずやしっかり育ててみせます」


 長い金髪と凛々しい顔から一目で美人さが目立つ。


 その時。



【ダンポ100,000を使用し、Eランクガーディアンを生成します。】



 天の声さんが空気を読んで、続いてEランクガーディアンを生成する。

 レヴィ同様、目の前に黒い闇の霧が広がる。

 その様子を見つめるレヴィの視線が驚くほどに冷たく見える。

 レヴィ同様、周囲に凄まじい威圧感が広がり、少しずつ霧が晴れて行く。


「ハロ~マスタ~! 私はアスだよ~☆」


 お、おう。

 レヴィとあまりの様子の違いに戸惑っているとレヴィが一歩前に出る。


「アス。主様の御前です。跪き忠誠を誓いなさい」


「え~レヴィたんは硬すぎるんだよ~☆ ねえ? マスタ~!」


 お、おう。

 俺をちらっとみて、片目でウインクを送る彼女。

 とても可愛らしくアイドルの姿をしている。

 ピンクのふわふわした髪型と、青い瞳が意外に相性が良いようで可愛らしい。

 更に顔には星型のペインティングが描かれていて、本物のアイドルみたいだ。


「レヴィ。構わない。二人とも楽に過ごしてくれ」


「えへ~☆ さっすが~マスタ~!」


「アス!」


 またレヴィがアスにがみがみ言い始める。

 二人は仲があまり良くないらしい。


 それから痴話げんかが終わったので、二人に住みたい家を聞くと、紙に絵を描いてくれた。


 レヴィは洋風の家で、ヨーロッパ風の家だ。

 アスは個性的な家で、色んな形が並んでいて家というよりはサーカスでも開かれそうな建物になっている。

 個人的にはアスの家を見たアメリア達が、期待の眼差しで目を輝かせていたのが印象的だった。




 ◇




 ガーディアン二人にダンポ120,000を使い、二人の家で10,000ダンポを使い、190,000ダンポを残している。

 そこで次の罠を作成する。

 ダンポ30,000を使い、フロアを一つ追加。

 フロアは最初に階層を設定出来るようで、3層として設定する。


 まず最初にやるのは2層を改造して、罠を全て削除し、広場から3層への入口までに道を作る。

 中央にはオーク1体のみを残して、他の魔物は壁の裏に隠す。

 ただし、隠している魔物は使わない方向なので基本的には待機という形だ。


 ここの罠を解除した理由は次なる罠を作るためである。

 2層のオーク1体のみ配置して、Eランク植物で取れた植物全てを100%ドロップするように登録する。

 これで次の3層にはもっと大きな宝が待っていると思わせるためだ。

 それに2層のオークを倒さなくても走って逃げきれば、3層に行ける形になっている。


 本命の新しいフロア3層のおかげで、元々3層だった俺が過ごしている層は4層になった。今回のフロアを増やした事を受けて、これから最下層と呼ぶ事にする。

 3層は、意外にもガーディアンのレヴィがフロアを貰いたいと申し出があった。

 どうやらガーディアンというのは、ダンジョンマスターの命令を受けて、フロアを守るフロアガーディアンの役目が大きいらしい。

 フロアに任命さえして、ダンポを与えるだけでレヴィ自身がフロアを改築していけるらしいので、全て任せる事にした。

 レヴィは自分の層――――3層に暫く引き籠った。




「マスタ~☆」


「アスか。どうした?」


「1層が凄く弱いんだけど~どうしてなのですか~?」


 アスのゆるくふわふわした言葉使いに、少し会話のテンポが掴みにくい。

 まあ、前世の営業職をしていただけあるので、それに合わせる。


「1層で侵入者を増やしてから育てた方がダンポが稼げるからだ」


「ほえ~☆ そうなんだ~! だからあんなに弱くしてるんですね~」


「まあ、想像していた以上にダンポを稼ぐのは、初心者よりも上級者を狩った方が良い。それなら1層をある程度開放しておくと周りが育つモノだ。敢えてそれをやった方が結果的には効果が高い」


「マスタ~はとても賢いのです~♪」


 一人でぴょんぴょん飛んでいる彼女は、少しポンコツな印象だ。

 ただ、ダンジョンの外に出た時、兵士達を見た印象として、それほど強い印象はなく、そんな雰囲気も感じられなかった。

 なのに、いま目の前にのほほんとした表情でぴょんぴょん飛んでいる女の子からは、凄まじい強そうな気配を感じてる。


「アス。一つ聞いていいか?」


「いいですよ~☆」


「お前達にこの世界の常識はどれくらいあるんだ?」


「ん~地上はよく分からないです~☆」


 やはりか…………彼女達は俺のダンジョンマスターの生成によって生まれた存在だからな。

 地上の事を知っていた方がおかしいよな。


「ん~でも一つだけ言える事はあるヨ~☆」


「言える事?」


「えへへ~」


 緩い笑顔の彼女。







 直後、笑顔が消え、その顔が豹変する。


「私達はマスターを守るガーディアン。人間如きに負けたりはしないよ。マスターの命令一つで地上を崩壊させる事も出来るの」


 目から光が消え、緩い表情がなくなった彼女は凄まじい殺気を放っている。


「お前とレヴィの強さに差はあるのか?」


「ううん。私達は全員変わらないよ。マスターのレベルが上がれば、私達も一緒に強くなる。いまレヴィと私が戦い数か月戦っても結果は出ないかな?」


「ではいまのお前に勝つ為に、Dランク魔物のオークだけなら何体ほど必要なんだ?」


 俺の言葉を聞いたアスの表情がますます強張る。















「マスター、私達がオーク如きに遅れを取ると思わないで欲しいかな~、何百、何千、何万体いようが、オーク如きに傷一つすら付かないよ」


 ガーディアンがどれほど強いのか、それだけで十二分に分かった。

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