第41話 街の支配(三人称視点あり)

 ◆ギブロン街・冒険者ギルド◆


「ヴァイオさん! ギルドマスター就任おめでとうございます!」


「「「「おめでとうございます!」」」」


 冒険者ギルドに歓喜が響き渡った。


 今までギルドマスターであったシメオはどこか保守的な雰囲気があった。

 その一番の理由は、彼は街の裏を支配しようと目論んでいた『沈黙の蠍』のボスなのだが、それを知っている者は誰もいない。

 その事も相まって、彼は基本的に保守的な人間とみられ、ギブロン街でも一番の話題である『初心者ダンジョン』での狩りも禁止にしていた。


 だが、ヴァイオは違う。

 彼が真っ先に取り組んだのは、冒険者達に『初心者ダンジョン』に潜る事を許可した。

 その件を引っ掛けに、シメオ亡き今、一番カリスマ的な存在であるヴァイオをギルドマスターに推薦すると、全てのギルドメンバーの一致団結の下で進み、ギブロン街の正式的なギルドマスターとしてヴァイオが君臨する事となったのだ。


 現在、失踪したとされているギブロン子爵の後釜が何故か就任しないまま、ギブロン街の全ての権限は冒険者ギルドに集約し始まった。

 ヴァイオが真っ先に行ったのは、今までの街の税率。

 ただ急に変えてしまっては、今までの生活が変化する者も多いだろうから、税率は元の高いままである。

 ただ、大きく変わったのは、食税の撤廃だ。

 元々住民税は王国に納めるのだが、その他の税金は全て領主が手に入れる仕組みになっている。

 王国には500を超える町が存在するため、王国も税金を管理出来ず、こういう仕組みを取っているのだ。

 その甲斐あり、ギブロン子爵は今まで私利私欲を満たしていたのだ。


 元々住民税よりも遥かに高かった食税が撤廃する事で、多くの人々の生活が安定するようになった。

 さらに大きいのは、今まで『初心者ダンジョン』と呼んでいた『グランドダンジョン』を公式的に冒険者ギルドで公認する事となり、その情報を住民に広く知らせて、多くの大人達がさらに『グランドダンジョン』に殺到するように仕向けた。


 ただFランク魔物とはいえ、魔物に一般人がそう簡単には勝てないので、冒険者ギルドは条件付きで『武器と防具』を貸す事となった。

 秘密裏にヴァイオが変えたインゴットで新しく装備を大量生産し、彼らに貸し与える。

 彼らはダンジョンに向かい食材を取って来て、一日借りた分の食材を納品する。


 これは『グランドダンジョン』が提示した『ルール』の一つ、販売は禁止するにあたり、あのダンジョンで取れた食材は売れないとされている。

 それを冒険者ギルドが貸し与えて、その代金として食材を集める手法を取った。これもヴァイオのカリスマ的な作戦だと、より冒険者達の支持を集める事となる。


 集まった食材は安価で町の多くの食堂に卸すようになり、多くの失業者が食材を運ぶ仕事に就けるようになり、食堂も安価の食材を安定した供給で店を開けるので、住民達も客として利用しやすくなった。


 そのサイクルが一か月程過ぎた頃、住民達の勝手な嘆願により、王国から正式的にヴァイオに『準男爵位』が与えられ、ギブロン街の領主となった。

 それにより、ギブロン街はより平和的となり、元々高かった出生率が上がる事となった。




 ◆ ◇ ◆ ◇




【ギブロン街の支配条件が整いました。ギブロン街をダンジョン化支配させるにはダンポ100,000が必要です。行いますか?】


 ああ。支配する。


【ダンポ100,000を使い、ギブロン街を支配下に置きました。ダンジョン外の階層については、階層としての判定ではなく、完全分離した分層として判定されます】


 分層?

 今の階層を確認してみる。


 『1層』『2層』『3層-嫉妬の間』『最下層』『分層-ギブロン街』


 なるほど。

 ダンジョン内から分層に行く『階段』を作る事も出来なければ、存在もしないというから『分層』という意味なのだな。


「主様」


「どうした。レヴィ」


「はっ。そろそろこの無能共を帰してもよろしいでしょうか?」


 レヴィが無能と見下ろすのは、新しく爵位を貰いギブロン街の領主及び冒険者ギルドのギルドマスターとなった『蒼石の牙』の連中だ。


「うむ。レヴィ。ご苦労だった。ワープポータルを使えば、分層であるギブロン街に飛べるようになったので、利用するように」


「はっ!」


 レヴィが『蒼石の牙』を連れて玉座の間を後にした。


 今回分層に出来た事で大きいのは、『ワープポータル(眷属)』を分層にも置けるようになり、場所は一か所のみだが、いつでも飛べるようになったのが大きい。

 ギブロン街のワープポータルは、元々『沈黙の蠍』が使っていた屋敷にしていて、その屋敷は俺の別荘という位置づけになっているが、俺は行った事もない。

 メイド達が毎日掃除を欠かさない事くらいは知っているがな。


 それと、俺の表向きの存在・・が決まった。

 この屋敷を所有していて、何者なのか分からないのでは怪しいからと、俺はとある資産家という事にして、現在ギブロン街に多くの食堂・・を展開している。

 食堂の名前は『ご主人様』とレヴィが考えたネームらしいが、元々こういう名前だからと新しく建てる店舗もでかでかと『ご主人様』の看板が掲げられた。


 普段は『総管理人』としてレヴィが巡回をしていたり、各店舗に冒険者の用心棒を雇って守ったりしているが、ギブロン街で我々を攻撃しようとする者は存在しないだろう。

 まあ、これも表向きにやっているだけだ。


 それにしても『食事処ご主人様』は大人気のようで、特に子供達から支持を得ていて、森の中に時折落ちている魔石でも食事が出来るので、おやつ感覚で食事を楽しむ者もいれば、親に見捨てられて多くの子供達の食事処となっている。




 最後にこの一か月で最も変わった事。


 それは毎晩俺の相手が変わる事である。

 俺が望めば、二人相手でも問題ないそうだが、まだ多人数を相手出来るほど、俺の実力が不足しているのは明白だ。

 ギブロン街で売っているという『夜の指南書』となるモノを見つけて、一所懸命に練習している。


 アス達は普段から大袈裟なので、本当に効いてるのかは分からないけど、最近アメリアと団長が朝起きれなくなったので、少しは上手くなっているのかも知れない。



 ギブロン街を支配して、数日後。

 元々貯まってはいたが、支配のために少し待っていた釣場の解放を行う日がやって来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る