第87話 守護(三人称視点あり)

 ◆ギブロン街の近くの山◆


 田舎の街。の一つだったはずのその街は、田舎とは思えない程に繁栄を極めていた。

 昔の姿は影もなく、所狭しと高い建物が並ぶ。

 その建物は王国の様式とは思えないような不思議な形をしていた。

 真四角の数階にも及ぶ建物。

 それが所狭しと並んでいる光景は王国の中から見たら不思議な光景なのは間違いない。

 その繁栄の中、中央広場には大きな盛り上がりを見せる。

 大勢の人々が中央に立っている死神様の銅像を祀っており、楽しそうに祭りを開催していたのだ。


 その楽しそうな光景を見つめる一つの影。


「…………聞いている話とは違うな」


 思わず言葉にしてしまったその声は、特に誰かに投げられたモノではない。

 だが、それに答える声が聞こえる。


「そうだな。おかしいよな」


「!?」


 影は驚き、戦闘態勢のまま、声をがする方に構える。


「おいおい、そんな構えるなよ。別に今すぐ戦おうってわけじゃねぇんだからよ」


「っ!」


「はぁ、やめとけって」


 直後、凄まじい重力・・が影を襲った。


「が、がはっ!?」


「おいおい。それくらい耐えなよ。男としてどうなんだ」


「ぐ、ぐぅ……」


「へぇ……やるじゃん」


 倒れ込む事なく、ギリギリ踏ん張って前を睨んだ。

 右手の指を鳴らすと、嘘のように重力が消えて男が立ち上がった。


「貴様は?」


「…………マモだ。一応言っておくけど、お前の敵だぞ」


「ちっ…………オメガの言っていた事は本当だったんだな」


「オメガ? そこら辺、詳しく教えてくれよ」


「はっ。敵にそう簡単に喋るかよ」


「それもそうだね。まぁ、タダで聞けるとは思ってない。力で聞いてやるよ」


 笑みを浮かべるマモ。

 真っ黒い短髪を風に揺らしながら、デルタの前に立つ。


「…………ダークディヴェイジョン!」


 デルタからどす黒い闇が放たれる。

 巨大な闇がマモと包んだ。


「キシシシ! これならどうだ!」


「ん~10点くらい? あ、100点満点ね」


 そう話すと、闇にひびが入り、バリッバリッと音が聞こえて割れた。


「はあ!?」


「なによ。そこまで驚く事はないだろう?」


「く、くそが!」


 大きなノコギリ状の剣を取り出して、マモを斬りつける。

 禍々しいオーラの剣がマモを襲うが勢いよかった剣はマモの前でピタリと止まる。


「何故剣が通らない!?」


 マモの腕に確かに当たっている。

 なのに、剣は傷一つ付ける事ができず、その場からピクリとしない。

 力に任せてデルタは何度もマモに剣を叩きつけた。


「な、何故だあああああ! 何故俺様の剣が刺さらない!?」


「はぁ…………まぁ、僕のシールドは仲間の中でも最強クラスだからね」


「シールド……?」


「ああ。僕は一番硬い・・んだよ。姉達の中でも断トツだね~」


「姉……たち?」


「まあ、君は知らなくても良い事だよ。それよりもオメガっていう子について教えてよ」


「くっ!」


 黒い羽根を全開にしたデルタから黒いオーラが周囲溢れる。

 周囲の土や雑草が一瞬で枯れる。


「ダークフィンガー!」


 デルタの周囲を包む黒い霧と共に、真っすぐマモに飛んできて、その手に燃える禍々しい炎を叩き込んだ。

 同時にギブロン街からも見えるほどの大爆発を起こす。

 その傍らのギブロン街で開かれている祭りはそのまま継続しており、大爆発がすぐ傍で起きているというのに誰一人気にしない。




「はぁ、僕が何もしないから好き放題していい訳じゃないんだよ?」




 声の後、デルタの腹部をえぐり込むマモの腕があった。

 後方に爆音が響き、デルタの口からはおびただしき量の血液が吐き出される。


「僕は確かに硬いとは言ったけど、弱いとは言っていないよ? いい加減にして?」


「がはっ」


 その場に倒れ込むデルタは信じられないように瞳の視点が合わずに揺れ動く。


「僕ね。君のような――――雑魚が喚くのはあまり好きじゃないよ。姉さん達みたいに気が短い訳じゃないけど、僕も聖人じゃないんだよ?」


「な、なぜ…………ど、ど…………」


 デルタの頭を踏みつけるマモ。


「このまま頭を踏みつぶしてもいいんだけどね。お兄ちゃん・・・・・にお土産が欲しいんだ。ねえ? そろそろオメガについて教えて?」


「だ、誰が……教…………」


「はぁ…………仕方ないな。君達魔人達の弱点・・は教えて貰ってるからね。これから試してみようかな」


 次の瞬間、ギブロン街から大きな花火があがる。

 花火に合わせて住民達の歓声が響いた。


 しかし、その歓声の傍では悲痛な叫び声が響いた。

 マモによって、頭の角を力で引き抜かれたデルタはその場で泣き叫ぶが、マモは止まる事なくデルタを拷問し続けた。




 ◇ ◆ ◇ ◆




「お兄ちゃん~」


「マモ!? 服が汚れているぞ」


「!? ちょ、ちょっと遊びすぎたかも」


「アス!」


「は~い☆」


「マモの服を」


「はい~☆」


 一瞬でマモの服がアスによって新しい服に切り替わる。


「あ、ありがとう。アス姉」


「うん☆ よしよし」


 アスに頭を撫でられて恥ずかしそうに、不器用な笑みを浮かべるのは、マモという守護眷属で、レヴィ、アス、ベルの妹であり、ルゼの姉のようだ。

 凄まじい速さで貯まったダンポ500万でダンジョンマスターのレベルが7から8に上がった。

 その時に新しくBランクガーディアンとして生まれたのが、このマモだ。


 マモの見た目はボーイッシュな少女で、性格も基本的にはサバサバしていて、周りの出来事にあまり興味を持たない。

 ただ、生まれたばかりなのにも関わらず、近くに魔人の一人がやってきたときは、真っ先に向かっていた。

 普段は誰も興味なさそうに過ごしているが、実は誰よりも家族思いの子で、アス曰く、守護眷属の中で最も守護に適しているらしい。

 誰かを守る力に秀でているからこそ、誰かを守りたい気持ちは一番強いみたい。


「マモ」


「う、うん? どうしたの? ――――お兄ちゃん」


 そう。マモは俺をお兄ちゃんと呼ぶ。


「よく守ってくれた。ありがとう」


「!!!」


 マモの頭を優しく撫でてあげる。

 撫でられるといつも恥ずかしそうにするのがまた可愛らしい。

 少し感情を出すのが不器用だが、レヴィ達の妹なだけあって、本当に可愛らしい守護眷属だ。

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