第42話 釣場

「では、これから釣場を設置する」


 眷属達が拍手で迎える。

 ダンジョンマスターレベル3で使える釣場作成はダンポ500,000ととんでもなく高いのだが、ダンジョンで全く取れない魚が取れるからと楽しみで仕方がなかった。

 早速使ってみると、好きなエリアを選んでくださいと言われ、最下層の空いていた南東側に作成し、動物を飼っているエリアの隣となる。


 新しく出来た釣場は、周囲に柵が出来ていて、丸い泉が作られた。

 泉は直径20メートルくらいの小さな池だが、水は恐ろしいほど透明で水の底が見えるほどだ。

 試しに泉の水を手ですくってみると、今まで見たどんな水よりも透明で美しさをより際立つ。

 さらに飲んでみると、あまりにも澄んだ美味しさに驚いてしまった。


【釣場の水は『至高水』と呼ばれ、地上では『Sランク聖水』と呼ばれており、効能は病気や傷の瞬時回復などがございます】


 お~!

 ただ魚が取れたらいいなと思ったら、まさか水にそんな付加価値が!?

 それだとこの水には限界がありそうだな。減ったらまた500,000で作れるのか?


 念のため、確認してみると、釣場は一度しか作成出来ないようだ。


【釣場の水は供給され続けます。生息魚も泉から外に出た時点で新しい魚が生まれます】


 おお!

 こんな素晴らしい水に加えて、魚まで無限に取れるとなれば、とても助かるというものだ。


「こちらの水は『Sランク聖水』と呼ばれているそうだ。病気や傷の回復に特化しているらしい。それと魚はいくらでも取れるから自由に取ってよさそうだ」


 眷属達はそれぞれ喜びの声をあげる。

 その中でもアメリアは新しい料理が試せると嬉しそうだ。

 俺も新しい料理が楽しみでしかない。


「ご主人しゃま~」


「うん? どうしたリース」


 アメリアの妹でいつも活発走り回るリースだ。


「泉に入ってみてもいいですか~?」


「ふむ。深さはそれほどでもなさそうだからな。良いだろう」


「わ~い!」


 アメリアの妹達が迷わず泉に飛び込んでいく。

 妹達が腰だけ浸かるのを見ると、深さは大体50から60センチほどだろうか。

 それにしても中には大型魚まで見えるのだが…………。


「あ~! ご主人しゃま! 見てください~!」


 声をあげるリースを見ると、泉の中から魚を抱き抱えて持ち上げていた。

 それにしても魚なのに一切拒否しない? まさか死んでいる……?


「ご主人しゃま! こんな元気な魚は初めてみます!」


「ん? 動かないが生きているのか?」


「はい! このつぶらな瞳とか凄く元気ですよ!」


「うむ……俺にはよくわからんが……リースにはそういうのが分かるのか?」


「はい!」


「分かった。それなら、これから釣場の管理はリースに任せよう」


「え!? い、いいんですか!?」


「もちろんだ。魚たちの面倒も頼むぞ」


「やった~! 私頑張ります~!」


 それにしても微動だにしない魚に違和感しか感じないが、そもそもこんな小さな泉の中から抱き抱えられるくらい大きな魚が取れる事が不思議だ。

 そもそも野菜が木の実から生るのも不思議な話だったな。

 魚を受け取ったアメリアが新鮮だと嬉しそうに魚を持って食堂に戻って行った。


「レヴィ」


「はっ」


「ここの水も好きなように取れるから『Sランク聖水』とやらを大量に作れる。その入れ物の調達をしてくれ」


「かしこまりました」


 以前のように急な襲撃の対策として、眷属達には数本ずつ持たせておきたい。

 それにこれから隣の町とも交流を持てるそうだから、その売り物とするのがいいかも知れないな。

 『Sランク』というくらいだから、高い価格で売れたら色んな資材が手に入るかも知れない。


 それと最下層のフロア生産系物再生時間(1)を最大にしていて、植物が1分でまた生えて来る。

 今までだと一時間置きに出て来た植物を取って食堂に集めていたのだが、それも止める事にして、必要な時に必要な分だけ取る事にした。

 沢山取ってもどの道余らせてしまうし、1層でもランダムではあるが取る方法がある。

 妹達には植物を取りつつ、魚を取って貰う事にした。




 その日の夕飯。


 目の前には待望の魚料理が沢山並んだ。

 刺身、姿煮から始まり、コロッケのようなモノもあったり、最も興味をそそるのは、真ん中に置いてある大きな鍋である。

 中には野菜がふんだんに入っており、ところどころから顔を覗かせている魚の切り身たちが食欲を今まで以上に感じさせる。


「頂きます」


「「「「頂きます!」」」」


 早速アメリアが分けてくれた鍋をほふる。

 出汁の旨さを凝縮された野菜が甘み以上のうま味を感じさせてくれる。

 さらに追い打ちとして、魚の切り身を口に入れると香ばしい白身魚の香りと共に、肉では絶対味わえない魚独特の満足いくうまさが口に広がっていく。

 肉よりも魚が好きな俺にとって、これほど幸せを感じる食卓はないと言えるだろう。

 あまりにも無我夢中に食事を取っていて、眷属達が俺に注目していたのには全く気が付かないほどだった。




 ◆ ◇ ◆ ◇




「ん…………あぁっ…………」


 最近は毎日代る代る俺の相手をさせていた眷属達なのだが、今日は気分が良いので団長も一緒に連れて来た。

 相変わらず、二人の相性はよくて、激しい団長と柔らかいアメリアの動きが剛と柔を感じさせて、全く飽きがこない時間を過ごせる。


 それにしても今日はいつにも増して、自分の元気な姿が見れる。

 最近になってようやく慣れたこの身体だが、再度認識し始めると分かるのだが、普段顔は見えないが間違いなく王子様のようなイケメンだが、問題はそこではない。なぜなら俺に取って顔などどうでもいいのだから。

 では問題はどこなのか。

 間違いなく俺の俺が問題だ。


 その雄々しい姿は、前世で未経験とは思えないほどに雄々しい。まあ、前世でも雄々しかったのかというと、全くそんなことはないだろう。

 今の俺の俺が元気に空に向かって羽ばたこうとしてる姿を見ると、その大きさが理解出来てしまうからだ。

 それにしてもこの身体は不思議で、俺の気持ちが折れない限り、何度でも起ちあがる。

 以前はアメリアとの一騎打ちでも数回の防衛も空しく、俺が折れていたが、今では防衛くらいじゃまず折れない。


 久しぶりの二人なのだが、世界の常識とやらで知識が凄まじく、連携力も中々だ。

 二人の双璧に挟まれると、たちまち心が折れるのだが、今日の俺はひと味違う。

 俺の俺がその産声を繰り出すと、二人を優しく包み上げる。

 それを大事そうにする二人がとても愛おしくて、今日はますます元気が出てしまうな。


 その日は、俺史上最長の戦いを繰り広げられた。

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