第30話 騎士団の絶望(三人称視点)

 ◆アスと団長が戦っていた頃、ギブロン街◆


 冒険者パーティー『蒼石ノ牙』のアジト。


 アジト前にゲイルと二人の騎士が訪れる。


「――――――中に4人いる」


 ゲイルの言葉に二人も小さく頷く。

 窓はカーテンで閉められており、中は確認出来ない。

 ゲイルは一度深呼吸して扉を叩く。


 少しして、中から声がして扉が開いた。


「どちら様でしょう?」


 中から現れたのは『蒼石ノ牙』の一人、シーフのシエラである。


「急な訪問申し訳ない。貴方達が『蒼石ノ牙』であっているだろうか?」


「ええ。私達が『蒼石ノ牙』の4人ですけど……?」


「申し訳ないが、あのダンジョンについて聞いても?」


「……あのダンジョンというのは、初心者ダンジョンのことですか?」


 後ろから他のメンバーも少し殺気を放ちながら姿を見せる。


「おいおい、どこの誰だ? 急に来て失礼じゃないのか?」


 リーダーのランスが少し怒りながら出てくる。


「すまない。我々はこういう者だ」


 ゲイルは第二騎士団の紋章を見せる。

 王国ないでは第一騎士団、第二騎士団の紋章を知らない冒険者は存在しない。


「っ!? 騎士団!?」


「ランス……入れた方が良さそうだよ?」


「そうだな。どうぞ、入ってください」


「ああ。お邪魔する」


 ランスに案内されてゲイルと二人の騎士が中に入って行く。

 すぐにソファーに案内されてお茶を出される。

 こっそりスキルを使い、お茶の中身を確認するが、普通のお茶で安心してお茶を飲むゲイルに続いて二人も飲み始めた。


「えっと、お名前を伺いしても?」


「ああ。俺はゲイルという。第二騎士団の隊長の一人だ」


「なるほど。俺は『蒼石ノ牙』のリーダーのランス。こちらはヴァイオ、アラン、シエラです」


 全員が小さく会釈する。


「急な訪問本当にすまない。悪いがあのダンジョンについて詳しく聞きたい。少し急いでいてね」


「…………」


 全員が顔を合わせて頷く。


「ゲイルさん。『鑑定』は使えますか?」


「…………ああ」


「俺達に『魅了』が見えますか?」


「いや。全く見えない」


「…………信じられるか分かりませんが、今の俺達はもしかしたら『魅了』に陥っているかも知れません」


「なっ!?」


「信じがたいですが、俺達にも記憶がなければ確証もありません。気付けば俺達はここにいて、色んなを言っています」


「それに自覚がないと?」


「はい。俺達にとっては当たり前なのですが、それが不思議で仕方ないんです」


「…………あのダンジョンには魔人がいるかも知れない」


「「「「魔人!?」」」」


 4人が声を揃える。


「やっぱり記憶はないのか」


「はい。あのダンジョンで一体何が起きているのか…………」


「…………今、我らの団長がダンジョンに向かっている。多くの冒険者達がダンジョンに向かってしまってな」


「…………」


「そろそろ何かしらの結果が出るはずなので、その動向次第かも知れない。貴方達はこのまま我々と行動を共にして貰って良いか?」


「ええ。いいですよ」


「すまない。一応『魅了』の件もあるのでな」


「構いません。俺達も現状に戸惑っていますから。騎士団の方が付いているなら安心出来ます」


 7人はお互いに意思を確認するかのように顔を合わせて頷く。

 すぐに冒険者ギルドに向かう事になり、7人はその足で冒険者ギルドに向かった。




「ヴァイオッ!」


 冒険者ギルドに入るや否やギルドマスターが慌ただしくやってくる。


「シメオ……すまない」


「いや、仕方ないさ。詳しい話を聞こう」


「ああ」


 ギルドマスターの執務室に移動し、騎士達も合流したまま現状を話し合った。




「…………魔人とはとんでもないな。こんな田舎に魔人が現れるとは思えないが」


「それには俺も違和感を感じる。それにもし俺達が魔人に操られているのなら、どうして生きていて、意識があるのかが分からない」


「もしかしたら、あのダンジョンには魔人とは違う何かが住んでいるのかも知れない」


「何か?」


「あのダンジョンの1層にはずっと違和感を感じるのだ。食料があれだけの確率で落ちるダンジョンなんて聞いた事もない」


「…………冒険者ギルド本部にも連絡していないんだろう?」


「そうだな……あのダンジョンからは危険な匂いがするから、本部には伝えていない」


 各町点在しているギルドには連絡網があって、お互いの情報を常に共有している。

 そんな中、初心者ダンジョンについては情報を共有していないのだ。


「その方がいいのかも知れない。ともかく、急いで冒険者達を戻さねばならんな」


「今頃全員ダンジョンに入った頃だろうが…………今からではどの道、間に合わない」


「それなら大丈夫だ。我らの仲間が向かっている」


 二人の会話にゲイルが答える。


「それなら彼らが戻るまで待つとするか」


「そうだな。団長が戻るのを待つとしよう」


 そう話した矢先、冒険者ギルドが何やら騒がしくなる。

 すぐに受付嬢がやってくる。


「マスター! 冒険者達が戻ってきました!」


「噂をすればだな」


 全員が部屋を出て、ホールに向かう。

 ホールには大勢の冒険者達が不満を言いながら、それぞれテーブルに座って料理を注文し始める。

 ギルドマスターのシメオが姿を現すと、副ギルドマスターが報告に来た。


「騎士団の団長だな?」


「もうご存知でしたか」


「ああ。あのダンジョンが怪しいということでな。ここからは俺が受け継ぐ。冒険者達の今日の食費はギルドから出そう」


 シメオの言葉に、冒険者ギルド内が歓喜に包まれる。

 この街で最も高いのは食費で、それをギルド持ちに出来るならと、不満を口にしていた冒険者達は次第に何も言わなくなった。


 団長を迎えるため、彼らは正面入り口に移動し、数分待つ。

 だが、一向にその姿が現れる気配がない。

 ゲイルはそんな現状に不安を覚えるが、持ち場を離れるわけにはいかず、団長の無事を待つ。


 しかし。


 彼らの待っていたのは、数時間後に現れた3人の騎士であり、3人とも絶望した顔やボロボロの現状、さらに団長は居ず、彼らも口を聞けない現状だった。




 そんな彼らを4人の『蒼石ノ牙』が無表情で眺めていた。

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