最終話 ダンジョンマスターの覚悟
「あれ……? ここは…………どこ?」
真っ先に俺の耳に届くのは、何度も聞いた――――アメリアの声だった。
周囲を眺めると、守護眷属は誰も居ず、他の眷属達もグランドダンジョンからはじき出されたみたいで一安心する。
周りをキョロキョロ眺めているアメリアと一瞬だけ視線が合うが、俺を
これもダンジョンマスターを解除したことによる記憶消去だと思われる。
まぁ、こればかりは仕方がないな。
俺が目の前のグランドダンジョンに入ろうとした瞬間。
「あ、あの!」
後ろからアメリアの声が聞こえて、振り向くと心配そうに妹達と共に俺を見つめるアメリアがいた。
「何か?」
「え、えっと…………そこに入るのは良くないような気がします。そ、その…………ご、ごめんなさい…………」
「いや、構わない。だが俺は行かねばならない」
「ど、どうして……ですか?」
「…………妹が、待っているのでな」
「妹さんがいらっしゃるんですね」
「ああ。では俺は行かせて貰うぞ」
振り向いてアメリアを後にする。
「あ、あの! 私はこの先のギブロン街の
大きな声で叫ぶ彼女に手を上げて、そのままグランドダンジョンの中に入っていった。
◇ ◆ ◇ ◆
グランドダンジョンに入るや否や、目の前の光景はいびつに歪んだものになっていた。
視線の先には強大で禍々しい気配が飛び交っており、時折ぶつかり合い大きな音をならせて爆発を見せていた。
ダンジョンを解除して分かった事は、ダンジョンというのは、そのダンジョンの持ち主の心を映すということだ。
ダンジョンのマスターがどういう心境か。それが一目で分かるのだ。
今のグランドダンジョンは、欲望にまみれて、ただただ他人を拒絶する魔人そのものである。
【――――剣を――――――ポ――――99――――――すか?】
そうか。
君は
最初から気が付かずに悪かったな。
元々君は俺の隣で支えてくれていたというのに、それに気づかないなんて――――――お兄ぃとして失格なのかも知れないな。
「ダンジョンポイント999,999,999を使用して、Sランクガーディアン生成する!」
そして、俺のは右手に魔剣ベクハドールを空高くかざした。
俺が眠っている間、アスが勇者と戦っていた前、各階層ではそれぞれの眷属達5人が勇者のパーティーメンバーと戦って倒してくれた。
それが総量500,000,000となってくれた。
そして、最後の勇者をアスが仕留めてくれて、手に入ったダンポも500,000,000となった。
それにより、俺の
そしていま、俺は最後の
眩い光が魔剣ベクハドールを包み込み、空中に浮かび上がった魔剣はダンジョンを段々と
そして、光が人型にまとまりはじめ、姿を現した。
「おかえり」
「ただいま! よく気づいてくれたね?」
「まぁ、久々に莉愛の匂いを感じたからな」
「えへへ~実はずっと隣にいたよ?」
「そうだな。天の声としてずっと俺を助けてくれてありがとうな」
どうして莉愛が眷属達を覚えていたのか。
どうして俺の身体に起きた出来事を知っていてくれたのか。
それはとても単純な事で、最初から莉愛は俺の隣にいてくれたのだから知っていても何ら不思議ではない。
最初に感じた天の声さんの身近な感じは、彼女が莉愛である事を示唆していたのだろう。
それに気づけなかったのが兄としては申し訳ないと思ってしまうが、これからは共に生きていこうと思う。
「お兄ぃ。再会を喜びたいんだけどね。このままではマズイかも」
「どうせ、あのくそ野郎が自暴自棄になって、この世界もろとも自爆でもするんだろう?」
「…………あれ? お兄ぃってそんなに鋭かったっけ?」
「そうでもないが、まぁ、俺には優秀な眷属達が多かったからな。彼女達から教わった事から推測すれば簡単な事さ」
「ふふっ。あぁ~私もアスお姉ちゃんにぎゅーっとして貰いたかったな~」
「いつかそうなるさ」
「そうだね。希望を捨てずにいるとお兄ぃとも出会えたし、うん! 頑張る!」
相変わらず姿はやせ細っているが、彼女からは信じられない程強い気配を感じられる。
「ふふっ。私はお兄ぃの妹でありながら、
莉愛の全身に赤いオーラが立ち上り始めると、俺の身体からも凄まじい力が立ち上がる。
「これは神をも殺す絶大の力。私とお兄ぃだけが使える力なの。どう? 中々でしょう~」
「そうだな。自慢の妹だ」
「えっへん~! ではこれからグランドダンジョンをぶっ壊します~!」
莉愛がふわっと浮かびあがると、周囲に魔法を放ち始める。
グランドダンジョンの空間がもろとも壊れていき、その姿をどんどん変えていった。
割れた空間の奥から、俺の前世の子供の姿から一遍した化け物のような姿のあれが姿を見せる。
「莉愛…………どうして……僕が…………こんなに……愛して…………」
「キモいんだよ~!」
怒り声で魔法を放ってそれを撃ち続けると、悲鳴に似た声をあげる。
「そもそもあれは何?」
「あれは世界喰らいのグリモワールという魔物だよ。その力が強大すぎて、もはや神に至っているんだ。でもその意志はもはや子供そのものだね~こんな魔物のせいで私もお兄ぃも前世では苦労したんだからね」
「まぁ、そのおかげという訳ではないが、ここで眷属達に出会って、莉愛にも出会えたんだ。少し感謝する部分もある」
「え~! 感謝しないでよ~!」
「お、おう。感謝はしてないけどさ」
「ぷふっ。あははは~」
莉愛に釣られて俺も笑い始める。
その後ろでは莉愛の魔法でボコボコにされるグリモワールの悲痛な叫び声が木霊していく。
それはやがてグランドダンジョンを壊し、グリモワール自身の身体も塵と化していった。
次の瞬間。
グランドダンジョンの地底からおびただしい量の瘴気があふれ出そうになる。
「あちゃ……グリモワールのせいでまた世界がめちゃくちゃになりそうだよ」
「あれが人々を魔人に染めた瘴気か」
「そうなの。グリモワールが産んだ負の遺産の一つでね。あれのせいでこの世界も神様もめちゃくちゃにされたの」
「それは大変だな。ここで止める方法がないのか?」
「う~ん。一つだけ」
「よし、では俺が行こう」
「え~!? まだ何も言ってないのになんでバレたの!?」
「莉愛の考える事くらい分かるさ。兄だもの」
「えへへ~」
恥ずかしそうに笑う莉愛が、俺に飛び込んでくる。
「莉愛。一人では行かせない。俺も共に行くぞ」
「…………うん。分かった。お兄ぃ」
「行こうか」
「……うん」
どこか嬉しさがにじみ出る声で返事をする莉愛と共に、俺は地底から溢れる瘴気の中に莉愛と共に飛び込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆
「アメリア~!」
ギブロン街の館の前で声が響き渡る。
数秒して姿を見せるのは、美しいドレスを身にまとったアメリアである。
「シャーロットさん。おかえりなさい」
「ああ。王都は制圧してきたぞ!」
「もうですか!?」
「ああ。シャルルが手伝ってくれたからな。それでどうなったんだ?」
「こちらは順調にいきました。ここら辺周辺は全員が
「そうか。さすがはアメリアだ。ありがとう」
「いいえ。これも全てご主人様のためです」
「そうだな。これからもご主人様のために頑張っていこう」
「うふふ。それはそうと、シャルルさんの
「ん~そうなんだけど、あの子ったら、張り切ってしまってね」
「うふふ。やっとシャーロットさん
「そうだな…………子供を大事にして少しはゆっくりして貰いたいんだがな」
「ふふっ。リース達も動けるようになったから、ここからは私も出ます」
「そうしてくれると助かる。さあ、一緒に行こうか」
「はい」
街の周辺にある木々から果物が生えるようになったのだ。
それを巡って各街では戦いまで起きていたのだが、真っ先に立ち上がったのは『死神教国』。
大陸最強剣聖のシャーロットとシャルル、アメリア、エラをはじめとする戦力により、あっという間に人族の街を制圧していった。
『死神教国』は死神様を崇める王国であり、死神様がどういった存在かは分からないが、あっという間に戦力を増やし、最大派閥となった。
さらには、西にあるエルフの里と、北にある魔族の国からも同じ『死神教国』が発足し、世界は歴史上初の統一となった。
そして、大きく変わったもう一つは、子供を身ごもる方法が、行為から想いに変わった。
それにより、お互いを愛し合い続けた者だけが子供を身ごもる事ができ、男女の性別の壁を大きく超え始め、世界はやがて男性が絶滅し、女性のみの世界へと変わっていった。
五十年後。
丘からギブロン街を眺める美しい老人が一人。
「アメリアさん?」
「エラさん」
「またここだったんだね」
「ええ。何故かここにいると、懐かしいんです」
「ふふっ。私もそうです。ここにくると――――ご主人様に近づけた気がします」
「ご主人様…………とても懐かしい言葉です。私達にご主人様は本当にいるのでしょうか」
「います。きっと。だって、そうじゃなければ、世界はこんな住みやすい世界には変わらないと思いますから」
「そうですね。きっとこれもご主人様のおかげかも知れませんね」
「ふふっ。それにアメリアはご主人様らしい方に一回会っているんでしょう?」
「よく覚えてましたね」
「もちろんです。貴方がギブロン街のスラム街から離れたがらないのは、そういう理由なんでしょう?」
「ふふふっ。その通りです。いつかあの方が来てくれる気がして…………とても優しい瞳をした青年でした」
「あの堅物で有名なアメリアさんが、ここまで惚れていますからね。やはりご主人様だったと思います」
二人は懐かしむように、丘の上からギブロン街を数時間眺め、ギブロン街へと進んで行った。
◇ ◆ ◇ ◆
真っ白な世界が広がっていて、何も感じる事ができないまま、前を眺め続ける。
その時、俺の手に触れる優しい感触があった。
「お兄ぃ?」
「莉愛。ここは?」
「えっとね。世界の中枢?」
「異世界のままなのか?」
「うん!」
「そっか。何となくだが、ここでずっと生き続ける事になるのか?」
ここの雰囲気は何となく…………あそこに似てるからな。
「よくわかったね。えっと…………一応、私一人で頑張るつもりだったんだよ?」
「知っている。それを知ってたから、わざと付いて来たんだ」
「…………」
目に大きな涙を浮かべる莉愛に向かって両手を広げる。
「お兄ぃ!」
真っすぐ飛んで来て、俺の胸に飛び込んでくる。
もう何年も感じた事がない莉愛の感触に、心の底から涙があふれた。
助けたかった妹を助けられず、家も崩壊して生き延びるためにブラック企業でも必死に働いてきたのもあり、生きている彼女に出会えたのが何よりも幸せに感じる。
「やっと…………やっとお兄ぃと会えた!」
「そうだな……ありがとう。また俺の……妹に戻って来てくれて…………ありがとう」
「ううん。むしろ、先に……行ってしまってごめんなさい」
「それは言わない約束だぞ? それに全てグリモワールのせいなんだから、莉愛のせいじゃない」
「…………うん。お兄ぃ? ずっとこの世界で私と過ごす事になるけど、本当によかったの?」
「もちろんだ。それにな。俺達
「えっ?」
驚く莉愛に、俺は笑顔を見せる。
そして、両手を広げた。
「おいで。俺の――――――守護眷属達よ」
俺の周囲に6つの光があふれ出し、人の形を成した。
「みんな。来てくれたんだね」
「主様。私はどこまでも主様とお供します」
「マスタ~☆ 私もだよ☆」
「ご主人しゃま~私も~」
「ますたぁ……大好き……」
「お兄ちゃん。僕も一緒だからね?」
「主。離れません」
「みんな…………ああ。これからもよろしく頼む。それと紹介したい人がいる。俺の妹でもあるが、守護眷属の一人だ。名は――――――
「リアです。お兄ぃの妹なんですけど…………えっと、独り占めするつもりはありません! アメリアちゃんのように頑張りますので宜しくお願い致します!」
深く頭を下げるリアに守護眷属達は笑みで出迎えてくれた。
すぐにご主人様の妹さんなんだ~と嬉しそうに寄ってたかってリアの頭を撫でたりする。
最初は驚いていたリアも、みんなの暖かい迎えに嬉しそうな笑みを浮かべて喜んでくれた。
「リア。この世界なら地上を変えられるのか?」
「うん!」
「そうか。では変えていきたいモノがある」
「ふふっ。アメリアちゃん達ね?」
「そうだな。彼女達も間違いなく俺の眷属である事に変わりはないからな」
「マスタ~☆ アメリアちゃんも喜びます☆」
「より世界をよくしていこう」
それからアスとリアがこう変えたいだの、ああ変えたいだの、世界をある意味
そんな世界を、俺は眷属達と妹と共に未来永劫見守る事にした。
もちろん、毎日彼女達
――――【完結】――――
【ダンジョンに堕ちた転生者は二度と社畜はごめんなので、拾ったダンジョンコアでスローライフを送りたい】を最後まで読んでいただきたい、心から感謝申し上げます。
作者初めてのダンジョン物であり、ダークファンタジーであり、実は初エロあり作品だったりします。(別作品でエロありの作品はありますが、そちらは10万字で完結していて、こちらの作品の方が先になります)
最初の段階の構図から、もっとこうしたかったという部分があるのはあったのですが、ダンジョン物とダークファンタジー物とエロ物を初めて書く+ミックスしてしまったがために設定を増やし過ぎた!と慌ててしまって…………結果的にいくつかの部分を削って書きました。この点だけは心残りで、いつかしっかりとした物を皆様に提供できるように、これからも沢山書いて、経験値を貯めていきたいと思います。
皆さんにとって、この作品はどういう作品でしたか?
作者としては、非常に楽しい作品でして、自分が好きなモノを詰め合わせたような作品で書いててとても楽しかった作品となりました。
日々沢山のコメントをくださり、毎回投稿が楽しみで、今回はどんなコメントがくるか楽しみで仕方がなかったです。
ある意味、それも今日で最後だと思うと寂しいモノを感じてしまいますが、始まりがあれば終わりがあると思って創作を続けているので、これからもまた皆さんに読まれるような作品を作っていきます。
もし、この作品が思い出になったのであれば、ぜひおすすめレビューコメントにて、★と共にこの作品を知らない誰かに伝えてくださると嬉しいです。
作者の御峰は、ここまで長編を複数書き終えていて、これからも連載作品を沢山出していきますので、ぜひ覗いてくださると嬉しいです。
では最後になりますが、ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
またどこかでお会いしましょう! それではまた!
ダンジョンに堕ちた転生者は二度と社畜はごめんなので、拾ったダンジョンコアでスローライフを送りたい 御峰。 @brainadvice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます